ネオ・ヴァラニア 〜アナル開発すると魔法が強くなるMMOで

なエタそ

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10.柄を見つける

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 武器屋には、隣接して防具屋もあった。

 元は武器屋だが、暖簾分けして防具屋を開いたのが数代前の話だとかなんとか。
 店舗裏の試験場などは共同利用らしいし、今は平屋の隣同士、仲良くやっているそうだ。
 
 とりあえず武器屋。
 流石に武器は初期装備ではなく、魔法攻撃の威力が上がる物に買い替えてはいたのだが、近接戦闘用にダガーやショートソードがあってもいいなとは思っていた所だ。

「あまり重い物は使いこなせないし、嵩張っても魔法攻撃スタイルに支障が出るからなぁ……」
「レイピアとか、刺突武器はどうですか?」
「完全ソロならそれも有りだけど、これからジルと山登りの予定だしな。僕が前に出たら足を引っ張るのが目に見えてるし、防具にもお金を回すとなると予算がキツい。それならサブウェポンは諦めて、メインの魔法杖をもっと良い物にするか、今回は防具だけに専念したいかな」
「そっ、そうですね……」
「うん」
 
 色々見たが、店頭にある武器でピンとくる物がない。三節棍や鉤爪など特殊な武器もあるが、どれも前衛職の為のメインウェポン。そもそも僕の様な魔法職向けの店ではないのだろう。
 諦めて防具屋へ行こうかと思った時、ジルがカウンターで足を止めた。

「その棚にあるのは何ですか?」

 陳列棚ではない、物が雑多に置かれたカウンター奥の棚。
 肝心の刃は付いていないのに、鍔とグリップ部分から柄頭までが揃った、剣の柄が置いてあった。

「ああ、これか? ゲテモノだよ。良く言えば『魔法剣』だが」
「魔法剣?」

 店員は柄をカウンターに置いた。
 銀色の光沢が美しい柄は、とても粗悪品には見えず、柄頭にも黄金色の宝石が嵌め込まれている。

「魔法剣は存在しない筈では?」

 そう、『ネオ・ヴァラニア』には魔法剣が存在しないというのが通説だ。

 剣だけでなく魔法武器という物が存在せず、あくまで物理攻撃は物理攻撃力ATKでダメージ算出がなされる。

 『ネオ・ヴァラニア』では、「魔法剣士」は「剣を使うが、魔法も使うプレイヤー」であり、「魔法属性の剣攻撃をする剣士」は存在しないのだ。

「ああ、だからこれは『魔法を剣型にする触媒』さ。良く言えば『魔法剣』、正確に言えば『柄型魔法杖』だな」

 こんな物を使う戦士はいないと店員は笑ったが、僕は食い入る様にその柄を見つめた。

「ちょっと持ってみてもいい?」
「なんだ、別嬪なあんちゃんは魔法使いか。いいぜ。使い方は魔法杖と一緒だが、剣身から魔法を撃とうとすると『魔法剣』にしかならない」
「柄頭から撃てば、普通の魔法が撃てるんだね?」
「そうだ。オレにはさっぱりだが、やっぱり魔法使いには分かるもんなのか?」

 柄を持つと、杖を持った時と同じ感覚がした。「魔法が使えますよ」という感覚だ。
 ホロウィンドウを開けば、明文化もされているが、慣れたら目で見るまでもなく分かる仕様になっているのである。

 そして、それとは別に、実際に魔法を発動しようとする時には「魔法が発動しますよ」という感覚がした。
 面白い事に、この感覚には「遊び」の様な猶予があって、「魔法を使用しているけれど、魔法が発動されていない」状態をキープできる。
 すると、いざという時に初撃の出を早くできる……という小ネタは、今は置いておいて。

 その「遊び」の終わりは、魔法の発動起点となる。
 杖の場合は杖の頭付近なので、杖の頭から魔法が発射されるが、この柄は「遊び」の終わりが2箇所ある。
 柄の剣身側と柄頭、2箇所。

 僕は手が震えそうになるのを必死に我慢した。

 魔法を2つ同時に使えるかもしれない。

 魔法剣を振りながら、別の魔法を発動出来るかもしれない。

「魔法剣……、ビームソードか。格好良いね。ミュラー、使えそう?」

 僕は無言で頷いて、魔法剣を起動した。
 魔法名を口にせずとも、白い光が集まって剣身を形作る。
 ジルも店員も、勿論僕も、完成された1つの美しい剣に見惚れた。

 凄い。
 これ、自分で刃渡りの長さを調整できる。
 ステータス上、魔法触媒としても、今使っている物より性能が良い。

「僕、買います。幾らですか?」
「55万だ」

 雑に置いてあった割に高い。
 性能からすれば安いのかもしれないが、飛んでも跳ねても30万までしか出ないんだ。
 くっ……、セールだからってアダルトグッズを買い漁ってさえいなければ……っ!

