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別れの時
消せない想い
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ブライアンが送別会にも見送りにも来ないことを知ったジムとハンナは「恋人なのに冷たい」と怒っていた。でもカザネには、ブライアンにも言ったとおり、大切な人だからこそ会いたくない気持ちが理解できた。
本当にどうしようもない理由で別れるなら、ギリギリまで傍に居て、素直に涙を流せたかもしれない。しかしカザネの場合はドリームピクチャーのアニメーターになる夢を捨てれば、簡単では無いだろうが、ブライアンと居る未来も選べた。夢か恋か比べてカザネは前者を選んだ。
ブライアンにも父親の弁護士事務所を継ぐという目標があり、変えられない進路がある。どちらも道を変えられないなら別れるのは必然で、自分で選んだ道を進むことに、本当は辛いんだなんて顏はしたくなかった。
だから帰国の日。マクガン家の人たちとハンナは、空港まで見送りに行くと言ってくれたが
「皆に見送ってもらったら絶対に泣いちゃうから」
とカザネは見送りを断った。皆とはマクガン家の前で最後に写真を撮り、笑顔でお別れした。それでも荷物が多いからと、バス停まではおじさんに車で送ってもらい、そこから空港行きのバスに乗った。
カザネはブライアンと付き合い出してから、少しずつ女物の服を着るようになった。しかし今日は10か月前、こちらに来た頃とほとんど変わらない姿だ。
リュックに付けたオモチャだけが、ブライアンにもらったものに変わっている。先生からもらった宝物の代わりにと、ブライアンがくれたもの。
『お前が小さな子どもみたいに、リュックにオモチャをつけて歩いている姿が好きだからさ』
あんな失礼ないじめっ子と付き合うなんてカザネは想像もしなかった。最初はジムやカザネのような大人しい子たちをいじめる悪いヤツだと思っていた。でもカザネとハンナの作品がクラスの子に悪く言われた時は
『他人が作ったものを消費するだけのヤツが、自分でものを作っているヤツを嗤うんじゃねぇよ』
ジムが言ったとおり、意外と正義感が強くて、優しい面があるんだと分かった。
けっきょくブライアンが自分の何を気に入って、ちょっかいを出して来たのかカザネには分からない。でも彼は意地悪な兄か悪友のように、それからもカザネに絡んで来た。
関わるうちに少しずつ、意地悪なだけのヤツじゃないと感心できる部分が増えて、いつの間にか好きになっていた。彼の家庭の問題を垣間見て、密かに傷ついているのに気付いてからは、余計に傍に居たくなった。
彼より好きになれる人には、きっと二度と出会えない。本当は最後にブライアンに、いちばん大事で特別だと伝えたかった。離れてもずっと大好きだと。でも離れても大好きなんて言われるほうは重いかもしれない。だいたい恋よりも夢を取った時点で、いちばん好きなんて言う資格は無い。
カザネはスマホからブライアンの番号を消そうとした。いつか寂しさに負けて会いたいなんて言わないように。自分の優柔不断のせいで絶対に彼を振り回さないように。
(さよなら)
唇だけ動かして、番号を消そうとしたが、どうしてもボタンを押せなかった。
日本に帰って当たり前の日常に戻り、アメリカでの日々が自然に風化するまでは、どれだけ頭で命じたところで、彼への想いを断ち切ることはできないだろう。
カザネはスマホをポケットに仕舞うと、過ぎ去っていく外の景色を見ないように静かに目を閉じた。
本当にどうしようもない理由で別れるなら、ギリギリまで傍に居て、素直に涙を流せたかもしれない。しかしカザネの場合はドリームピクチャーのアニメーターになる夢を捨てれば、簡単では無いだろうが、ブライアンと居る未来も選べた。夢か恋か比べてカザネは前者を選んだ。
ブライアンにも父親の弁護士事務所を継ぐという目標があり、変えられない進路がある。どちらも道を変えられないなら別れるのは必然で、自分で選んだ道を進むことに、本当は辛いんだなんて顏はしたくなかった。
だから帰国の日。マクガン家の人たちとハンナは、空港まで見送りに行くと言ってくれたが
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とカザネは見送りを断った。皆とはマクガン家の前で最後に写真を撮り、笑顔でお別れした。それでも荷物が多いからと、バス停まではおじさんに車で送ってもらい、そこから空港行きのバスに乗った。
カザネはブライアンと付き合い出してから、少しずつ女物の服を着るようになった。しかし今日は10か月前、こちらに来た頃とほとんど変わらない姿だ。
リュックに付けたオモチャだけが、ブライアンにもらったものに変わっている。先生からもらった宝物の代わりにと、ブライアンがくれたもの。
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けっきょくブライアンが自分の何を気に入って、ちょっかいを出して来たのかカザネには分からない。でも彼は意地悪な兄か悪友のように、それからもカザネに絡んで来た。
関わるうちに少しずつ、意地悪なだけのヤツじゃないと感心できる部分が増えて、いつの間にか好きになっていた。彼の家庭の問題を垣間見て、密かに傷ついているのに気付いてからは、余計に傍に居たくなった。
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唇だけ動かして、番号を消そうとしたが、どうしてもボタンを押せなかった。
日本に帰って当たり前の日常に戻り、アメリカでの日々が自然に風化するまでは、どれだけ頭で命じたところで、彼への想いを断ち切ることはできないだろう。
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