ブライアンのお気に入り

知見夜空

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十月のこと

2人きりのハロウィン

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 ブライアンはカザネのリクエストに応えて

「これで満足?」

 と遊園地で売っているような犬耳のカチューシャをつけてくれた。頭上には立派な三角耳が生えたものの、他はいつものブライアンなので、とてもモンスターには見えず、

「犬耳だけだと狼男って言うより、大きなワンちゃんみたいだね。ちょっと可愛い」

 彼が腰を下ろしていたのもあり、いつもより低いところにある頭を、つい撫でてしまった。カザネの行動にブライアンは目を丸くして、

「お前から俺に触って来るなんて珍しいな?」
「あっ、ゴメン。勝手に触って。嫌だった?」

 未だにブライアンとの距離感が分からないカザネは、馴れ馴れしかったかなと反省した。けれどブライアンは甘やかに笑って、

「いいや、光栄だよ? 日本生まれの子猫ちゃん。ようやく俺に懐いてくれたかな?」
「うぎー! 動物扱いやめて!」

 カザネは自分を引き寄せようとする腕を咄嗟に振り払った。しかしブライアンは全く動じず、

「まぁでも今日はハロウィンだし。お化けの格好をさせたからには、お前には俺に菓子をくれるか、悪戯される責任があるよ」
「えっ、でもお菓子はもうみんな配っちゃったのに」
「じゃあ、やっぱり悪戯だな」

 ブライアンは今度こそカザネをグイと引き寄せると、

「うぇぇ!? なんでキスするのぉ!?」

 頬とは言え急にキスされてカザネは仰天した。意外とアメリカ人は、ただの友だち同士でキスすることは少なく、ハンナやジムともしたことがなかった。

 ちなみにブライアンがカザネにキスしたのは

「お前がいちばん嫌がるから~」

 おどけた調子で言う彼に、カザネはムッとして

「キスすら君にとっては嫌がらせの一環なのか。もう帰ってよ、いじめっ子! 悪戯も済んだし、ハロウィンは終わり!」

 無駄に大きいブライアンの背中を押して「出てけ出てけ」と部屋から追い出した。


 カザネに追い出されたブライアンは、マクガン家の庭から彼女の部屋の明かりを見上げた。人の家に来て帰りたくないと思ったのは、はじめてだなと考えた。

 ブライアンは誰の前でも物怖じせず話し、必要があればにこやかに振る舞える。よって周囲には社交的な人間だと思われている。

 けれどジュリアやミシェルのパーティーから早々に撤退したように、本当は人付き合いにストレスを感じるタイプだった。今までは居心地の悪さを無視して、級友たちのバカ騒ぎに付き合っていた。

 人生をエンジョイしているように見えることが成功の条件で、ブライアンには成功していると思わせたい相手が居た。でも自分と違ってまるで虚飾の無いカザネと付き合ううちに、ブライアンは自分を強く見せる必要性が分からなくなった。

 見栄えを気にする人種からは「ダサい」「女らしくない」「幼稚だ」と見下されるカザネを、ブライアンは清々として面白いヤツだと思う。だからこそ他人によく思われるために、好きでもない相手と付き合い、おかしくもないことで笑っていた自分への違和感が大きくなった。

 カザネと居ることで、少しずつ変わっていく自分をブライアンは感じていた。でもそれは彼にとって、心の中の澱みが消えて軽くなっていくような心地いい変化だった。

(だから俺は、あのお嬢ちゃんには毎日でも会いたいんだろう)

 何をするにも素直で全力なカザネの百面相を思い出して、ブライアンはふっと笑うと車に乗り込み自宅へ戻った。
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