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第二話・亡霊になっても逃げられない
死者を鞭打つドーエス
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事後。ドーエスに執拗に責められたナンデは、死体のようにぐったりしていた。そんな妻を、ドーエスは満足そうに抱いて眠っている。
寝静まった2人のもとに、3体の死霊が集まった。そのうちの1体は父のケネンで
「頼むケダカ。ナンデは見逃してやってくれ。この子は自分の命を護ろうとしただけだ。本当に悪いのはドーエスだろう」
気のせいではなくナンデを祟っていたケダカを止めようとしたが
「うるさいぞ、ケネン王。親の仇に犯されて喘いでいるような姫、どうせろくな女ではないわ。ケダカが恨むのも当然じゃ。のう、ケダカ?」
ドーエスに言われたとおり、霊媒師の老婆は死霊の仲間入りをしていた。ケダカは死後の世界に詳しい老婆を頼もしく思い
「おばあさんの言うとおりですよ、父上。仇に脅されるままに、父の亡骸の前で足を開くような恥知らずは死んだほうがいい」
新メンバーの加入で勢いづいたまま、今夜こそナンデを祟り殺そうとしていた。もちろん自分を拷問の末に殺したドーエスも恨んでいるので、順番に殺すつもりだ。
しかしそんな死霊会議は
「どうせ私たちには聞こえないだろうと言いたい放題だな?」
「なっ!?」
死霊たちがベッドに目を向けると、眠っていたはずのドーエスが起きていた。
「お、お前、死霊の声が聞こえるのか!?」
驚く老婆に、ドーエスは嘲笑を浮かべて
「声だけじゃなくて姿も見えるぞ。生前はあんなに怯えていたくせに、死んだ途端に強気になって私を祟ろうとする様を、ずっと観察させてもらっていた」
「どこまでも死者を愚弄しおって! 余裕ぶっていられるのも今のうちじゃぞ! もう暴力によってわしらをねじ伏せることはできないんじゃから――」
老婆は城に集った死霊たちを呼び集めて、数の力でドーエスを祟り殺そうとしたが
「なっ!?」
ドーエスは老婆の胸の中心に、ズボッと手を突っ込んだ。霊体に触れられないから、貫通してしまったのではない。老婆の胸の中心にあるものを掴んだドーエスは
「余裕の理由を少しは考えた方がいいな。お前たちが見えも触れもせぬ霊体になったから調子に乗ったのと同様に、人は根拠もなく得意にはならない」
ドーエスには生まれつき霊魂が見える。死者だけでなく、生者の霊魂ですら。ただ見えるだけでなく肉体から霊体を剥ぎ取ることさえできた。そして触れるということは
「肉体が死んだからとすっかり安心していたようだが、人間には2度目の死がある。霊体には核となる魂があり、魂を破壊されると霊体は消えてしまう。今度こそ完全に消滅し転生も不可能になる。こんな風にな」
ドーエスは鷲掴みにしたおばあさんの魂を、そのままグシャッと握りつぶした。
「うぼぁっ!?」
「おばあさーん!?」
ケネンとケダカが声を合わせて絶叫した。老婆は今度こそ、この世からもあの世からも完全に消滅した。
いとも容易く行われる残虐な行為に、義憤にかられたケネンは
「命を奪っただけじゃ飽き足らず魂まで消滅させるなんて、なんて恐ろしいことを! お前は悪魔か!?」
勢いでドーエスに怒鳴ったものの、
「その悪魔にずいぶんな口の利きようだな? まさか義理の父だから容赦してもらえるとでも?」
「うっ、うぐぅ……」
ドーエスはケネンを怯ませると、次にケダカに目をやり
「お前もナンデを取り殺すのは諦めるんだな。自分で未練を断てないなら、この手で断ち切ってやってもいいが」
ドーエスに手を伸ばされたケダカは、生前に受けたトラウマがブワッと蘇って
「いやぁっ! やめて! 成仏するから!」
ケダカはナンデを祟るのをやめて冥界へ旅立った。父のケネンもドーエスに殺される前に成仏することにしたが、最後に
「ドーエス殿。そなたはなぜナンデを妻にしたのだ?」
残されたナンデを心配して尋ねた。せめてナンデだけでも愛してくれているならと期待したが、ドーエスはニッコリと
「そなたもあの夜、聞いていただろう? そなたの娘は誰よりもいい声で啼くからだ」
その言葉にケネンは実の娘が自分の亡骸の前で凌辱される姿を思い出した。さらにドーエスはケネンを挑発するように「それにあそこの具合もいい」と付け足した。あかさらまな侮辱にケネンはカッとなったが
「ぐっ……! うぅ……!」
2度目の死の恐怖には勝てず、項垂れながら冥界に旅立った。
騒ぎが収まったところで、ようやく話し声に気付いたナンデが
「ドーエス様。いま誰かと話していませんでした?」
「いや、そなたの気のせいだろう」
窓辺に立って空を見るドーエスを不審に思い、自分も外を見たナンデは
「ぎゃあっ!? 何あれ!?」
たくさんの光の玉が、夜空に吸い込まれていくのを見た。ナンデは子どもの頃、お化けの話が好きだった。心霊系の本を読み漁った知識から
「もしかして、あれがオーブってヤツ!? それもあんなにたくさん! 天変地異の前触れなの!?」
ナンデは知らないが、あれはドーエスを恐れて我先に逃げていく死霊たちの群れだった。だから城には何か起こるどころか、死霊たちが一掃されて何も起こらなくなる。
ドーエスを祟ろうとがんばっていた死霊たちが居なくなるのでラップ音も、天井や壁のシミも、鏡に映る霊も変な色の草花も無くなる。ただしそれはドーエスを排除しようとがんばる勢力が、城から居なくなることを示していた。
