殺戮王から逃げられない

知見夜空

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第四話・妻が増えても逃げられない

罪なんて着せようとするから(残酷描写注意)

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 最後の新妻・ラブラは16歳で、あどけない顔立ちの美少女だった。ナンデからすれば信じられないことだが、見てくれだけは極上のドーエスに、ラブラは本気で惚れてしまったらしい。

 ラブラはドーエスの唯一の妃になろうと自ら毒を飲んだ。夫の寵愛を独り占めする新妻に嫉妬したナンデが、毒を盛ったように見せかけるために。

 自ら毒を口にして倒れたものの、計算どおり回復したラブラは、か弱く泣きながら

「ナンデ様からいただいたお菓子を食べたら急に具合が悪くなって……。医師が言うにはお菓子から毒物が検出されたと……」
「わ、私は彼女にお菓子なんてあげていません!」

 濡れ衣を着せられたナンデは、ドーエスの処刑を恐れて必死に否定したが

「ドーエス様、信じてください! 私は嘘なんて吐いていません! ナンデ様が私を殺そうと、お菓子に毒を盛ったのです!」

 ラブラは大きな目から綺麗な涙を溢れさせてドーエスに縋った。罪を着せられたナンデすら、この子自身は本当に被害者なのでは? と錯覚してしまうほど迫真の演技だった。

 しかしドーエスはニヤニヤとラブラを見下ろして

「仮にもひと月ともに暮らして、まだ私とナンデの関係も分からぬか?」
「ど、どういうことですか?」
「ナンデは新しい妻たちを疎むどころか歓迎していた。そなたらが居れば自分への注意が逸れるだろうとな」

 何もかもお見通しだったドーエスに、ナンデはギクッとした。ラブラのほうは、そんな異常な夫婦関係は理解できず、

「お、夫を他の女に取られて喜ぶ女が居るはずが……」
「すでに自分以外の2人の妻が殺されているのに、まだ状況が理解できぬか? まぁ、私はそうやって自分だけは別だと驕る女の愚かさが見たくて、わざわざ妻の座を与えるのだから正解と言えば正解だが」

 ドーエスは自分が殺されるとは思ってもみない者を殺すことを特に好んでいる。男なら力や地位に驕る者。女なら美や愛を誇る者。子どもや老人なら、まさかこんな弱き者まで手にかけないだろうと、それぞれ勝手な思い込みを持っている。

 その思い込みを壊す瞬間、ドーエスは単なる殺人以上の快楽を得る。なので女たちにもあえて妻という地位を与える。強者の妻という地位に惑わされて、普通なら絶対にドーエスに感じるはずのない安心や欲望を抱くように。

 殺す機会をずっと待っていたドーエスは

「さて、お前に毒を盛った犯人は誰だろうな? 愛しい妻を卑劣な手段で葬ろうとしたのだ。犯人はどんな恐ろしい目に遭っても仕方ない。お前もそう思うだろう?」

 素知らぬ顔でラブラに念を押すと

「あ、あの、私は……ああっ!?」

 ドーエスがラブラの額にずぶりと指を沈み込ませるのを見て、ナンデは「何それぇぇ!?」と絶叫した。一瞬指で頭部を破壊したのかと思ったが、

「この娘の記憶を見ている。この娘の実際の行動を見れば、誰が菓子をやったのかハッキリする」

 どうやら脳に触れてラブラの記憶を探っているらしい。いよいよ人間離れして来たドーエスは、

「お前がナンデからもらったと言う菓子は、お前が使用人に命じて自分で用意させたものだな?」

 ドーエスの異能にラブラは観念して

「あっ、ああっ、お許しくださいっ、ドーエス様! 私はただあなた様の唯一の妻になりたくて!」
「そうか。では命が尽きるまで、私の唯一の妻であるという幸せな幻想の中で生きるがよい」

 ドーエスはそのままラブラの脳をグチュグチュと弄った。ナンデは急いで目を逸らしたが、喉の奥から酸っぱいものが込み上げるのを感じた。

 術後。ドーエスによって幸せな幻想を植え付けられたラブラは、自室のベッドに寝かされて

「うふふっ、うふふっ、嬉しいっ。ドーエス様。他の何者も愛さぬあなたが、私にだけ心を許してくださるなんて……!」

 虚ろな目で天井を見上げながら、頬をバラ色に染めて蕩けるような笑みを浮かべた。使用人には死ぬまで水も食物も与えるなと命じてあった。ドーエスのお陰で飢えも渇きも感じなくなった彼女は、自然に命尽きるまで幸福な新婚生活を夢見続ける。
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