「防具も買うから、半分にならない?」
「40万」
「持ち合わせがないんです! お願い、ロバタさん! 無理言ってるの分かってるんだけど、僕の全財産30万なの。何とか出来ませんか?」

 ネームタグを確認した。30代くらいの男性店員さんは、ロバタさんというらしい。
 両手を胸の前で握り、うるうると涙目で彼を見つめてみる。
 ……手応えはあるが、泣き落としで駄目ならどうしようかなぁ。身売りか?
 出来れば身売りはしたくないし、正直身売りをしてもモンスターを狩っても、収入は大差ないんだよな。
 
「うーん、買い手のいない物だし、売ってやりたいのは山々なんだが……」
「製作者は? 型落ちでもいいので!」
「うちの作品じゃないんだ。随分と昔に買い取った物で、出所は不明だよ」

 マジかー。高値で買い取ったのなら、安くは売れないか。
 でも次の入荷が無いとなると、僕も諦めたくないな。
 踏ん切りがつかない僕を見かねてか、ジルも口を開いた。

「あの……、親方は居ますか?」
「奥に居ると思うが」
「俺が最初にやらせてもらったアレ、ミュラーも駄目ですか?」
「アレをか? 親方が良くても、このあんちゃんには無理だろ」

 アレって何だ、アレって。
 ジルが加勢してくれるのは凄く有り難いけど、僕の知らない条件だと不安になるぞ。
 バイトか? 闇バイトなのか?
 そうこうしている内に、呼ぶまでもなく、奥から親方が来た。

「アーハッハッハッ、やらせてやれよ、ロバタァッ!」
「親方!」
「お世話になります、親方」
「は、はじめまして、親方さん。ミュラーです」

 親方は背が低く恰幅の良い髭面という、いかにもドワーフ然とした職人だった。
 作業着のままで、日に焼けた首元にタオルを引っ掛けている。

「おうよ、ミュラーちゃん。試験場に来な!」
「え? え?」

 がっしりと親方に腕を掴まれる。
 困惑する僕、これで解決と言わんばかりのジル、また親方の悪い癖が始まったと諦め顔のロバタ店員。
 
「アレって何ッ!?」

 せめて教えて?!
 叫びも虚しく、親方に引きずられていく僕に、誰も説明をしてくれなかった。

 



 試験場。
 説明するより実際に見た方が早いと言われて、僕は試験場に立たされていた。

 隣にはジル。
 親方が手を上げて合図をすると、ロバタ店員が試験用の的を出現させる。

「的を全て壊せたら武器を無料で譲っていただけるというミニゲームですね」
「ゲームじゃねぇ、試練だ!」
「武器がタダで貰える試練……」
「試練じゃなくて無理ゲーだろ」
「黙ってろ、ロバタァッ!」
「はいっ!!」

 的は、大、中、小の3種類。
 正面の地面に接した位置に大が2枚、中が四方八方ランダムに10枚、同様に小が空中に10枚の、合計22枚。
 試しに的を攻撃させてもらったが、的は大きいほど耐久値が高くなっている。

「え、ジルはこれをクリアしたの?」
「はい。俺も金が無かったので、非常に助かりました」
 
 その時に貰ったと言って、真新しい直剣とラウンドシールドを取り出す。
 親方に「手本をみせろ」と言われたジルは、数歩前に出ると剣を構えた。

 呼吸を整えてから、ジルは動いた。
 深く踏み込み、近場にある中サイズの的を連続して真っ二つにする。

 途端に、的が動いた。
 モンスターの群れを想定しているのだろう。前後左右に移動しながら、軌道を逸らすターゲットたち。
 だが、ジルは常に全ての的の位置を把握し、正確無比にそれらを壊していく。
 これが実戦だったとしても、ジルがモンスターに囲まれて致命傷を負ったりしないだろうという立ち回り。

 空中の的すらも問題にせず、ジルは難なく全ての的を捌き切った。
 ジルが剣を鞘に戻すと、親方は「時間内だ」と満足そうに頷いた。

 僕とロバタ店員は遠い目をしていたと思う。
 大変なものを見てしまった。
 近接武器でこの成績は、僕には無理だ。

「ミュラー、いけそうでしょう?」

 ジルにそう問われた僕の回答は…………。

「魔法剣を使って良いなら、温ゲーだよ」

 親方とロバタ店員がピシリと固まる。

「魔法を使って良いなら走る必要も無いけど、本当にこの条件で魔法剣を貰って大丈夫なの?」

 近接武器でないのなら、きっとジルより好タイムを出せるだろう。魔法は射程距離が長いし、追尾性能のある魔法も会得している。
 加えて、試験場は遮蔽物の無い屋外。
 今回のような条件なら、障害物は無い方がやりやすい。

 だが、親方は僕の発言をビッグマウスと受け取ったようだ。

「おうおう、ミュラーちゃん! そうまで言われちゃこっちも黙ってらんねぇな! 大言壮語に偽り無しとなっちゃあ、武器でも防具でも好きに持ってけってんだ!」
「えっ、マジ!? やった、じゃあ魔法剣と防具を一式お願いしますっ!」

