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約束が叶う時
父との決別
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カザネが帰国した後、ブライアンはバスケ部を引退して勉強とバイトに専念した。カザネを諦めようとした最大の原因は、ブライアンの志望校だ。弁護士を目指すなら、いちばん箔がつくからと父に勧められた学校だった。
それを「彼女の学校と近いところに進学したいから変える」なんて言ったら父が激怒するのは目に見えている。当然、学費や生活費の援助は期待できない。
けれど逆に言えば学費や生活費を工面できれば、物理的な問題はクリアだ。わざわざ父を怒らせたくはないが、どんな苦難とぶつかってもカザネと居ると、ブライアンはもう決めた。
進学先はカザネの志望校に近くて法律が学べるところから、返済不要の奨学金を受けられるところを見つけた。返済義務無しの奨学金は、お金を返さなくていい代わりにかなりの難関で、全科目でAを取らなくてはならない。
学費を奨学金で賄うために、これまで以上に勉強し、生活費を貯めるために夏休みからバイトをはじめた。
ブライアンは優秀なので仕事の覚えは早かった。ただ雇用される側として、理不尽な目に遭うこともある。かねてからブライアンに嫉妬していた男たちが、わざわざ嫌がらせに来ることもあった。理不尽に怒鳴られ、頭を叩かれ、仕事を邪魔されてもブライアンは愚痴一つ零さずに働いた。
ブライアンは傍から見れば金持ちの父親を持つお坊ちゃんだが、子どもの頃から甘えを許されない環境で生きて来た。そのせいかブライアン自身意外なほど、我慢強い性格になっていた。
準備は着々と進んでいたが、勝手に別の大学を受験したことが、流石に父親にバレた。ブライアンが恋人のために、進路を変えたと知った父は
「あれだけ忠告したのに、女のせいで人生を狂わせるなんて正気か!? お前は母親のように、惨めに捨てられて死にたいのか!?」
激情をぶつけて来る父に、ブライアンは静かな態度で
「もちろん母さんのようになんてなりたくないさ。でも俺はハッキリ言って、父さんのようにもなりたくない。金と権力に取りつかれて、本当に大事なものを見失いたくないんだ」
「本当に大事なものだと!? 青臭いことを言って! 私に逆らうなら親子の縁を切るぞ! 後で泣いて謝っても、今後一切援助はしないからな!」
想定どおりの反応だが、父が実際に自分の思いどおりにならなければ息子も捨てられると知り、ブライアンは虚しくなった。ただ人を引き留めるために、金と権力で脅すしかできない父が憎むよりも憐れで
「……いいよ。俺も父さんの期待を裏切りながら、援助だけは欲しいなんて言わない。さよなら、父さん」
父に捨てられると同時に
「……俺まであなたから離れてゴメン」
と自分も父を捨てた。ブライアンにはカザネが居るが、父には誰もいない。それを承知で置き去りにすることを、ブライアンは最後に詫びた。
父と大喧嘩して家を出たブライアンは、カードも車も没収された。しかしこうなるだろうことは予め覚悟していた。ブライアンはバイトで貯めたお金で安いアパートを借りると、淡々と残りの高校生活を続けた。
ブライアン自身はカザネに、家を出た話はしなかった。しかしブライアンが家を出たことは、学校で噂になっており、ジムやハンナも知っていた。
2人からブライアンの近況を聞いたカザネは
『ゴメンね。私のせいでお父さんとケンカになっちゃって』
自分のせいで無理させていることを電話で詫びたが
「カザネのせいじゃない。本当はずっとこうしたかったんだよ」
ブライアンはむしろ清々した声で言うと
「怖くて手放せなかっただけで、本当はずっと捨てたかったんだ。自分でいられない環境も、父が怖くて逆らえない自分も。お前のせいで喧嘩したんじゃなくて、お前のお陰で本当に行きたかった方向に踏み出せたんだよ」
「だから今、俺がしていることを、犠牲だと思わないで欲しい」とカザネに伝えた。ブライアンの言葉にカザネは納得して
『犠牲を払ったわけじゃないなら良かった。ブライアンが私のために大事なものを捨てたんじゃなくて、本当は重荷だったものを捨てて、ようやく軽くなれたってことなら』
大切な人からの理解を諦めて生きて来たブライアンには、分かってもらえることが少しくすぐったくて
「まぁ、重荷の中には金や車も含まれているから、お前にはつまらない思いをさせるけど」
わざと自分を下げるようなことを言った。しかし実際、車や金の有無は男女ともに大きな問題だろうとブライアンは思っていたが
『ブライアンの魅力はそんなところに無いから大丈夫。何も変わらないよ』
カザネは電話の向こうで、あっけらかんと笑うと
『むしろ自由になれた分、前よりカッコいい』
手放しの肯定に、ブライアンは今度こそ何も言えなくなった。「本当に大事なものを見失いたくない」と父に言った時は青臭いと否定された。
