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深町珠

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夜景

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神流は、自席のPCの電源を落とした。
スーパーコンピュータにJobが投げてあるので、リモート側は
止めても大丈夫。
3次元流体シミュレーション・モデルによる解析で
仕事としては楽な部類。ただ、時間が掛かるだけだ。

レイノルズ数を瞬時計算し、流体粘性による反力を算出する
層流計算である。

窓に近いこの席は、夜になると景色が綺麗。
ほとんど田畑しか見えない研究所の周辺に、ぽつぽつ、灯り。
そのひとつで、今は珠子が待っていてくれる。
そう思うと「早く帰りたいですね」と、思ったりもする。

頭上の明かりを消し、周辺の研究者に会釈をしてから
研究室を後にした。



昼間は暖かい窓際だけれども、夜は寒い。
熱が空間に放射されるからで、晴れた夜は格別冷えるようだ。

底冷えのする盆地のようで、神流は故郷を連想する。
珠子たちと過ごした古都である。

「あの頃は、楽しかったですね・・・・・。」



もっとも、神流自身は珠子たちの学区ではないので
高校に入ってから、みんなと友達になったのだけれども
珠子は、誰にでも優しく、分け隔てなく接するので
みんな友達になった。

今は同じ研究者の詩織もそうだった。


思えば、詩織も、双葉も、自身も理系に進んだのは
何かの偶然なのだろうか?

それとも・・・・「運命、かもしれませんね」


珠子がこんな風になる事が判っていたように。


その時、力になってあげられなかったら
慌てるだけだろう。



「・・・・わたしたちも、何かの力で動かされているみたいですね」

と、超科学的な空想をする神流だった。



・・・・でも。

珠子が、もし。

自身の身代わりになって、誰かが消えていくと誤解したら・・・。

「珠ちゃんは辛いでしょうね」


珠子の性格から言って、自分が異世界に飛ぶ。


そう考えるだろう。


「ひょっとして・・珠ちゃんのお母さんも」

そう考えたのかもしれない。



珠乃家の運命のようなものを知って。


そんな風に、神流は空想しながら
電鉄の駅に着き、路面電車のような

かわいい電車を待った。




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