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十二月のこと
何かが変わっていく予感
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主催者であるミシェルを泣かせながら、その場に留まれるはずもなく、カザネとブライアンはアンダーソン邸を出た。ジムを置いて帰れないので、庭に停めた車の中で待つことになり
「寒くないか?」
「うん。暖房も入れてもらったし大丈夫」
本当は少し寒かったが、ブライアンに心配をかけまいと、カザネは笑顔で答えた。しかしすぐに顔を曇らせて
「それよりゴメンね」
「何が?」
「私のせいでミシェルとケンカになっちゃって」
カザネは自分のせいのように言うが、
「勢いで振ったわけじゃないよ。ああやって泣かれるのが嫌で、ずっと曖昧にして来たことに、ようやくケリを付けただけ。悪いのは好きでもないのに付き合って気を持たせた俺で、お前じゃない」
それはフォローではなくブライアンの本心だった。過去に自分をよく見せるために、好きでもない女と付き合った。別れた後も執着されて迷惑していたが、修羅場が嫌でハッキリと拒絶しなかった。
結果としてやはりミシェルを泣かせてしまったが、傷つけないで済む別れはきっと無かったと、ブライアンは受け止めていた。
「むしろ俺のほうこそ悪かったな」
「何が?」
「せっかくのクリスマスなのに、こんなところで過ごさせて」
自分が居なければカザネたちは、今ごろ優しいおばさんやおじさんと、温かな部屋でクリスマスケーキでも食べていただろう。
それが他人の修羅場に巻き込まれたうえに、今はこんなツリーもケーキも無い薄暗い車内で自分と2人でいるのだから、気の毒だとブライアンは思った。
けれどカザネは
「そんなことないよ。トラブルもあったけど、ハンナの変身も見られたし、ちょっとだけどケーキやご馳走も食べられたし。それに」
「それに?」
ブライアンの問いに、カザネは少し照れたように笑いながら
「さっきはブライアンが居なくて寂しかったから、一緒に居られて嬉しい」
しかしたった今ミシェルを振ったブライアンにこんなことを言ったら、自分も彼に気があるようだと気づいて
「へ、変な意味じゃなくてね? ジムとハンナが踊っている間1人で寂しかったから、いまブライアンが一緒に居てくれて嬉しいなって」
取り繕うつもりが、かえってブライアンと居られて嬉しいと強調しているようだった。自分の言葉のマズさに気付いて真っ赤になるカザネを
「へぇ?」
ブライアンは面白そうに見下ろすと、ちょっと意地悪に笑いながら
「せっかくのクリスマスなのに、寂しい思いをさせて悪かったね。お嬢ちゃんが寂しくないように、もっとくっついてやろうか?」
運転席から身を乗り出して、カザネのほうに行こうとするブライアンに
「いやぁ!? いいよぉ、この距離でぇぇ!」
カザネはドアに背中をくっつけるように拒否したが、
「お嬢ちゃんは良くても俺は良くないな」
「ぶ、ブライアン?」
ブライアンはカザネの頬に手を添えると、ジッと彼女を見つめて
「今日は本当に綺麗だな。ワンピースも髪飾りもよく似合っている」
「ひぇ……ブライアン、なんかいつもと違わない?」
「そりゃ俺だって男だから。美人の前では態度も変わる」
ここまではからかいのつもりでニッコリ笑う余裕もあったが、
「び、美人って……」
自分に口説かれて、たじたじになるカザネを見ていたら
「ぶ、ブライアン?」
ブライアンに無言で眼鏡を外されて、カザネはいっそう戸惑った。いつの間にかブライアンの顔から笑みが消えていた。怒っているわけではない。それなのに逃げ出したくなるような真剣な表情。
「な、なんでそんなにジッと見るの?」
カザネの問いに、ブライアン自身答えられなかった。はじめて見るカザネの姿が、とても綺麗で目が離せない。自分の状態を説明したら、もう気持ちを誤魔化せないと思った。だから話すことも目を逸らすこともできず、ただジッと見つめているしか無かった。
しかし
「あの、そんなに見られたら恥ずかしい……」
カザネは明らかに、ブライアンを異性として意識していた。手折られるのを待つ花のように震える姿に、ブライアンは思わず
「ぶ、ブライアン……?」
運転席から身を乗り出して、カザネに顔を寄せた瞬間。
スマホに電話がかかって来て
『ブライアン? 今どこに居るの? もしかして先に帰っちゃった?』
ジムののほほんとした声を聞いて、緊張の糸が切れたブライアンは
「……車で待っているから、さっさと来いよ」
不機嫌に返すと通話を切った。脱力したようにハンドルにもたれかかるブライアンに
「よ、良かったね。ジムのほうから連絡が来て」
カザネはおかしな空気を払拭しようと笑いかけたが、ブライアンは若干拗ねたように「そーでもない」と返した。
「そうでもないって?」
とは、流石のカザネも聞き返せなかった。あの時間の意味を追求すれば、何かが変わってしまう予感がした。