世間的には成功者である父に否定されると、ブライアンは未だに揺らぎそうになる。だからこそ、こうしたカザネの言葉に何度でも目を開かされ、大事なものの 在処を教えられる気がする。
だから俺はコイツが好きなんだなと、ブライアンは改めて思った。
それを「彼女の学校と近いところに進学したいから変える」なんて言ったら父が激怒するのは目に見えている。当然、学費や生活費の援助は期待できない。
けれど逆に言えば学費や生活費を工面できれば、物理的な問題はクリアだ。わざわざ父を怒らせたくはないが、どんな苦難とぶつかってもカザネと居ると、ブライアンはもう決めた。
進学先はカザネの志望校に近くて法律が学べるところから、返済不要の奨学金を受けられるところを見つけた。返済義務無しの奨学金は、お金を返さなくていい代わりにかなりの難関で、全科目でAを取らなくてはならない。
学費を奨学金で賄うために、これまで以上に勉強し、生活費を貯めるために夏休みからバイトをはじめた。
ブライアンは優秀なので仕事の覚えは早かった。ただ雇用される側として、理不尽な目に遭うこともある。かねてからブライアンに嫉妬していた男たちが、わざわざ嫌がらせに来ることもあった。理不尽に怒鳴られ、頭を叩かれ、仕事を邪魔されてもブライアンは愚痴一つ零さずに働いた。
ブライアンは傍から見れば金持ちの父親を持つお坊ちゃんだが、子どもの頃から甘えを許されない環境で生きて来た。そのせいかブライアン自身意外なほど、我慢強い性格になっていた。
準備は着々と進んでいたが、勝手に別の大学を受験したことが、流石に父親にバレた。ブライアンが恋人のために、進路を変えたと知った父は
「あれだけ忠告したのに、女のせいで人生を狂わせるなんて正気か!? お前は母親のように、惨めに捨てられて死にたいのか!?」
激情をぶつけて来る父に、ブライアンは静かな態度で
「もちろん母さんのようになんてなりたくないさ。でも俺はハッキリ言って、父さんのようにもなりたくない。金と権力に取りつかれて、本当に大事なものを見失いたくないんだ」
「本当に大事なものだと!? 青臭いことを言って! 私に逆らうなら親子の縁を切るぞ! 後で泣いて謝っても、今後一切援助はしないからな!」
想定どおりの反応だが、父が実際に自分の思いどおりにならなければ息子も捨てられると知り、ブライアンは虚しくなった。ただ人を引き留めるために、金と権力で脅すしかできない父が憎むよりも憐れで
「……いいよ。俺も父さんの期待を裏切りながら、援助だけは欲しいなんて言わない。さよなら、父さん」
父に捨てられると同時に
「……俺まであなたから離れてゴメン」
と自分も父を捨てた。ブライアンにはカザネが居るが、父には誰もいない。それを承知で置き去りにすることを、ブライアンは最後に詫びた。
父と大喧嘩して家を出たブライアンは、カードも車も没収された。しかしこうなるだろうことは予め覚悟していた。ブライアンはバイトで貯めたお金で安いアパートを借りると、淡々と残りの高校生活を続けた。
ブライアン自身はカザネに、家を出た話はしなかった。しかしブライアンが家を出たことは、学校で噂になっており、ジムやハンナも知っていた。
2人からブライアンの近況を聞いたカザネは
『ゴメンね。私のせいでお父さんとケンカになっちゃって』
自分のせいで無理させていることを電話で詫びたが
「カザネのせいじゃない。本当はずっとこうしたかったんだよ」
ブライアンはむしろ清々した声で言うと
「怖くて手放せなかっただけで、本当はずっと捨てたかったんだ。自分でいられない環境も、父が怖くて逆らえない自分も。お前のせいで喧嘩したんじゃなくて、お前のお陰で本当に行きたかった方向に踏み出せたんだよ」
「だから今、俺がしていることを、犠牲だと思わないで欲しい」とカザネに伝えた。ブライアンの言葉にカザネは納得して
『犠牲を払ったわけじゃないなら良かった。ブライアンが私のために大事なものを捨てたんじゃなくて、本当は重荷だったものを捨てて、ようやく軽くなれたってことなら』
大切な人からの理解を諦めて生きて来たブライアンには、分かってもらえることが少しくすぐったくて
「まぁ、重荷の中には金や車も含まれているから、お前にはつまらない思いをさせるけど」
わざと自分を下げるようなことを言った。しかし実際、車や金の有無は男女ともに大きな問題だろうとブライアンは思っていたが
『ブライアンの魅力はそんなところに無いから大丈夫。何も変わらないよ』
カザネは電話の向こうで、あっけらかんと笑うと
『むしろ自由になれた分、前よりカッコいい』
手放しの肯定に、ブライアンは今度こそ何も言えなくなった。「本当に大事なものを見失いたくない」と父に言った時は青臭いと否定された。
世間的には成功者である父に否定されると、ブライアンは未だに揺らぎそうになる。だからこそ、こうしたカザネの言葉に何度でも目を開かされ、大事なものの 在処を教えられる気がする。
だから俺はコイツが好きなんだなと、ブライアンは改めて思った。
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