70 / 73
オマケ・大人になった2人の話
ほんのちょっとの光があれば
しおりを挟む
それからブライアンは、オーウェンに会いに行った。施設で食事も管理されていたオーウェンは、10キロほど痩せていた。しかし脂肪だけでなく筋肉も落ちたせいで、かえってみすぼらしく見えた。人目を気にしない生活のせいで、髪や髭はぼさぼさなのに、目だけがブライアンへの敵意に燃えていた。
回復施設の面会室で再会した2人は
「なんでお前が俺を引き取るんだよ? 俺に恩を売って「今まで酷い態度を取って、すみませんでした」とでも謝らせたいのか?」
予想どおりの拒否反応。以前のブライアンなら、痛烈な皮肉で返していたところだが
「アンタは信じないだろうけど、兄弟だからだよ。一緒に仲良く育ったわけじゃないけど、同じ父親のもとで同じように苦しんで来たから、アンタが今ここに1人で居ることが、他人事だとは思えない」
ブライアンは冷静に、自分の意図を説明すると
「立ち直って欲しいし、それができる人だと信じたい」
説得のための方便ではなく、心からの気持ちを伝えた。それがいちばん心に響くと、カザネと出会って知ったから。
ブライアンの真っ直ぐな気持ちは、オーウェンの心を揺らして
「……期待なんてされても応えられない。俺はお前や親父とは違う」
湿った声で言いながら、彼は自分の両目を手で覆った。泣きそうな自分を見られたくないのだと、同じ癖を持つブライアンには分かった。
この異母兄弟とは、ずっと皮肉には皮肉を、悪意には悪意を返すだけの関係だった。けれどブライアンがはじめて家族の情を見せたことで、オーウェンにも今までとは違う感情が喚起された。はじめてオーウェンが見せた弱さもまたブライアンの兄を助けたいという気持ちを強めた。
ブライアンはオーウェンを自宅に呼ぶべきか迷ったが、それは向こうから
「新婚夫婦の家になんか行けるか」
と断られた。ブライアンはオーウェンに、手頃なアパートと仕事を紹介した。稼ぎの面では良くないブライアンだが、これまでたくさん人助けをして来たので顔が広い。
ブライアンの伝手で、オーウェンは子どもたちにアメフトを教えることになった。
『お兄さんが荒れているのって、怪我で選手生命を断たれたせいなんでしょう? もう一度打ち込めるものに出会えたら、元気になるかなって』
カザネの指摘で、オーウェンが腐ったまま立ち直れなかったのは、自分を生かせる環境を奪われたせいじゃないかとブライアンは考えた。
アメフト選手の道を断たれた後。オーウェンは父の言いなりに、仕事を手伝うようになった。しかしブライアンと違って勉強が不得意なオーウェンには、法律関係の仕事はまるで向いていなかった。
畑違いの環境に身を置くことで、オーウェンは立ち直るどころか、自分の無能さにより打ちのめされた。けれどそれは父が与えた環境でのことで、この世の全てじゃない。
アメフトの分野ではスター選手だったように、オーウェンに適した仕事や環境が必ずある。とは言え、オーウェンと親しくないブライアンには彼の適性が分からないので、ひとまずアメフト関係の仕事を紹介した。
オーウェンは
「プロにもなれなかった男の指導なんて誰が受けたがるんだ」
とぼやいていたが、実際にはじめてみると、当時の知識と経験が活かされて、子どもたちや保護者に喜ばれた。
人は誰かの力になることで、はじめて自分にも力があることを知り、無力感から解放される。それはずっと慣れない環境で無力感に打ちのめされていたオーウェンにとって、久しぶりの手応えだった。
父のところで働いていた時のオーウェンは「キング家の息子として恥ずかしくないように」とカードを持たされて、ブランドもののスーツをまとい、高級車に乗って、一流のレストランで食事をしていた。
今のオーウェンは自分の稼ぎの中から、身の丈に合った服を着て、知り合いから安く譲られた車に乗り、ファミレスやファストフード店で食事をする。以前の彼を知る人が見れば、落ちぶれたと思うだろう。
けれど実際はコーチの仕事が縁でできた友人や教え子たちと、楽しくやっていた。およそ20年ぶりに、穏やかな幸福と充実を味わっていた。
しかしずっとブライアンと不仲だったオーウェンは、居場所ややりがいが出来たからって、それを弟に報告して
「お前のお陰だよ、ブライアン」
とは言わない。むしろ10も年下の弟の指示で、簡単に更生してしまった自分が恥ずかしくて「この仕事にやりがいを感じている」とか「幸せだ」とか絶対に言えないでいる。
