新人怪盗烈見参

りゅうな

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長屋に女がいる!

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「どんな、態度を取ったって俺には通じない。隣の家族や一人暮らしのネェちゃんなら、お前達がしてきた事は大目に見てもらえるが、俺は優しくないぞ。家に入らせてもらうよ」
 二輪兄弟の家の戸を勢いよく開けて中に入った。

「「山丸さん!」」
 声を揃えて言う二輪兄弟は山丸の後を追いかける。

「なんだ……この女は」
 大家が土間から見えたのは、部屋で夜着をくるみ寝ている女の姿が目に入った。
 誰がこの女を長屋に入れた?

 部屋に上がりこんだ大家は女の姿をじっと見てから、自分の後にいた二輪兄弟に声をかけた。
「二輪兄弟。お前ら、芸子を水揚げしたのか?」

「へ……何、言っているのですか。大家さん」
 忠平は、きょとんとした様子で大家に言った。

「じゃ、あの女は誰だ?」
 大屋は、仏頂面な顔で寝ている女の方に指をさしながら二輪兄弟に聞く。
「女」
 忠平はボソッと呟いた。
 
 大家が言う女を見る吉兵衛は、女が被っている物に唖然とした。
(これは……貴重な布団をくるむとはコイツは誰だ?)
 吉兵衛は不機嫌な顔で女の方に近づき口を開いた。
「おい、そこで何している」
 吉兵衛は寝ている女の体を足蹴にし、寝ていた女は転がっていく。
 
 乱暴に起こされてびっくりする女は声を出した。
「きゃ……何するの! 誰よ。アンタ」

「誰なのか聞きたいのは、こっちのほうだ。あんた誰だ?」
 吉兵衛の側にいた忠平は、弟の挑発的な態度を抑えた。

「吉兵衛……女相手にムキになることないだろ。すいません。コイツ貴女が此処に寝ている事に腹を立てているんです」
 
 寝ていた女は、起き上がり忠平の腕を掴みながら、すがるような眼をして言う。
「貴方達が羽根様のお屋敷に来た時、私の踊りを見てから忠平様は、近いうち私を水揚げしてやると言い出してくれました。その後に、忠平様の家に泊まったのです」
 昨日の出来事を思い出すかの様に女は三人に話した。

「「「……水揚げ! 」」」
 忠平、吉兵衛、山丸達は揃えて大声を出した。

「おい、どういう訳だ。忠平」

「あの女を水揚げしたのか?兄貴」
 大屋と、吉兵衛は忠平に向かって言うと、忠平は困った様子で女のほうに視線を向けていた。
「あの、昨日吉兵衛と二人で屋敷に行って芸子の踊りを見ていたのは覚えているのですが、貴女の名前は覚えて無くて、水揚げする約束も覚えて無いのです……名前を教えてもらえませんか」
 忠平は、昨日の出来事を女に正直に言うが動揺している様子が、誰の眼から見てもわかるぐらい取り乱している。

「私は小珠洲屋(こすずや)の芸子おようと申します。昨日羽根様からお呼びがあったので、屋敷で、ここにいる二輪様にお会いしました。羽根の若様はもともと私達の舞と三味線よりご自分で踊ってドンチャン騒ぎが好きな方でしたけど、二輪様も羽根様に負けず劣らず騒がれてましたよね。あの時の一夜はとても、楽しゅうございました」
 
 昨日の出来事を話すおようの話は、山丸の顔が能面になっていた。
 山丸は、おように聞いた。
「おようさんは、羽根治右衛門さまに呼ばれてこの二人に会ったと……」
「はい」
 おようは微笑んだ。
 
 吉衛門は、気まずくなって咳払いをした。
「おい、女。こんな薄情者が覚えて無いって言っているんだ。さっさと置屋に帰りな。その方が幸せだ」

 おようは忠平と吉兵衛の方に顔を向けていると、吉兵衛の顔が無表情で冷たい眼でおようを見ている。
 なんだい……露骨に冷めた目で人を見下して気に食わないヤツ。
 吉衛門の顔を見て、おようは嫌な気分だった。
 女は立ち上がって吉兵衛の側にいる忠平にすり寄ってきた。
「忠平様。私は、あそこには帰りたくありません。私を水揚げさせてやる。大金を必ず作ると、言ったじゃないですか。覚えていないのですか? 」


「兄貴がアンタにそんな事を言ったのかよ?」
 吉兵衛は、兄の不始末に情けないと思い呆れている。


 青ざめていた忠平は、昨日の事は覚えていない。
 覚えていない事に自業自得だと理解しても、昨日の事は思い出せない! なんてこった。

 女の話を聞いて唖然とする吉兵衛と大家は、彼女の会話を黙って聞く。
「私、此処にお世話になってもいいかな。忠平様の世話なら出来るよ」
「あの、それは……」
 返答に困っていた忠平を見て、山丸は言う。
「ちょっと待て。忠平。水揚げしてやるって話は覚えているか?」

「もしかしたら、いや……でも……」
 あいまいな返事をする、忠平は狼狽が隠しきれず躊躇う。
 細い眼で見ていた山丸は、溜息を洩らす。情けない忠平を見つめ煙管から煙を吹き出しながら思った。
 過ちを犯すにも、金がかかり過ぎだろう。
 大家の側にいた吉兵衛は、昨日の出来事など綺麗に忘れている為、なんだか『およう』という女に唆されている気分だった。


 忠平が何をどうすればいいか分からなくなり黙りこむ。

 おようは悪びれもなく愛嬌ある笑みを浮かべて、忠平をじっと見つめていた。

 二人の間に入った吉兵衛は、おように言う。
「とりあえず、おようさんは置屋に戻った方がいいな。此処に残っても、ごらんの通り何も置かれてない有様だ。あるのは枕と布団だけ。飯だって、何日も食べてないこともあるんだ。部屋には虫や蛇もいたりする。若い女は、逃げたくなる場所さ」

 吉兵衛は、おようという女は長屋にいても場違いな感じがしてならなかった。
 身なりからして、達振る舞いの所作が洗練されている。他の商人の息子でも見初めてもらえる可能性もあるだろうし、長屋の朴念仁(忠平)より他の男の方がずっと良いと思うが……何故? ウチの長屋に入ったのか。兄貴が何て言っておようを引き止めたのか。

 忠平は、おように言った。
「おようさん、今日は小珠洲屋に帰ってもらえませんか? 
 俺は貴女みたいな美人さんを忘れるくらい大バカ者です。でも俺達は昨日、羽根様の屋敷に行って酒をご馳走になってから、おようさんの事は覚えていない。羽根治右衛門様の事は知っているだけだ」
 悩んでいた忠平は、彼女の顔を見ると彼女の表情が一変する。
 美人で凛としているおようは、部屋にいる三人に対して下卑を見ているかの様に嫌悪感を露わに出していた。

 忠平は、彼女の顔を見逃さなかった。
 忠平の視線に気づいたのか、おようは普段と変わらない表情に戻る。
 
 礼儀正しく座っていた彼女は、忠平と吉兵衛二人に言う。
「忠平さん。私、小珠洲屋に戻ります。お二人は、羽根様と知り合いなのですか?」
 
 おようさんが小珠洲屋に戻ると聞いて安心した忠平は、彼女から羽根様の話をされて戸惑った。

 吉兵衛がおように言った。
「羽根の若様とは、飲んだり遊んだりの付き合いさ。おようさんは、治右衛門様に会ったのは昨日が初めてなのかい?」


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