女嫌いの修道士(童貞)、美脚の魔女(1000歳)に破戒する

柿崎まつる

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8.グットルム二世

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 人間扱いされていなかったと面と向かって言われ、それもそうだとオリヴァは声もなく笑った。アクセリアは自分を監禁して玩具のように扱うくせに、さも自分が一番オリヴァを思っているかのような気づかいをする。今だって、そうだ。ベレンガーをわざわざ寄こして人間扱いさせるなら、アクセリアがオリヴァに食事を振る舞い人間扱いすればいいのに。
 オリヴァは修道生活の名残で黙って食べ終えたが、ベレンガーはまだ気持ちよくビールを飲んでいる。隻眼の執事は命の洗濯とばかりにご機嫌で、ビールジョッキを傾けてから酒臭い息を吐いた。

「領主ご不在で、執事ベレンガーは開店休業だ。聞きたいことがあったら、今のうちだぞ? アクセリア様が帰ってきてから、またこんな時間が来るかどうかはわからないからな」

 ベリンガーのくだけた言葉に、オリヴァはまた苦笑いして、ビールをお替りする。早速、壁にかけられた額縁を指さした。

「あの肖像画は、誰のものだ?」
「最初にその質問か、こりゃたまげたな。――四百年前のアルバス大公で、グットルム二世さ。アクセリア様が、この国に仕える理由になった方だそうだ」
「……愛人だったのか?」

 ベレンガーは赤く染まったエビを素手で摘まんで、口の中に投げ入れる。

「さあな。アクセリア様と出会ったころにはとっくにグットルム二世の妃は鬼籍に入っていて、本人も病で息子に譲位した後だったらしい。半年もしないうちに崩御したから、お二人の肉体関係は難しかったんじゃないかな? だが、アクセリア様が大公を愛していらっしゃったのは、嘘じゃない。そうでなければ、四百年もこの城に留まるわけがないからな」
「……そうか」
「気になるか?」
「いや、その話題はもういい」

 むしろ聞くんじゃなかったと後悔してしまった。次に聞きたいのは、アクセリアがいつ帰ってくるかだったが、どうして自分がそれを知りたいのかオリヴァにもわからない。代わりに、何を聞こうかと考えていると、窓の外で幼い子どもたちの笑い声が聞こえてきた。

「この城にいる少年少女たちは、何のために集められているんだ?」

 ベレンガーは、面白そうに片目だけで笑う。

「少女たちは魔女の見習いだ。十歳になったら親元を離れて、この城で修業する。魔法や薬草の知識を得て、だいたい成人するころには巣立っていくよ。魔女が世界中にどれだけいるか俺にはわからないが、そのなかでも大魔女しか弟子を取ることは許されていないそうだ。アクセリア様は、魔女あっちの世界でも頼りにされているんだ」

 オリヴァは先日、訪れた元気のよい美女たちを思い出し、彼女たちがアクセリアの弟子であることにやっと気が付いた。ベレンガーの領主自慢はなおも続く。

「少年たちのほうは普通の人間さ。もともと国内の孤児たちで、見込みのありそうなのをアクセリア様が引き取って育てているんだ。適性に合った教育を受けて、いずれは国の根幹で働くことになる。アクセリア様はスパルタで有名だから、バーサック侯爵の麾下といえばたいていどこでも好待遇で迎えてくれるはずだ。ああ見えて、仕事には手を抜かない方なんだ」
「だったら、私が大公から討伐依頼を受けたそもそもの理由の『少年少女の生き血をすすり、毎夜の酒池肉林に明け暮れる』というのは嘘だったのか?」

 ベレンガーは手についたスープをナプキンでふき取って、オリヴァをじっと見た。

「魔女の魔力の素は、男の精子だ。子宮のなかに『魔女の核』というものがあって、それで魔力に変換するんだと」
「はっ?」

 オリヴァが固まる。

「つまり、魔女は定期的に性交しないと、魔力が使えなくなる。アクセリア様たちにとって男はエネルギーなんだよ。この城でよく使われる魔女の『晩餐』という言葉は、セックスして魔力を身体にため込む行為のことなんだ」
 
 聞けば聞くほど、不愉快な話だ。嫌悪感をにじませるオリヴァをみて、ベレンガーは客人のコップにコポコポとビールを注いだ。

「餓死寸前の孤児が腹いっぱい食べられるようになって、寝るところと着る物も与えられて、いずれは身が立つようにしてもらえるんだ。そのうえ、あれだけの美貌と才気のあるお方に導いてもらえて、誰が嫌がるっていうんだ?」
「……おまえもその口か?」

 最初に会ったとき領主と執事というには、二人の距離は近すぎるように感じた。ベレンガーは、片目だけで器用に苦笑する。

「大昔のことだけどな。今は嫁一筋だぜ」

 オリヴァは何故か全く笑えなくてフンッと鼻を鳴らすと、ベレンガーも苦笑した。

「なかには一度も『晩餐』を振る舞わずに独り立ちする者もいるが、アクセリア様は同じように送り出してくださる。無理強いは一切しない、俺たちには女神にも等しいお方さ。――だから、清貧の誓いを立てたあんたに『晩餐』を強要したときはほんとうに驚いたよ」
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