arcadia

深町珠

文字の大きさ
86 / 93

Sun Goddes

しおりを挟む
ラムゼイ・ルイスの「Sun goddes」は
ジャズと言うか、ディスコサウンドのようで

碧は「マスター、珍しい」

と言われて、マスターは振り返る。

ニット帽と眼鏡。

碧は思った。

・・・・・マスターも・・・・年を取っていないみたい。



10年前から。

それを言うのは失礼だと思ったから、言わなかった。


もう、少女ではないのだ。




その、碧の思考に気づいてか「人も・・・・・変わっていきます。時と共に。」



碧は、そのマスターの言葉に気づいた。


・・・・マスターは、何か知っているみたい。



そういえば、珠子のお父さんとバンドをしていたらしいけれど
高校生だったのかどうか、それも分からない。




碧は笑顔で「こういうレコード、聴くんですね。」

マスターも柔和な笑顔になり「ラムゼイ・ルイスは自由な演奏で好きです。
ジャンルに囚われない。」



碧は、ラムゼイ・ルイスのことはよく知らないけれど
音は、なんとなくそういう感じに聞こえる。



碧は思い切って聞いた。「マスターは、珠子のお母さんの事を
何か知っていませんか?」



マスターは、レコード・プレーヤーの方を向いたまま。





曲は、同じようなギターのリフの上で
サックスや、ピアノのアドリブがリズミカルに続いていた。
ジャズのようだし、ダンス・ミュージックのようでもある。



「はい。日向子さんのことは良く知っています。あの頃から」




と、さりげなく交わした。



碧は、ちょっと苛立ったけど、そうは言わず

「なぜ失踪したんですか?理由をご存知ないですか?」


やや詰門調になってしまったけど。



マスターは、レコード・ジャケットを持って
振り返り

「表裏一体、と言う言葉があります。このジャケットみたいに。
今、見えていない片面も、そこにある。見えないだけで。」



それだけ言って、珈琲豆を少し、焙煎し始めた。

真鍮の金網に少し、豆を入れて

電熱で炙った。


ガスだと、香りを損ねるからである。


少しづつ、豆が茶色くなっていく。

珈琲が香ばしい。





碧は「それは、珠子とお母さんが一体だって事?」

と、ちょっときつい言葉になった。


マスターは「そこまでは知りませんが・・・。そうも見えますね。」




碧が、なぜ珠乃家の前に立っていたかを知っているから
そう言ったのだろう。



碧は、気持が高ぶって「じゃあ、じゃあ!
あたしが代わりになれない?」



マスターは、かぶりを振って

「・・・・いつか、そうなるかもしれない。ならないかもしれない。
未来は分からない。」



碧は、果てしない感じを覚えた。

我が身の無力感に。

そして、号泣した。


「・・・どうしたらいいの!あたし!・・・こんなに心配なのに!」



マスターは、カウンターから出て
碧の隣に立ち、肩に優しく手を添えて「あなたの気持、きっと、伝わります。」


碧は、カウンターに伏せたまま、泣き続ける。

マスターは、空を仰いだ。


レコードはいつしか終わり、静寂がカフェを包んだ。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

あなたが愛人を作るのなら

あんど もあ
ファンタジー
結婚して八年の夫が、愛人を作った。それも私の推しの女優を! 「君と違って彼女には才能がある」と言う。ならば、私も才能のある愛人を持つ事にいたしましょう。愛人の才能を花開かせる事が出来るのはどちら?

処理中です...