ネオ・ヴァラニア 〜アナル開発すると魔法が強くなるMMOで

なエタそ

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3.ナンパ男。名前はまだ無い

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 ゲーム内で一夜、リアルでは3時間が経過した。
 今までで一番長く、一番楽しいチュートリアルだった。
 撮影した2D動画は「公開」と「販売」の両方で投稿しておく。物は試しだ。
 差をつけるために、「公開」よりも「販売」の動画の方が、尺が長い。
 おまかせ編集を選択したので、執事フェニエが良い感じに編集してくれた動画が売られる筈である。収入の足しになれば嬉しいなぁ。

「店長、ありがとうございました」
「お世話になりました」
「おう、またよろしくな」

 場所を貸してくれた店長にお礼を言って、また街へと繰り出す。
 僕達はそのつもりだったのだが……。

「そこの兄ちゃん達!」

 突然、声をかけられた。
 プレイヤーだ。
 『ネオ・ヴァラニア』はPCとNPCの見分けが難しいと言われているが、実はコツがあって、慣れるとネームタグやアイコンを見なくても勘で分かる。
 日に焼けたような茶色い肌。40歳くらいを想定してキャラクリをしたと思しき人間の男性だ。
 筋骨隆々と言うに相応しいガタイの良さだが、大きな垂れ目を配置した顔は童顔寄り。

 壁際の6人席テーブル。片側3人掛けの長椅子に男の子2人を侍らせて占拠していた男が、立ち上がって僕達の方へ近寄ってくる。
 
「兄ちゃん達、随分と可愛いじゃないか! こっちのテーブルへおいで、ご馳走様するよ?」
「いえ、結構です」
「そんな事言わないで、ほらこっち!」

 男は僕の肩にガバリと腕を回してきた。
 ナンパにしても、もっと手練手管があるだろうに。

 僕はあからさまに嫌な顔をしたが、男は気にせず僕を引っ張っていこうとした。

 男の白いシャツは上3つのボタンが開いており、厚い胸板が惜しみなく晒されている。
 対して、ズボンはタイトめの黒。ベルトのバックルの金色が、まるで性欲の強さを強調するかのようにギラリと煌めく。
 髪色もそれと同じ金色をしていた。

 テーブルを見ると、乗っているのは酒とツマミだけで、ちゃんとした料理は無い。
 長椅子に座っていたニアマンの男の子達は、僕と同じように嫌そうな顔をしており、「失敗した」と言わんばかりだ。
 他のテーブルの客も口には出していないが、ナンパ男に対して「迷惑だ」と全身で語っていた。
 気楽に楽しみたい客層とも、治安の良さそうな店の雰囲気からも逸脱しているし、当然だろう。

 執事フェニエは何も言わずに、僕の半歩後ろに控えている。

「見境なくナンパするとか、どうなの。同じプレイヤーとして恥ずかしいんだけど?」
「えっ!? 君、プレイヤー!?」
「ネームタグとアイコンくらい確認しなよ。PC、NPC無差別に声掛けるとか、本当にどういうつもり?」

 R18MMOと聞くと、淫らな乱痴気騒ぎをするような、無秩序な様を想像する人は一定数いる。

 しかし、実際のところどうなのかというと、R18目的のプレイヤーは自分の好みや趣味嗜好がハッキリしており、無作為に声をかける事はまず無い。

 最短でエロに至りたいという人の欲望は凄かった。
 数打ちゃ当たるといった無駄を省く為、数多のR18MMOを経て、プレイヤー達は自然と紳士淑女の礼儀を身につけ、共通のマナーを構築したのである。
 それは『ネオ・ヴァラニア』にも通ずる。

 僕はナンパ男を椅子に押し付けるようにして座らせた。
 男の方が、僕よりも背が高かった。185センチくらいはあるだろう。
 その男を、僕は自分が立ちっぱなしでいる事で、見下ろす。
 だが、男は僕の視線にも動じず、笑みを浮かべた。

「オレはハーレムが作りたいんだ。綺麗所の青少年とガチムチのオッサンとか、最高だろう? ねぇ、みんなでセックスしようよ。楽しい夜を約束するからさ」
「今は朝だよ。それに、そういうプレイは専用のお店へ行くのがマナーだろ。そうじゃないなら、相手と信頼関係を築いてからにするべきだ。プレイヤーは勿論、NPCであるニアマンともね。チュートリアルを聞いてないの?」
「えっ? チュートリアル?」
「……は?」

 ナンパ男から素の声が響き、つい僕も素頓狂な声が出た。

「もしかして、チュートリアルを飛ばしたの?」

 R18MMOの常識も知らないのに、チュートリアルをスキップするか?

 変だと思った。
 このプレイヤー、ただの男ではないな。
 青少年を侍らせてハーレムを作りたいという発言に嘘は無さそうだが、中の人がナンパし慣れていないのは間違いない。
 少なくとも、R18MMOの経験は乏しいだろう。
 それなのに、何故そんな発想に至ったのか。

「最初にログインした時、ログ間のNPCが『案内』を申し出てくれただろ? あれがチュートリアルだよ」
「えっ!? あれって、そういう事だったの? えっ、じゃあ、貴方の後ろに居るのはログ間のNPC!?」
「そうだけど」
「ウソ!? わたしのログ間と全然違う!!」

 一人称が「わたし」かぁ。
 中身出てますねぇ、これは。

 僕は全てを察した。
 昔、クラスメイトにこういう女の子が居たのを思い出した。
 彼女もこの男と同じような欲望を語っていた。
 男になって男を侍らせる、その様子を側から見たい。
 そう語っていた彼女は、俗に言う、腐女子。

