こんな馬鹿でダメな男、好きなはずないから

知見夜空

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第一話・天使な彼女と悪魔な兄と

初恋再び

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 僕に初恋の相手が居たことを思い出したじいやは

「もしや誠太郎様は、まだその初恋の君を想っていらっしゃるのでは? そのせいで他の魅力的な異性を前にしても、心が動かないのかもしれませんよ?」
「僕がまだアイツを想っているだって!? 無い無い! そんなことは断じてあり得ない!」

 今では全否定している僕の初恋の相手。それは小学5年生の頃、他のクラスに転校して来た子だった。

 肩までの長さの天然の茶髪を後ろで1本に括っていた。退屈そうな顔で廊下を歩くその子とすれ違った瞬間、まるで雷に打たれたみたいに体中に衝撃が走った。

 僕はすぐに、その場に居た同級生の男子に声をかけて

「なぁ、君。あの子は誰だ? あんな可愛い子、うちの学校に居たか?」

 僕の問いに、彼は驚いた顔で

「えっ? 可愛いって今通ったヤツのこと? アイツは姫野ひめのだよ。先週うちのクラスに転校して来たんだ」
「姫野さんって言うのか……。名前まで可憐だな……」

 うっとりと呟く僕に、相手が奇異なものを見る目を向けていたことは、その時は気づかなかった。

 その夜。僕ははじめて、たった数秒見ただけの姫野の姿が忘れられず、ベッドに入ってからもドキドキして眠れないという経験をした。

 僕は自分磨きに励むあまり、人付き合いを疎かにして来た。だから用も無いのに人に話しかけることが苦手だ。そのままならクラスも違うし、遠くから見つめるだけになっていたかもしれない。

 しかし幸運にも姫野のほうから僕に声をかけてくれて、

「君が白石クンって言うの? 噂どおり背が高くてカッコいいね」

 姫野は見た目だけじゃなく、話し方まで甘やかで可愛かった。優しくおしとやかな正統派美少女ではなく、ショッキングピンクと黒のパーカーが似合う、ちょっとワルっぽい感じの子。短パンから覗く膝小僧には、絆創膏が貼られていた。笑うと見える牙のような犬歯が、小悪魔っぽさを助長していた。

 けれど結論から言えば、姫野はワルっぽい『感じ』でも小悪魔でもなく間違いなく、ワルで悪魔だった。

 しかし当時の僕は、姫野の本性も知らず

「白石クンって頭がいいんだよね? ここ分からないんだ~。教えて?」

 教えるだけのはずが、宿題を丸々やらされたり

「白石クンってベンツで登校しているんだ? すごーい。姫も乗ってみた~い」

 いつの間にか足として使われていたり

「姫、か弱いから机が重くて運べな~い。白石ク~ン……」

 潤んだ目で哀願された僕は、掃除当番の姫野の代わりに、喜んで机を運んであげた。別のクラスなのにだ。

 また、なぜかよく男子に追いかけられていた姫野に

「助けて白石クン! アイツらが姫をいじめるの~!」

 と助けを求められて

「男のくせに女の子をいじめるとは何事だ!」
「ち、違っ。ソイツはお前が思うようなヤツじゃ。話を聞けぇぇ!」

 彼女の代わりによく男子と戦った。殴り合いのケンカなんて姫野と出会ってからはじめてしたが

「大丈夫、白石クン?」
「僕は男だから、このくらい全然平気だ」
「すご~い。強いんだね~。カッコいい~」

 姫野は拍手しながら笑うと、両手で僕の手を取って

「姫、白石クンのこと好きになっちゃいそう」

 語尾にハートがついているような甘い声で囁かれると、天にも昇りそうな心地になった。姫野可愛い。姫野のためなら死ねると本気で思っていた。

 しかしある時。僕はクラスの女子たちから、姫野について、ある事実を告げられた。

「ちょっと白石クン! いい加減、目を覚まして! アイツは、姫野はね……!」

 女子から知らされた姫野の正体は……いやいやいや。僕はなんでアイツのことを思い出しているんだ。忘れよう。あの悪魔のことは、思い出しちゃいけない。

 ただ今では面影もおぼろだが、見た目だけはすごく可愛かった印象がある。アイツの本性を知った後も、あの可愛い顔を向けられると、ついドキッとしてしまうほど。

 どこかにアイツと全く同じ顔で、かつ性格のよい女性は居ないだろうか? 何も少女漫画のヒロイン並でなくてもいい。悪魔や外道と呼ばれる類で無ければ。

 もしそんな子が居れば、僕は初恋のトラウマを乗り越えて、幸せな恋愛ができるかもしれない。ベンツの窓越しに外の風景を眺めて黄昏ていると

「じいや! 車を止めてくれ!」
「えっ? ここでですか?」
「頼む! 見失ってしまう!」
「は、はい」

 路肩にベンツを寄せて一時停止する。今通り過ぎた少女を振り返る。遠目に見た彼女はやっぱり

「姫野にソックリだ……」

 天然の茶髪だった姫野とは違い、彼女は黒髪だった。でもそれ以外は、もし姫野があのまま成長していたら、こうなっていただろうと思うほど完璧な容姿だった。こんな雷に打たれるような衝撃は久しぶりだ。彼女が僕の運命の相手かもしれない。
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