 防具まで貰えるとなれば、僕も自重などしていられない。
 売り言葉に買い言葉の様なテンポだったが、前言撤回される前に、僕は魔法剣の柄を手に意気込んだ。

「いつでもどうぞ!」

 僕が構えると、やっちまえっと親方の声が響く。
 それを合図に、ロバタ店員が的を出現させた……と思ったら。

 的は形を変え、モンスターの姿になった。
 大的と中的は狼型のモンスター、空中にあった小的は鳥型のモンスターになり、僕を敵視している。
 これは予想外だ。

 予想外に、もっと

 ちらっと見ると、ジルは全く驚いていないようだった。
 そこから察するに、ジルの初回の時も、的がモンスターに変わるパターンだったのだろう。
 近接で22匹を相手にするとか鬼の難易度だと思うけど、ジルにとっては「ミニゲーム」らしいから震えるわ。

 では、ジルに顔向けできるよう、僕もしっかりやりましょうかね。

「『遅光ディ・レイ』」

 これは小ネタ技。発動までの遊びをなくして魔法の出を早く出来る技術を用いて、わざわざ発動と着弾までにタイムラグのある攻撃魔法を使用する。
 今は僕の周りに光の玉が浮かんでいるが、一定時間が経過するか、次に発動した魔法に当たり判定が出た時に、ターゲットに光線攻撃をするものだ。

「『点々光々トゥート・ハイレイ』」

 次いで、発動までの時間が断トツで短いが、射程の無い設置型の魔法を展開。光は地面に吸い込まれて消えたように見えるが、僕の正面以外を、魔法の地雷原にしたのだ。
 的さんの方から来てくれるのなら、走るばかりか動く必要すら無くって、ベリーイージーだね。

「『かの御光イル・ハイレイ』」

 後は、自分が火力の高い固定砲台になればいい。
 狼の群れが僕に襲い掛かろうとこちらへ飛び込んで来ただけで、あら不思議。

 使用した3つの魔法が同時に、狼達を覆い尽くす。
 中は地雷で確1、地雷を当てさえすれば獲れる的。
 大は固定砲台だと確2だが、『遅光ディ・レイ』のオマケ付きなので、こちらもこの攻撃で落とせる。
 試し撃ちさせてもらった時に、しっかりダメージ計算はしましたとも。モンスターになっても、的と変わらない耐久で安心したよ。
 さて、残るは鳥型モンスターだが。

「いらっしゃい」

 向こうから来るというのだから、手間が省ける。
 鷹のように僕に向かって急降下してくるその線上に、魔法剣を置いておくだけで良い。
 剣の形をしている魔法なのだから、剣を振る必要も無い。

 そして、魔法の癖に再度魔法を起動させる必要も無く、リキャストタイムなども存在しない。
 柄から伸びる美しい光の刃に吸い込まれるようにして、小的の鳥達は半分に切り分けられて、消えていった。
 撃ち漏らしなく全ての的が消えたのを確認し、僕は魔法剣の剣身を解いた。
 柄だけを持っている状態だと、他人からすれば此処でどんな戦闘があったのか想像もつかないだろうなぁ。

「…………」
「…………」
「ミュラー、お疲れ様」
「ありがとう。剣だけでは出来る気しないけど、魔法を使って良いのならどうとでもなるね」
「ミュラーなら慣れれば剣だけでクリア出来るんじゃないです?」

 どうかな。
 今ではすっかり魔法に慣れてしまったし、なんだかんだ魔法を使うのは楽しいからなぁ。

「あ、ありえん……。い、いや、プレイヤーは皆、そうなのか……? いや、そんな筈は……」
「博愛の美貌精霊みたいな見た目なのに、実力は過激なんだなぁ……。親方、もうこれで最後にしやしょうぜ……」

 親方が呆然と呟く。
 ロバタ店員の口振りからするに、親方はよっぽど常習犯だったのか、僕達以外にも試練を課していたようだ。
 事前の口約束はしたが、無料でとなると申し訳なさは感じる。随分と、僕に有利な設定だったし。

「あの、30万までなら出せるから……」

 全財産なので、それ以上は無理だが、出せる分は出そう。
 そう提案したが、親方は表情を一変させて憤慨した。

「馬鹿言っちゃいけねぇぜ、ミュラーちゃん。男に二言はねぇっ! ロバタァッ!」
「はいっ! すぐに手配しやす!」

 そして、僕達は防具屋へと案内されて、魔法剣の柄とオススメの防具一式を貰ったのである。
 ジルの装備と同じく、モンスターの素材を使ったハイレザーの防具だ。

 本当に助かる。
 貰いっぱなしは申し訳なさすぎるので、今度買い替えたりする時もこの店に来ようと心に決めた。

 本当に有り難いのだが、ひとつだけ気になる点があって。

「……この防具、エッチだね?」

 ジルも顔を真っ赤にして口を噤んでいるから、きっと間違いない。
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