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12.ミュラーは言ってない
しおりを挟むさて、僕とジルはオッキ活火山の5合目に来た。
ずっと来てはいたんだけど、取り込み中だったからさ。
山小屋を出ると、5合目だという実感が湧くよね。
ジルが先行し、僕は彼の後ろに続く。
登山道といっても、観光登山の為に整備された道ではない。自然災害やモンスター被害を抑える為に最低限の手入れだけされた道は、麓の方は道幅も広く土が均されているが、5合目にもなると場所によっては全面が葉に覆われている。
道無き道だが、ジルは警戒しながらも迷わずに進む。
「2時方向、ベリルスネーク1」
ジルが合図した方向の木の上には淡緑色をした蛇型のモンスターが居た。
ベリルスネークは、人の胴くらいの太さがある胴体を、木の幹に絡ませて休んでいる。
距離があるのでまだこちらには気付いていないようだが、知らずに真下を通れば、遠慮なく襲われていただろう。
「僕が」
自分が先制すると宣言して、柄を構える。
……柄を構えるって変な表現だな。
でも、今は魔法剣としては使わない。とりあえず魔法柄とでも呼ぶか。
「『遅光』、『風刃光』」
風刃光は、端的に表現するなら鎌鼬だ。
初期魔法『風光』の強化版で、使用した魔法が即時に標的位置に出現するのが特徴。なので、プレイヤーの手元から伸びるビームと違って、遮蔽物があっても敵に当てやすい。
これをベリルスネークに放つとどうなるかというと。
ベリルスネークの体に纏わりつくように細かい光がキラキラと輝く。
知っていれば剣筋に見えるが、視力の弱い蛇は、まだ僕達にも、僕の攻撃にも気付いていない。
刹那、スパッと蛇の首が落ちた。
「あっ」
続いて、ベリルスネークの胴体側にスパパパッと裂傷痕がつく。
やっちゃったと僕が思ったのも束の間、別の魔法がヒットしたのを引き金に、遅光が発動し、ベリルスネークに追撃を加えた。
光攻撃魔法と共に、光の粒子となり消滅するベリルスネークの頭と体。
「オーバーキルかぁ」
「オーバーキルですね。奥にも、もう1匹。今度は俺が」
今の騒動で異変を察知したのか、11時方向の木からベリルスネークが地面に降りた。
僕達に気付いたのだろう。ベリルスネークは口を開いてシャーッと威嚇の姿勢。
ジルは盾を構えながら歩を進める。
ベリルスネークが勢いよく飛び掛かり、ジルに噛みつこうとするが、ジルは冷静に盾で受け流すと、そのまま蛇の横へと踏み込み、ベリルスネークの首へ向けて直剣を振り下ろした。
「『初刃』」
瞬間、スパッと蛇の首が落ちる。
「あ……」
自分の首と胴が離れた事に気付かなかったのか、ベリルスネークは反撃しようとジルを見た。
どうして体が上手く動かないんだろう。
そんな顔をして、ベリルスネークは光の粒子となり宙に消えていった。
「オーバーキルか」
「オーバーキルだねぇ。今のはスキル?」
「あぁ、『初刃』というスキル。効果は、『このスキルによるダメージが対象への初撃だった場合は威力が増し、一定時間ランダムでステータスが上昇する』。取得時にスキルポイントを消費したが、このスキルによるステータス上昇は重複するから……」
「短時間に、複数の敵に当てるだけでバフり放題? 壊れ性能じゃん。だから数日で5合目まで来れたんだ?」
「いえ、スキルだけでは無理でしたよ。他のMMORPGにも同じ様なスキルはありますが、こんな辻斬りが罷り通るのは攻撃力特化が出来るネオヴァラだけ……」
「P強化のおかげかぁ」
「ん"っ」
ジルが言葉に詰まる。
でも、R18のおかげでサクサクRPG出来るのは事実だしなぁ。
だが、そうか。このイケメンがそんなにおちんちんをムキムキにしてきたのか。
「どっち?」
「ど、どっちとは……?」
「オナニー? それとも、専門店に行ってプロに相手してもらった? え、まさか遂にプレイヤーとセックス……」
「してません!」
もしや脱素人童貞、脱童貞したのかと気になって尋ねてしまったが、ジルは食い気味に否定してきた。
「自分でやりました! 他の人とセ……なんて出来るわけないでしょ。凄く大変だったんですよ、戦闘して、オナニーして、戦闘して、オナニーしての繰り返しで」
「う、うん」
「どれよりもハードだったけど、ミュラーさんと探索に行きたかったから」
ジルの口から突然出た自分の名前に息を呑む。
「引率してもらうんじゃなくて、対等なレベルでパーティを組みたかったんです。貴方と一緒に遊ぶのは楽しそうだから……」
言いながら、ジルの声は段々と小さくなっていった。
かなり気恥ずかしい事を吐露していると気づいたのか、昂って血色が良くなっていた顔色から、一転して血の気が引く。
やはり、僕は尋ねるべきではなかったのだ。
俗物的で煩悩まみれの自分の思考には失望するわ。
いや、でも男の子だから仕方なくない?
