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男らしい

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石川は、昔風の男で
職人だから、どこか加藤にも似ていると
名雪は思った。


正義、愛、そんな言葉が似合う。

若いだけに荒っぽいが、そこに
加藤とは違った魅力があると

名雪は思う。


けれども、安らぐような感じはしない。



それでも、どこか惹かれて

名雪は、石川に礼を述べに来た。



「この間、ありがとうございました」と
名雪は、手作りのお菓子を石川に渡す。


石川は、照れて「俺は大した事はしていない」と、謙遜。


正義の心。


そんなものを持っていて、この仕事でも
上手く行けない事もある。



岩重が、気に入らない
運転士のバスに細工をしろ、などと
命令しても



それは出来ない、と断るので

岩重に仕事の邪魔をされたりした事もあった。



それで怒っていて、怖い顔をしていた事もある。



そんな石川を、怖い人だと名雪は思っていた
事もあった。



男にはそんな事情もある。



「悪いけど仕事に戻るから」 と
石川はぶっきらぼうに言うのは


女の子の好意に不慣れな所もある。

内心、名雪を好ましく思っているのもあるのだろう。




汚れた整備服を、名雪は洗濯してあげたいと
思い


でも、石川にも恋人がいるかもしれない、
その人が誤解をしてはいけない。


そんな風に思って、石川の
背中に礼をして
名雪は、整備工場を背にして。



広いバス会社の慣れた道を歩き、ふと
あの幻影を見た洗車場を見かける。



昼間見ると、なんでもないが。


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