こんな馬鹿でダメな男、好きなはずないから

知見夜空

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第一話・天使な彼女と悪魔な兄と

白石誠太郎という男

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 僕、白石誠太郎しらいしせいたろうは少女漫画好きの母の影響で、幼い頃から王子に憧れていた。

 幸い僕の家は国内でも1、2を争う大手製薬会社を中心に複数の会社を経営している。また見た目に関しても、大和撫子の母と武士のように凛々しい父の良いところ取りだと、子どもの頃から誉めそやされて来た。

 けれど与えられた容姿と財力だけを誇るのは恥ずべきことだ。だから見目や家柄に相応しい能力や人品を身に着けるべく、幼い頃から努力して来た。

 その甲斐あって高校2年生の現在。僕は都内有数の名門高校の中でも勉強、運動、ルックス、財力ともに頂点に君臨していた。女の子たちから毎日のようにプレゼントをもらったり告白されたりする、いわゆる学園の王子的な存在になれた。

 しかし僕の目指す理想の王子は、ハイスペックでモテるだけでは成立しない。知力も体力も財力も、ただ1人の女性を完璧に愛し護り抜くために必要なのであって、不特定多数の異性を誑かすためのものではない。僕はあくまで少女漫画的な一途で清らかな恋愛がしたいのだ。

 自分の全てをただ1人の相手に捧げること。それが喜びだと感じられる相手と出会うことが僕の夢だった。


 それなのに僕は高校2年になっても、一度も本命を作れずにいた。くどいようだが、異性にモテないわけじゃない。また女子の間では

「あなた程度の女性が白石君にアプローチするなんておこがましいのではなくて?」

 的な争いがあるようで、僕に告白して来る女性はおのずと洗練された子が多い。しかしハイレベルな女性たちと交際する機会を得ているにも関わらず

「ねぇ、聞いた? 白石君ったら吉野さんのこともフッてしまったそうよ」
「えっ、また? こんなに頻繁に彼女が変わるなんて、もしかして白石君は意外と遊び人なのかしら?」

 放課後の教室。忘れ物を取りに戻った僕が聞いているとも知らず、クラスの女子たちは話を続けて

「いいえ、彼女たちによれば、深い関係になる前に別れたそうよ。なんでも「悪いけど、君にはドキドキしない」って、キスもしないうちにフラれてしまったとか」
「えっ、それはそれで傷つくわね。それにしても吉野さんレベルの美人でもダメだなんて、逆にどんな子だったらいいのかしら? 意外と遊んでいそうな子のほうがいいとか?」
「でも美人でセクシーな先輩に半裸で迫られた時には、汚らわしいものを見るような目で「やめてくれ。はしたない」と拒んだそうよ」
「清楚でもセクシーでもダメって、もしかして白石君って……」

 ところ変わって、ここは車内。学校が終わって、じいやの運転で帰宅する途中。

「違う! 僕はホモじゃない!」

 彼女たちの会話の続きを思い出して思わず叫ぶと

「どうなさったんですか? 誠太郎様」

 運転中のじいやが驚いたように声をかけて来たので

「す、すまない。ちょっと学校でのことを思い出して」

 取り乱したことを恥じながら詫びると

「もしやイジメられていらっしゃるのですか? 誠太郎様があまりにもお出来になるから、卑劣な学友に悪い噂でも流されているのですか?」
「いや、僕の評判を落とすための誰かの策略というわけじゃないんだ。ただ、だからこそ性質が悪いと言うか」

 それから僕は、じいやに学校でのことを軽く説明した。これまで何人かの女性と交際したものの、いまいちピンと来なくてキスもせずに別れたこと。愛情も無いのに女性に触れるべきではないと考えているのもあるが、我慢や理性も要らないほど、そもそも何かしたいとも感じなかった。

 要するに、女子たちが噂するようにいつも

「悪いけど、君にはドキドキしない」

 と別れて来た。そして例の「あのクラスの美女でダメなら、白石君はホモなのでは?」という噂が流れた。

 先日はとうとう美少女顔の後輩男子に呼び出されて、

「先輩が実はゲイって噂、本当ですか? もし女の子よりも男が好きなら、僕とかどうでしょうか?」

 と胸に飛び込まれそうになった。驚いた僕は咄嗟に相手の勢いを利用して、投げ飛ばしてしまった。子どもの頃から励んで来た武道の成果が、悪い形で発揮された。

 お陰でホモの噂は下火になったが、今はロリコンおよび熟女好きの疑いをかけられている。こんなの僕が望んだ高校生活ではない。

 後部座席で頭を抱える僕に、じいやは

「人はそれぞれ成長の速度が違います。失礼ですが誠太郎様は、普通の子たちよりも少し奥手なのでしょう。ですが、そのうちきっと胸が熱くなるような素晴らしい恋ができますよ」
「いや、恋をしたことがないわけじゃないんだ……」
「と言いますと?」

 じいやは僕の返答を待たず、勝手に何かを思い出して

「……ああ、そう言えば、小学生の頃、確か誠太郎様には初恋の君がいらっしゃいましたね?」

 じいやの指摘にギクッとする。確かに僕には小学生の頃、好きな子が居た。
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