殺戮王から逃げられない

知見夜空

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第三話・異世界に行っても逃げられない

勇者召喚されるドーエス

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 ナンデの世界でも、異世界から召喚された勇者が魔王と戦う話が流行している。そのブームはおよそ10年ほど前。ドーエスへの恐怖と絶望が世界を覆った頃からはじまった。

 この世界の英雄たちでは決して敵わない恐怖の王。誰か魔王(ドーエス)を倒してくれという思いが、創作者たちに勇者召喚を書かせ、読み手に求められた。

 かくいうナンデも本人の前では決して読めないものの、過去に読んだ勇者召喚ものの小説を思い返しては、この世界にも召喚術があったらいいのに。そうしたら勇者にドーエスを倒してもらえるのにと夢想していた。

 ナンデをはじめとする人々の願いは、予想外の形で叶った。ドーエスのほうが勇者として異世界に召喚されたのだ。このままドーエスが異世界に行ってしまえば、元の世界は平和になるが

(なんでぇぇ!? なんで私まで巻き込まれているのぉぉ!?)

 召喚時ドーエスの膝に乗せられて、虚無の表情で愛でられていたナンデも巻き添えになってしまった。


 そして異世界に来てから半年目の今日。ドーエスは遂に、この世界の魔王と対峙した。罪の無い人々を殺し王城を占拠したドーエスを、魔王が成敗しに来た形で。

 玉座から魔王を睥睨へいげいするドーエスの横でナンデは、

(いや、普通は逆でしょうよ!)

 と内心でツッコんだ。そして召喚された日を振り返った。


 召喚された日。召喚者と王族から

「この世界は魔王のせいで危機にひんしている。お主には勇者として魔王を討伐し、この世界を救って欲しい」

 とテンプレな依頼をされたドーエスはシンプルに拒否した。召喚の間に集った人々から

「同じ人間が魔物に苦しめられているのに胸が痛まないのか?」
「弱者を護るのは強者として生まれた者の責務だろう」

 など口々に責められても

「残念ながら私は正義の御旗みはたなど掲げていない。ヒーローゴッコがやりたいなら他を当たるんだな」

 ドーエスは善悪など人間が決めた勝手な価値基準で、互いの都合を押し付け合っているだけだと考えている。個人の主義の押し付け合いに、勇者だなんだと持ち上げられて利用されるつもりは毛頭なかった。

 先方はそれならばと莫大な金銭に加えて

「貴族の身分を与えよう」
「美しい妻を娶らせよう」

 など、ご褒美をチラつかせた。しかしドーエスはもともと王族で、美しい妻は50人以上も娶っては殺して来た。また欲しいものがあれば自力で獲得できるので、他人から与えてもらう必要は無かった。

 名誉でも欲望でも動かせないドーエスに、召喚者たちは呆然と突っ立っていたナンデを人質にとって

「ゴチャゴチャ言わないで我々の指示に従ってもらおう。愛しい細君さいくんを殺されたくなければな」

 とドーエスを脅迫した。するとずっと「くだらぬ」という顔をしていたドーエスが

「いいぞ。やってみろ」

 はじめて面白そうな顔をした。相手は最初、演技をしているのだと思った。あえて動じていないふりをして、ナンデを解放させたいのだと。しかしドーエスは続けて

「卑劣な手段で私を脅し、妻を殺して怒らせてみろ! 怒りとともに振るう暴力が最も心地よい! 私に怒る理由を与えてみろ!」

 目に狂気を浮かべて「ははははは!」と哄笑こうしょうするドーエスに、ナンデと城の者たちは「ひぃっ!?」と震えあがった。

 こりゃダメだと思った城の者たちは、ドーエスを勇者にするのを諦めて元の世界に戻るように頼んだが

「勝手に呼び出しておきながら、そちらの都合で返せると思ったか? 元の世界の人間たちは私への抵抗の意志を無くし、最近は大きな戦いも無く退屈していたところだ。ちょうどいいから私が、この世界を奪ってやろう」

 まるで性質の悪いこっくりさんのように、お願いしても帰ってくれないドーエスを、召喚師たちは慌てて送還しようとした。兵士たちは、自分の身を盾にして儀式の時間を稼ごうとした。しかしドーエスはほんの数秒で、ナンデ以外の全員を殺した。召喚の間はあっという間に血の海になり

(なんでぇぇ!? なんでみんな命を粗末にするのぉぉ!?)

 歯向かっちゃダメよぉぉ! とナンデは頭を抱えた。
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