3分もしないうちにジムとハンナがやって来たので、4人はアンダーソン邸を後にして、今年のクリスマスは終わった。
「寒くないか?」
「うん。暖房も入れてもらったし大丈夫」
本当は少し寒かったが、ブライアンに心配をかけまいと、カザネは笑顔で答えた。しかしすぐに顔を曇らせて
「それよりゴメンね」
「何が?」
「私のせいでミシェルとケンカになっちゃって」
カザネは自分のせいのように言うが、
「勢いで振ったわけじゃないよ。ああやって泣かれるのが嫌で、ずっと曖昧にして来たことに、ようやくケリを付けただけ。悪いのは好きでもないのに付き合って気を持たせた俺で、お前じゃない」
それはフォローではなくブライアンの本心だった。過去に自分をよく見せるために、好きでもない女と付き合った。別れた後も執着されて迷惑していたが、修羅場が嫌でハッキリと拒絶しなかった。
結果としてやはりミシェルを泣かせてしまったが、傷つけないで済む別れはきっと無かったと、ブライアンは受け止めていた。
「むしろ俺のほうこそ悪かったな」
「何が?」
「せっかくのクリスマスなのに、こんなところで過ごさせて」
自分が居なければカザネたちは、今ごろ優しいおばさんやおじさんと、温かな部屋でクリスマスケーキでも食べていただろう。
それが他人の修羅場に巻き込まれたうえに、今はこんなツリーもケーキも無い薄暗い車内で自分と2人でいるのだから、気の毒だとブライアンは思った。
けれどカザネは
「そんなことないよ。トラブルもあったけど、ハンナの変身も見られたし、ちょっとだけどケーキやご馳走も食べられたし。それに」
「それに?」
ブライアンの問いに、カザネは少し照れたように笑いながら
「さっきはブライアンが居なくて寂しかったから、一緒に居られて嬉しい」
しかしたった今ミシェルを振ったブライアンにこんなことを言ったら、自分も彼に気があるようだと気づいて
「へ、変な意味じゃなくてね? ジムとハンナが踊っている間1人で寂しかったから、いまブライアンが一緒に居てくれて嬉しいなって」
取り繕うつもりが、かえってブライアンと居られて嬉しいと強調しているようだった。自分の言葉のマズさに気付いて真っ赤になるカザネを
「へぇ?」
ブライアンは面白そうに見下ろすと、ちょっと意地悪に笑いながら
「せっかくのクリスマスなのに、寂しい思いをさせて悪かったね。お嬢ちゃんが寂しくないように、もっとくっついてやろうか?」
運転席から身を乗り出して、カザネのほうに行こうとするブライアンに
「いやぁ!? いいよぉ、この距離でぇぇ!」
カザネはドアに背中をくっつけるように拒否したが、
「お嬢ちゃんは良くても俺は良くないな」
「ぶ、ブライアン?」
ブライアンはカザネの頬に手を添えると、ジッと彼女を見つめて
「今日は本当に綺麗だな。ワンピースも髪飾りもよく似合っている」
「ひぇ……ブライアン、なんかいつもと違わない?」
「そりゃ俺だって男だから。美人の前では態度も変わる」
ここまではからかいのつもりでニッコリ笑う余裕もあったが、
「び、美人って……」
自分に口説かれて、たじたじになるカザネを見ていたら
「ぶ、ブライアン?」
ブライアンに無言で眼鏡を外されて、カザネはいっそう戸惑った。いつの間にかブライアンの顔から笑みが消えていた。怒っているわけではない。それなのに逃げ出したくなるような真剣な表情。
「な、なんでそんなにジッと見るの?」
カザネの問いに、ブライアン自身答えられなかった。はじめて見るカザネの姿が、とても綺麗で目が離せない。自分の状態を説明したら、もう気持ちを誤魔化せないと思った。だから話すことも目を逸らすこともできず、ただジッと見つめているしか無かった。
しかし
「あの、そんなに見られたら恥ずかしい……」
カザネは明らかに、ブライアンを異性として意識していた。手折られるのを待つ花のように震える姿に、ブライアンは思わず
「ぶ、ブライアン……?」
運転席から身を乗り出して、カザネに顔を寄せた瞬間。
スマホに電話がかかって来て
『ブライアン? 今どこに居るの? もしかして先に帰っちゃった?』
ジムののほほんとした声を聞いて、緊張の糸が切れたブライアンは
「……車で待っているから、さっさと来いよ」
不機嫌に返すと通話を切った。脱力したようにハンドルにもたれかかるブライアンに
「よ、良かったね。ジムのほうから連絡が来て」
カザネはおかしな空気を払拭しようと笑いかけたが、ブライアンは若干拗ねたように「そーでもない」と返した。
「そうでもないって?」
とは、流石のカザネも聞き返せなかった。あの時間の意味を追求すれば、何かが変わってしまう予感がした。
3分もしないうちにジムとハンナがやって来たので、4人はアンダーソン邸を後にして、今年のクリスマスは終わった。
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