いやいや、でもでも、それでジルに不快な思いをさせるなんて、あってはならないよね。
「す、すみません。き、気持ちの悪い事を言いました」
「う、ううん。僕もジルと探索に行くの、楽しみにしてたから」
「……え?」
やだなぁ。僕まで、もらい赤面してるんじゃないかな。
気持ちの悪い事なんて何一つないし、ジルは何も悪くない。
僕が勝手に童貞仲間意識を持っていただけで。僕がちょっと下世話だっただけで。
僕と一緒に探索したかっただなんて、随分と嬉しい言葉だ。
僕もジルと遊びたいと思っていたのは本当だ。ジルからの連絡を心待ちにしてソワソワしていたくらいなのだから。
「気持ち悪くないよ。僕もジルとオッキ活火山を攻略出来るの楽しみにしてたし、嬉しい。ごめん、ここまで頑張って来てくれてありがとう。僕の方が先に始めてただけで、プレイヤースキルはジルの方が圧倒的に上だと思うけど、もし良かったら、まだ一緒に遊んでくれる?」
口にするには勇気がいるくらい恥ずかしい。
照れが酷くて早口だが、ジルにだけ言わせっぱなしではいけないと思い、言い切った。
そりゃあ僕はアナニー目的で始めたけど、『ネオ・ヴァラニア』はR18もRPGも楽しめるんだから、両方楽しくなきゃね。
勿論、RPG重視のジルだって楽しめなきゃ駄目だ。
「それは、あの、俺こそ一緒に遊んでくれると嬉しい、です、が」
「本当? 良かった。僕、ジルがいなかったらソロだもん。友人と一緒にゲームするとかめっちゃ久しぶりだから、実はハイテンションなんだよ。マジでここまで来てくれてありがとう、ジル。よちよち、頑張れて偉いね。童貞同士、この先も頑張ろうね」
言わなくていい事まで言った。
僕は墓穴を掘るのが得意なのかな?
羞恥が天元突破した。
どうしようもないので、ジルの頭をよちよち撫でてお茶を濁したが、どうやら悪手だったようだ。
ジルの顔色は、頬を通り越して耳まで真っ赤になった。
唖然として、ちょっと間抜けな、隙のあるさま。
それ駄目なんだよ、僕はジルのその顔に弱い。
つられて僕まで顔が熱くなって、赤面が治らない。ピンポン感染かよ。
エロで誤魔化したら駄目かな?
駄目か。さっきの今では、ちょっとね。
僕はしっかり反省すべきだ。
「じゃっ、じゃあ山登りしよっか! この調子なら、5合目は余裕でしょ」
そうして僕は苦し紛れに一歩を踏み出した、が。
「え?」
「え……?」
ジルが僕の左手首を掴んだので、僕の足は止まった。
僕はまさか引き止められると思っていなかったので驚いてジルを見上げたが、ジルも何やら驚きに目を瞬かせて僕を見た。
「えっ、どっ、童貞?」
「そこ? あれ、僕、言ってなかったっけ?」
……言ってないか。
思い返すと、言ってないな。
それどころか、先に「ジルはリアル兼ヴァーチャル童貞だ」と聞いてしまったから、安心させようとして見栄を張った気がする。僕に任せて、とか何とか。
「えーっと……僕も童貞だよ、リアルでもヴァーチャルでもね。だからシンパシーを感じるというか、同族意識みたいなものがあってさ」
「え、えっ? ミュラーさんが、そ、ソロ?」
「あはは、僕はソロの代名詞でしょ。孤高の天才アナニストとは僕の事だね」
ジルが僕を何だと思っていたのか知らないが、自分的にはこうしてジルと一緒にいる方が奇縁だ。
「嘘……」
「嘘じゃないけど。うーん、そうだな、称号でも見る?」
R18ステータスには称号欄がある。
僕が称号欄をジルに開示すると、彼の前にホロウィンドウがポップした。
『称号:童貞、バックヴァージン、ベータテスター、チュートリアル経験済』
紛れもなく僕の称号欄である。
リアル童貞を証明する手段は無いが、少なくとも『ネオ・ヴァラニア』では童貞だと納得するだろう。
「……べ、……ば、バックヴァージン……?」
「え、そっち?」
童貞よりも、僕が処女なのが意外なのか。
本当にジルは僕を何だと思っているのだろう?
そりゃあ、出会い頭にナンパしたり、事あるごとに射精ボーナスに託けてセクハラ紛いの行為をしたり、口をついてR18の話が出ているから、僕が清廉潔白に見える筈はないだろうけど。
お店のプロと遜色ないくらいのヤリチン、ヤリマンだと思っていたのだろうか?
「ご期待に添えなくて申し訳ないけど、僕は童貞処女だよ? セックスの経験も、アナルセックスの経験もないからね?」
「………………えっ? ほ、本当に、過去に一度も?」
ジルはなかなかに根深く誤解しているようだ。
「ば、バックヴァージンで、あの魔法威力?」
「そう。称号はまだ獲得出来てないけど、僕は一介のアナニストだよ。システムの仕様で火力がバグってるだけで、本当に戦闘センスはジルの足元にも及ばないから。ジルだって童貞のまま、あの物理攻撃力を叩き出してるでしょ?」
「それは……、そうですが……」
まだ腑に落ちないらしい。
オナニーよりもセックスの方が成長効率が良いという通説がある。
一人より二人の方が出来る事は多い為、色んなステータスが獲得し易かったり、結果的にレベルアップに繋がりやすい。
アナニーにも同じ理論が当てはまるのだとしたら。
僕の魔法威力から逆算して、「沢山アナルセックスしたんだろうな」と思うのも無理ないか。
「残念。僕は童貞処女でここまで来たし、これからも一生童貞処女の予定でーす。つまり、もしジルが童貞を貫いたとしても、物理攻撃力に致命的なハンデにはならないから安心して? なにせ、僕が身をもって実証してるからね」
僕が用いているのはチートでも何でもない、ただの仕様だ。
これでジルも今後ともRPGに精を出せるだろうと思ったが、彼は微妙な表情をしていた。
僕には分からないが、ジルにはジルのRPG計画があったのかもしれないな。
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