でもオーウェンが新しい環境でうまくやっているらしいことを、ブライアンは共通の知人から聞いていた。ずっと他人を嘲るような、歪んだ笑みしか浮かべられないでいた男に、昔のような屈託のない笑顔が戻ったことも。
回復施設の面会室で再会した2人は
「なんでお前が俺を引き取るんだよ? 俺に恩を売って「今まで酷い態度を取って、すみませんでした」とでも謝らせたいのか?」
予想どおりの拒否反応。以前のブライアンなら、痛烈な皮肉で返していたところだが
「アンタは信じないだろうけど、兄弟だからだよ。一緒に仲良く育ったわけじゃないけど、同じ父親のもとで同じように苦しんで来たから、アンタが今ここに1人で居ることが、他人事だとは思えない」
ブライアンは冷静に、自分の意図を説明すると
「立ち直って欲しいし、それができる人だと信じたい」
説得のための方便ではなく、心からの気持ちを伝えた。それがいちばん心に響くと、カザネと出会って知ったから。
ブライアンの真っ直ぐな気持ちは、オーウェンの心を揺らして
「……期待なんてされても応えられない。俺はお前や親父とは違う」
湿った声で言いながら、彼は自分の両目を手で覆った。泣きそうな自分を見られたくないのだと、同じ癖を持つブライアンには分かった。
この異母兄弟とは、ずっと皮肉には皮肉を、悪意には悪意を返すだけの関係だった。けれどブライアンがはじめて家族の情を見せたことで、オーウェンにも今までとは違う感情が喚起された。はじめてオーウェンが見せた弱さもまたブライアンの兄を助けたいという気持ちを強めた。
ブライアンはオーウェンを自宅に呼ぶべきか迷ったが、それは向こうから
「新婚夫婦の家になんか行けるか」
と断られた。ブライアンはオーウェンに、手頃なアパートと仕事を紹介した。稼ぎの面では良くないブライアンだが、これまでたくさん人助けをして来たので顔が広い。
ブライアンの伝手で、オーウェンは子どもたちにアメフトを教えることになった。
『お兄さんが荒れているのって、怪我で選手生命を断たれたせいなんでしょう? もう一度打ち込めるものに出会えたら、元気になるかなって』
カザネの指摘で、オーウェンが腐ったまま立ち直れなかったのは、自分を生かせる環境を奪われたせいじゃないかとブライアンは考えた。
アメフト選手の道を断たれた後。オーウェンは父の言いなりに、仕事を手伝うようになった。しかしブライアンと違って勉強が不得意なオーウェンには、法律関係の仕事はまるで向いていなかった。
畑違いの環境に身を置くことで、オーウェンは立ち直るどころか、自分の無能さにより打ちのめされた。けれどそれは父が与えた環境でのことで、この世の全てじゃない。
アメフトの分野ではスター選手だったように、オーウェンに適した仕事や環境が必ずある。とは言え、オーウェンと親しくないブライアンには彼の適性が分からないので、ひとまずアメフト関係の仕事を紹介した。
オーウェンは
「プロにもなれなかった男の指導なんて誰が受けたがるんだ」
とぼやいていたが、実際にはじめてみると、当時の知識と経験が活かされて、子どもたちや保護者に喜ばれた。
人は誰かの力になることで、はじめて自分にも力があることを知り、無力感から解放される。それはずっと慣れない環境で無力感に打ちのめされていたオーウェンにとって、久しぶりの手応えだった。
父のところで働いていた時のオーウェンは「キング家の息子として恥ずかしくないように」とカードを持たされて、ブランドもののスーツをまとい、高級車に乗って、一流のレストランで食事をしていた。
今のオーウェンは自分の稼ぎの中から、身の丈に合った服を着て、知り合いから安く譲られた車に乗り、ファミレスやファストフード店で食事をする。以前の彼を知る人が見れば、落ちぶれたと思うだろう。
けれど実際はコーチの仕事が縁でできた友人や教え子たちと、楽しくやっていた。およそ20年ぶりに、穏やかな幸福と充実を味わっていた。
しかしずっとブライアンと不仲だったオーウェンは、居場所ややりがいが出来たからって、それを弟に報告して
「お前のお陰だよ、ブライアン」
とは言わない。むしろ10も年下の弟の指示で、簡単に更生してしまった自分が恥ずかしくて「この仕事にやりがいを感じている」とか「幸せだ」とか絶対に言えないでいる。
でもオーウェンが新しい環境でうまくやっているらしいことを、ブライアンは共通の知人から聞いていた。ずっと他人を嘲るような、歪んだ笑みしか浮かべられないでいた男に、昔のような屈託のない笑顔が戻ったことも。
1
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる