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20.ミュラーの辿り着いた花園
しおりを挟む意識を取り戻した僕が一番に目にしたのは、泣きそうなジルの顔だった。
「ミュラーさん……!」
端正な顔をくしゃっと歪めている彼を見て、不謹慎ながらも僕は安心してしまったのである。
これだ。
この人だ。
外見だけなら水鏡の下位精霊も同じ姿になれるが、そうではなくて、この中身を伴っているジル本人がいい。僕は「ジルが好きだな」と、改めて自覚した。
「ジル、お待たせ」
「……っ、待ってましたけど、気絶するまで無理してほしくありません!」
「あー、気絶かぁ。てっきりデスペナ入ってログ間送りかと思ったんだけど……1回で辿り着けて良かったよ。心配かけてごめんね?」
「どこも異常ありませんか?」
「状態異常無し、ステータス減少無し、体力満タン。元気です!」
僕は上体を起こした。
ジルはまだ眉間に皺を寄せていたが、僕がいつも通りなのを確認すると少し気が休まったようだ。
「ここが花園?」
僕は視線をキョロキョロさせた。
上空には青空、周囲には今が盛りと言わんばかりの草花達。
色んな種類の植物があり、中にはムービーで見た、精霊がいる場所に生えるという『ハツヒノハナ』の花もあった。
妖精の姿をした下位精霊達がわんさか飛び回ったり寝転んだり、自由気ままに過ごしている。花園というより楽園、極楽浄土のような様相だ。
僕が寝ていた場所は地べたではなかった。
言うならば、植物でできたベッド。
両手で花を作った時のような形に枝や蔦が伸びており、掌の部分は綿が敷き詰まっている。
このベッドは一つではなかった。
愛情込めて造られた花壇のように、適度な間隔を開けて、ベッドは何輪も咲いている。
僕達の他にPCはいないが、大人数のパーティーでも受け入れ可能なのだろう。
その中で、毛色の違う花があった。
いや、花木に似せたコーデをしている彼女は。
「花の精霊フローラ……」
ムービーで見た時よりも、オーラがあって一層美しいが、彼女は変わらぬ微笑みを浮かべていた。
「うふふっ。はい、わたくしが花の精霊フローラですわ。ようこそお越しくださいました、わたくしの『花園』へ。貴方様を歓迎いたしますわ」
フローラは優雅に会釈をする。その仕草は完璧で、僕はまさか彼女が「この方が彼の想い人なのね!」とはしゃいでいるとは微塵も気付かなかった。
「ミュラーさん、本当に来てくれたんですね……」
ジルが心底感激したような声を出す。
8合目をソロで突破し、隠し条件を満たしてこのイベントエリアへ到達する。
それはこれまでの経験をもってしても大変な道のりだったが、「ジルの元へ行く」という情熱が不可能を可能にした。
「言ったじゃん。『絶対そっち行くから、期待して待ってて』って」
僕は立ち上がり、まだ名残惜しそうに僕の腕を支えていたジルの手を握り返した。
ジルの大きな手。温かくて、少しだけ緊張で強張っている。
……さて、再会の喜びを噛みしめるのはこれくらいにしよう。
僕達は今、絶賛「監禁中」なのだ。
脱出条件は、以前精霊フローラが教えてくれた通り「PC同士のセックス」。
「精霊フローラ。ジルは返してもらうよ」
「ええ、貴方が本当に迎えにいらしてくださるなんて、わたくしも彼のことのように嬉しいわ。わたくしたち精霊は、貴方がたの愛ある営みを何よりも祝福いたします」
祝福ね。
要するに、精霊の同席は強制オプション。気にせずに、早く始めろってことだ。
周囲を見渡せば、キラキラした瞳の下位精霊たちが、今か今かと僕たちの動向を伺っている。
「ジル」
「は、はい……」
「……やろっか。セックス」
自分で言っていて、顔から火が出そうだった。
今まで散々「効率」だの「ボーナス」だのと言い訳してきたけれど、今の僕にあるのは純粋な下心だ。
ジルを独占したい。
RPGはつよつよなのに、妙な所で押しに弱く不器用。だけど、時折、真っ直ぐに僕を求めてくるこの男に、僕は自分の全部を捧げてみたい。
僕はインベントリを開き、身に付けていた防具を解除した。
いつものスケベ防具が取り払われて、曝け出されるのは、ほぼ全裸同然の下着姿。
手や肩を覆うものは何もない。防具をつけている時には無かった、ネイビーの平たいリボンが一本、胸部を横切って乳首を隠しているだけ。
背後はTバックが食い込んで、お尻を余計に強調している。
「……っ……!」
ジルの喉が鳴るのがわかった。
期待に満ちた、熱い視線。
彼は僕を求めてくれている。それが分かって、僕の胸は高鳴った。
「……ミュラー、さん」
ジルが僕の肩に手を置こうとした、その時だった。
ふと、ジルの動きが止まった。
彼の紫と金のオッドアイが、何かに釘付けになっている。
僕の顔……ではなく、僕の頭上に浮かぶシステムウィンドウを見つめているようだった。
「ジル? どうしたの?」
「……ッ、ミュラーさん……。……本当は、嫌なんですね?」
「えっ?」
ジルの声は、一瞬で氷のように冷たくなった。
いや、冷たくなったというよりは、激しい落胆と、自分を無理やり納得させようとする悲痛な響き。
「分かっていました。ミュラーさんは、一生童貞処女でいたいって……。俺のせいで、無理な約束をさせてしまった」
「は? ちょっと待って、何の話?」
僕は混乱した。
操を守る覚悟なんて、生まれてこの方したことがない。僕が童貞処女なのは成り行きだし、今だって僕はやる気満々で、ジルのモノを受け入れる覚悟は既に決まっているというのに。
「……そのアイコン。それが、ミュラーさんの気持ちなんですよね?」
ジルが指差したのは、僕の頭上にある表示。
そこには、気にも留めていなかった「×」のマークが点灯していた。
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