わたしは怨霊になりたい

知見夜空

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現代編(最終章)

あまり嬉しくない再会

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 い、いったい何が起こっているんだ……。

 確か男は肉体から離れて霊体として来ていると言っていた。

 だとすると、もとの体に戻ったってこと?

 しかし室内から霊たちが消えてホッとしたのも束の間。5分も経たないうちにドアチャイムが鳴ってビクッとする。

 いま深夜なのに。こんな時間に誰が?

 1人暮らしの女性じゃなくても応答できるはずがない。

 けれど謎の訪問者は、もう一度ドアチャイムを鳴らして

「開けてください、ウラメ様。それとも生身で会うより、霊の姿のほうがいいですか?」

 「ウラメ様」と呼びかけられてギクッとする。

 怨女うらめは私の芸名だが、様付けするほど熱心なファンは居ないはずだ。

 さっきよりも激しい恐怖が私を襲う。

 しかし無視するほうがヤバいという直感が、私にドアを開けさせた。

 ドアの向こうに立っていたのは、24、5歳のスラリと背の高い美青年で

「さ、ササグ……?」

 現代風の服装と髪型以外は、まんま夢で見た彼と同じだった。

 パジャマ姿で出迎えた私に、ササグは泣きそうな顔で笑って

「嬉しい。やっと思い出してくれたんですね、ウラメ様」
「ど、どうして君がここに? 君は私の夢の中の人じゃ?」

 たじろぐ私にササグは

「ウラメ様は前世の記憶を夢として解釈していたんですね。ですが、あれは500年前に実際にあったことです」

 そう説明すると、くしゃっと顔を歪めて

「生まれ変わるたびに一緒になろうと約束したものの、今世まであなたを見つけられませんでしたが……ようやく、ようやく、またあなたに会えた」

 私を抱きしめるササグの体は震えていた。

 彼はここで会うまでの500年、私を捜しながらも見つけられないで居たそうだ。

 その孤独を思えば、怖いとか放してとかは言えなかった。

 取りあえずササグを部屋に入れると

「……あのさ、もしかしたら無関係かもしれないけど、さっき怨霊みたいなのから助けてくれたのってササグ?」

 聞いてみたものの、別人であれと願っていたのだが、ササグはニコニコと

「はい。俺は隣で寝ていたんですが、ウラメ様の部屋から霊気を感じたので。霊体になって様子を見に行ったんです。そうしたらウラメ様が霊に襲われていたので」
「情報量が多すぎて分からないよ! 隣で寝ていたって何!? なんで当然のように霊の相手ができるの!?」

 パニックになる私とは反対に、ササグは落ち着いた態度で

「最初の生まれ変わりでは、50を過ぎてもウラメ様と会えなかったので。なぜ俺は運命なんて不確かなものに、大事な再会を委ねようとしたのかと後悔して。それからは生まれ変わるたびに霊的な修行をして来たんです」

 姿や人種や性別がどれだけ変わろうと確実に私を見つけ出せるように、ササグは今日まで400年以上も修行して来たのだと言う。

 その結果、幽体離脱をはじめとする様々な特殊能力を身に着けたそうだ。

「そのお陰で今世ようやくあなたを見つけられたのですが、意識を失う前のウラメ様は俺を覚えていませんでした」

 ササグは自分の姿を見れば思い出すかもと、偶然を装って何度か目の前をウロウロしたらしいが、私は無反応だったようだ。

 ササグは女なら誰もが目を奪われるような美形だが、私は顔立ち関係なく生身の人間に興味が無いので、気づかなかったのだろう。

 とは言えササグなら私に記憶が無かろうと、グイグイ迫って来そうなものだが

「ウラメ様に拒否されたら俺は悲しくて死んでしまうので、お話ししたい気持ちはあっても、陰ながら見守るしかありませんでした……」

 ササグは雨に濡れた子犬のように震えながら答えた。

 恐ろしいところもあるが、根は繊細で憶病な子なのだ。

「でもだったら、どうしてさっきはウラメ様って話しかけて来たの? 私が思い出していなかったら、それこそ不審者扱いされていたかもしれないのに」
「言葉や態度に出さなくても、魂を見れば記憶の有無が分かるので。病室で目を覚ましたウラメ様を見て、俺の知るあなたに戻ったのだと分かりました」
「病室で目を覚ました私を見てって……病院ではお医者さんと母さんにしか会ってないけど、ササグはいつ私を見たの?」

 正座したまま無言で顔を逸らすササグに

「ササグ?」

 重ねて問うと、彼は恥ずかしそうに頬を染めて

「……すみません。ウラメ様を見つけてから、話しかけられはしないものの、あなたと一緒に居たくて、よく霊体の状態で後をつけていました……」

 ちなみに私をトラック事故から助けた不可視の存在も、ご先祖様や守護霊ではなくササグだったようだ。

 病院に運ばれてからも私を心配して、よく霊体の状態で様子を見に来ていたらしい。

 また彼は今、私の隣の部屋に住んでいるそうだ。

 道理で霊体が消えてから生身で登場するまでが、ものすごく早かったわけだ。

 沈黙を恐れたのか、ササグは再び「すみません……」と謝罪した。

 こんなに小さくなられると「このストーカーめ」とは責めにくい。

 生まれつき異性への興味が希薄な私だが、ササグの美しい容姿と健気な態度は本当にズルい。
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