「ログ間のNPCは、プレイヤーの好みに寄せてくれるみたいだよ? なんなら、チェンジも出来るって。君の所は、どんな子なの?」
「小さいドラゴンの子供よ。3頭身で、本当に可愛いんだから!」
「ふぅん、どうして案内を断ったの?」
「あんなに可愛くて小さい子に、色欲塗れの街を案内させられる訳ないでしょ! しかも、ガチムチイケオジの隣で連れ回すなんてあり得ないっ、絶対無いっ! 魔法少女のマスコット的な小動物を連れたオッサンが発展場にいたらどう思う? 動物愛護法違反! イケオジ保護法違反! わたしの理想のオジショタとは違うの!」
「あー、分かったから、ちょっと落ち着こうか。店長さん、お水貰える?」
「ミュラー様、私がお持ちいたしますよ。それと、其方の方のお話ですが、小さいとはいえドラゴンですから、実力は確かです。ましてやログ間を任されているのなら、かなり経験豊富な高齢の筈ですから、今仰った希望をお伝えすれば、人化すると思いますよ」

 執事フェニエの言葉に、ナンパ男は目玉が飛び出るくらい驚いていた。
 気持ちは分からないでもないが、子ドラゴンの言葉にも、それくらい耳をかっぽじって聞いて欲しかったなぁ。

「わたし、もしかしてやらかしちゃった……?」
「まぁ、うん。今から直せば良いんじゃないかな? 口調も今ならまだ間に合うよ。それとも、もう自キャラのイメージ忘れた?」

 ナンパ男の正体は、ショタコン腐女子(暴走の姿)。
 元クラスメイトの女子と全く同じ生態だ。
 「そうだよね?」と僕は尋ねなかったが、目の前の人物は勝手に「そうです」と自白した。

「誕生日にサービスリリースで、テンション上がっちゃったんです。すみません……」
「18の誕生日?」
「はい……」
「それは良かった。アンダーだったら、通報ものだからね」
「ひえっ」

 執事フェニエが水を持ってきたので、萎びたナンパ男に飲ませる。

 ついでに、フェニエにはもう一つお使いを頼んだ。
 居合わせてしまった皆様に、迷惑料という名のお酒を奢るお使いだ。
 お金は当然、僕持ち。
 僕達の分も頼む。

「落ち着いた?」
「……はい。一度ログアウトして、ログ間の子としっかり話をしてきます」
「それが良いね。チュートリアルを受けるのは当然として、気になる事とか知らない事とかも、質問したら大概答えてくれるから、何でも聞いてみると良いんじゃない?」

 『ネオ・ヴァラニア』のNPCは基本的に友好的だが、ログ間のNPCはより顕著な気がする。
 うちの執事が特別と言うよりは、ログ間のNPCは皆、特別なのだろう。

「ありがとうございます。今日は本当にご迷惑をお掛けしました……」
「いいよ。僕は大丈夫だから、皆に謝罪しとこうか」

 丁度、グラスが行き渡った所だ。
 お客さんが少なかったのは、不幸中の幸い。
 皆、僕達の会話を聞いて、ナンパ男が悪質な者ではないと気づいたらしい。
 ハメを外し過ぎた反省をしていると察して、早々に許してくれたようだ。
 中には憐れんだり、揶揄いの目をナンパ男に向ける人もいる。
 僕はナンパ男にグラスを勧め、自分もグラスを掲げた。

「皆様、ご歓談に水を差し、誠に申し訳ございませんでした」
「もっ、申し訳ございませんでした!」

 僕の音頭に続いて、ナンパ男が謝罪する。

「では、皆様の寛大な御心に感謝すると共に、誕生日に浮かれて酔っ払った独り身のオッサンに、乾杯!」
「「「乾杯!」」」

 誰からともなく拍手がおこり、「誕生日おめでとう!」と声が飛ぶ。

 『ネオ・ヴァラニア』は良い世界だ。
 NPCであるニアマン達は生身の人間以上に、温かい。
 ナンパ男は全方位に何度も頭を下げていた。
 誰もいない、ただの壁にも謝罪していたのには、つい笑ってしまった。

「ミュラー様、自費で宜しかったのですか? チュートリアル中の出来事なので、私にお申し付けくだされば、経費で落とせますが」
「いいよ、いいよ。フィールドに出れば、お金は稼げるからさ」

 店を出てから、執事フェニエとそんな話をした。

 それより問題は、ガチ初心者なのにチュートリアルを受けもせず、チュートリアルの存在を知りもしないプレイヤーがいた事ではないだろうか。
 チュートリアルをスキップするのは個人の自由だが、NPCの対応差によってプレイヤー間の情報格差が広がるのは如何なものだろう。
 そんな感想を述べると、執事フェニエは「上奏しておきます」と畏まった。

 街へ買い出しに行くつもりだったが、何だか疲れたので僕もログアウトして休む事にした。

 ログアウト時には、『ネオ・ヴァラニア』内で適用していた感度設定が解除される。
 それと同時に、徐々に現実の感覚へと戻す「クールダウン」を行う。

「[即イキ]スキルを満喫したプレイヤー様が、現実に戻られた後も、同様の感覚で性行為に励んでしまうと大変ですからね」
「何それ、怖すぎる。クールダウンは念入りにお願いします」

 僕の場合は、痔が永遠に治らなくなってしまうじゃないか。
 それだけは勘弁願いたい。

 恭しく頭を下げた執事フェニエの姿を最後に、今日の『ネオ・ヴァラニア』ダイブは終了だ。
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