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深町珠

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原始

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詩織は、今西と話を続けていた。

今西は、続ける。

「日本は、諸外国よりも1万年長かったんだね。狩猟採集生活が。」

詩織もそれは知っていて、笑顔で「はい。教養課程で習いました。」
一年生の時、この大学は色々な事を学べる。
専門だけに囚われない人になってほしいと言う、心である。

今西は、にっこり「うんうん。そうだね。
そのおかげで、日本にはずっと、帝のような存在がなかったらしい。
まあ、このあたりはわたしも、シロートなんだ。」と
にこにこ。


ユニークな今西は、名誉教授、なんて言う
肩書きからは感じられないような、優しい雰囲気。

詩織も、ちょっと笑う。

今西は「それでね、弥生の頃に農耕が入ってきたんだけれども
どうも、その時に。
一緒に入ってきたらしいんだね。帝と民衆、みたいな差。
まあ、この辺りは文化人類学の先生が詳しいでしょうけれど。」と。


詩織は頷く。それも、教養課程で習ったようだった。



今西は「なぜ、ヒトに家族が必要かと言うと....
脳が大きくなったからなんだね。それで、おサルさん達より
赤ちゃんが早く産まれてしまう。
野生動物と違い、世話をしないと生きていけない動物になったんだね。

お母さんは、赤ちゃんが歩けるまでは
食べ物を採りにも行けない。行ったとしても
その間、赤ちゃんが外敵に食われないような家が必要になったんだろうね。

その為に、家族が生まれた。それがヒトの興りだと定義されている。
でもね、お母さん達は助け合って子育てをしていたんだね。
それは今も同じだ...おっと、余談かな。ははは。」

今西は自分のおでこを撫でた。


詩織は楽しくなってきた。悩む事があっても、この方とお話すれば
大丈夫かしら。そんな風にも感じる。



今西は、つづける。

「その為に、ヒトの女のヒトは可愛らしく見えるようになっていて
これは、赤ちゃんのディテールと同じなんだね。認識パターンでは。
柔らかく、丸い。声が愛らしい。とか。

そういうものを愛でるように、ヒトは出来ているから

帝、とはいえ男なら

愛しいヒトを囲ってしまって、世話をしたいと思うんだろうね。
まあ、嫌われてもするのは良くないが。」と今西は笑う。


そうですね、と詩織も笑った。
「それで、神隠し。」


今西は微笑んで「まあ、見た訳でもないから憶測だけれども。
そういう時、神様がいらして
女の人をどこかに逃がすのは、有り得る事だね。
守る為に男は居るのだし。」


・・・守る為。

詩織は、その言葉を反芻する。


ふと、連想したのは
珠子のお父さん。

あのお父さんなら、きっとそうするだろうな、と....。
帝であろうとなんであろうと。








同じ頃。
珠子は、夕方のお店に出ていて....。

「あれ?お母さん?。」

珠子の店は、アーケードから数軒外れたところにある。
そこの通りを、お母さんにそっくりの人が歩いている。




珠子は、店から飛び出そうとした。

和菓子のお店は、ショーケースをはさんで
お客さんが来るところは地面の高さ。

ショーケースは、床に立っている。

それで珠子は、サンダルをつっかけて
お店の外に行こうとしたのだが。

転びそうになった。


その時、珠子は 

空間が揺れるような気がして。
自分がどこにいるのか、分からなくなった。


コンタクトレンズが落ちたのかな。


と、思って。

地面を見ようとした。


地に足がついてる感じが無かったので。



一瞬。

地面に降り立ったような感じに気づき。

・・・あ、そうだ。お母さん!。


母に似たシルエットの人物は、遠くに消え去っていた。


・・・・ほんの一瞬だったのに。


遠くまで歩いて行けるほどの時間ではない。




不思議な出来事だった。




珠子は、まだ気が動転している。

父が、様子に気づいて店から出てくる。

「なんだ、珠子、どうした!。」


珠子は、少し震える声で「お母さんがね、いま、そっちから歩いて。」

父は「そんなはずないだろう」と、少し微笑んで
珠子に手招きして。肩を叩いた。 ぽんぽん。

夕暮れの商店街。

一瞬の出来事だった。



「お母さんだったのかな、ほんとに。」珠子は思い返すけど
はっきりとは判らない。


幻だったのかもしれないな、とも思った。


「お父さんには見えてなかったのかな、それと・・・。」

アーケードの十字路を通って行ったから
アーケードのみんなは、見なかったのかな、と・・・・・。

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