抵抗勢力を失って本当の恐怖だけが残ってしまったことをナンデは知らない。
寝静まった2人のもとに、3体の死霊が集まった。そのうちの1体は父のケネンで
「頼むケダカ。ナンデは見逃してやってくれ。この子は自分の命を護ろうとしただけだ。本当に悪いのはドーエスだろう」
気のせいではなくナンデを祟っていたケダカを止めようとしたが
「うるさいぞ、ケネン王。親の仇に犯されて喘いでいるような姫、どうせろくな女ではないわ。ケダカが恨むのも当然じゃ。のう、ケダカ?」
ドーエスに言われたとおり、霊媒師の老婆は死霊の仲間入りをしていた。ケダカは死後の世界に詳しい老婆を頼もしく思い
「おばあさんの言うとおりですよ、父上。仇に脅されるままに、父の亡骸の前で足を開くような恥知らずは死んだほうがいい」
新メンバーの加入で勢いづいたまま、今夜こそナンデを祟り殺そうとしていた。もちろん自分を拷問の末に殺したドーエスも恨んでいるので、順番に殺すつもりだ。
しかしそんな死霊会議は
「どうせ私たちには聞こえないだろうと言いたい放題だな?」
「なっ!?」
死霊たちがベッドに目を向けると、眠っていたはずのドーエスが起きていた。
「お、お前、死霊の声が聞こえるのか!?」
驚く老婆に、ドーエスは嘲笑を浮かべて
「声だけじゃなくて姿も見えるぞ。生前はあんなに怯えていたくせに、死んだ途端に強気になって私を祟ろうとする様を、ずっと観察させてもらっていた」
「どこまでも死者を愚弄しおって! 余裕ぶっていられるのも今のうちじゃぞ! もう暴力によってわしらをねじ伏せることはできないんじゃから――」
老婆は城に集った死霊たちを呼び集めて、数の力でドーエスを祟り殺そうとしたが
「なっ!?」
ドーエスは老婆の胸の中心に、ズボッと手を突っ込んだ。霊体に触れられないから、貫通してしまったのではない。老婆の胸の中心にあるものを掴んだドーエスは
「余裕の理由を少しは考えた方がいいな。お前たちが見えも触れもせぬ霊体になったから調子に乗ったのと同様に、人は根拠もなく得意にはならない」
ドーエスには生まれつき霊魂が見える。死者だけでなく、生者の霊魂ですら。ただ見えるだけでなく肉体から霊体を剥ぎ取ることさえできた。そして触れるということは
「肉体が死んだからとすっかり安心していたようだが、人間には2度目の死がある。霊体には核となる魂があり、魂を破壊されると霊体は消えてしまう。今度こそ完全に消滅し転生も不可能になる。こんな風にな」
ドーエスは鷲掴みにしたおばあさんの魂を、そのままグシャッと握りつぶした。
「うぼぁっ!?」
「おばあさーん!?」
ケネンとケダカが声を合わせて絶叫した。老婆は今度こそ、この世からもあの世からも完全に消滅した。
いとも容易く行われる残虐な行為に、義憤にかられたケネンは
「命を奪っただけじゃ飽き足らず魂まで消滅させるなんて、なんて恐ろしいことを! お前は悪魔か!?」
勢いでドーエスに怒鳴ったものの、
「その悪魔にずいぶんな口の利きようだな? まさか義理の父だから容赦してもらえるとでも?」
「うっ、うぐぅ……」
ドーエスはケネンを怯ませると、次にケダカに目をやり
「お前もナンデを取り殺すのは諦めるんだな。自分で未練を断てないなら、この手で断ち切ってやってもいいが」
ドーエスに手を伸ばされたケダカは、生前に受けたトラウマがブワッと蘇って
「いやぁっ! やめて! 成仏するから!」
ケダカはナンデを祟るのをやめて冥界へ旅立った。父のケネンもドーエスに殺される前に成仏することにしたが、最後に
「ドーエス殿。そなたはなぜナンデを妻にしたのだ?」
残されたナンデを心配して尋ねた。せめてナンデだけでも愛してくれているならと期待したが、ドーエスはニッコリと
「そなたもあの夜、聞いていただろう? そなたの娘は誰よりもいい声で啼くからだ」
その言葉にケネンは実の娘が自分の亡骸の前で凌辱される姿を思い出した。さらにドーエスはケネンを挑発するように「それにあそこの具合もいい」と付け足した。あかさらまな侮辱にケネンはカッとなったが
「ぐっ……! うぅ……!」
2度目の死の恐怖には勝てず、項垂れながら冥界に旅立った。
騒ぎが収まったところで、ようやく話し声に気付いたナンデが
「ドーエス様。いま誰かと話していませんでした?」
「いや、そなたの気のせいだろう」
窓辺に立って空を見るドーエスを不審に思い、自分も外を見たナンデは
「ぎゃあっ!? 何あれ!?」
たくさんの光の玉が、夜空に吸い込まれていくのを見た。ナンデは子どもの頃、お化けの話が好きだった。心霊系の本を読み漁った知識から
「もしかして、あれがオーブってヤツ!? それもあんなにたくさん! 天変地異の前触れなの!?」
ナンデは知らないが、あれはドーエスを恐れて我先に逃げていく死霊たちの群れだった。だから城には何か起こるどころか、死霊たちが一掃されて何も起こらなくなる。
ドーエスを祟ろうとがんばっていた死霊たちが居なくなるのでラップ音も、天井や壁のシミも、鏡に映る霊も変な色の草花も無くなる。ただしそれはドーエスを排除しようとがんばる勢力が、城から居なくなることを示していた。
抵抗勢力を失って本当の恐怖だけが残ってしまったことをナンデは知らない。
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