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別れの足音
消えない約束(カイル視点)
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村での最後の日々はあっという間に過ぎて、今日は12歳の誕生日。日中は村の人たちからも、たくさんのお祝いの言葉やプレゼントをもらった。
こんなによくしてもらいながら、明日には別れも言わずに居なくなることが、やっぱり少し後ろめたかった。
だけど旅立ちの理由を話せば、俺じゃなくてアニスが悪く思われる。それを考えると、けっきょく村の人たちには何も言えなかった。
すっかり夜も更けた頃。俺は父さんが眠ってから、こっそりアニスを家から連れ出すと
「こんな遅くに、どこまで行くの?」
「ゴメン。もうすぐだから」
困惑するアニスの手を引いて、村近くの森を歩く。今夜は満月だから明るいけど、この森には魔物が棲んでいる。
昼間は比較的安全だけど、魔物は夜行性が多いので、夜に森を歩くのは危険だ。でもアニスの『隠形』のおかげで、いちいち戦闘になることなく歩けた。
そこまでして俺がアニスを連れて来たかった場所は
「もう目を開けていいよ」
目的地の手前で閉じてもらった目を、開けるようにアニスに言う。
瞼を開けたアニスは、目の前の光景に驚いて
「綺麗……」
俺たちの前には一面の花畑が広がっていた。
俺も夜に、ここに来るのははじめてだ。こうして見ると、陽光と月光。受ける光で、花の印象はまるで違った。
昼間ももちろん綺麗だけど、青白い月明かりに照らされた花畑は、物語の中の風景のように幻想的だった。
アニスは腰を下ろして、まじまじ花を観察すると
「これ全部エニシアの花?」
「そう。しばらく村には帰れないから、いちばん綺麗な場所をアニスに見せておきたくて」
はじめて来た夜の花畑が、思ったよりも特別に美しい場所で良かった。
しかし目的はそれだけじゃなくて
「それとエニシアの花は、この付近にしか咲かないらしいから、村を出る前にあげたかったんだ」
俺はエニシアの花を一輪摘むと
「……エニシアの花の意味を覚えている?」
以前、結婚式に出た時に一度だけアニスに話した。この村ではエニシアの花を一輪渡すことが婚約という『消えない約束』になる。
そして本番では
「大人になったら結婚して。俺が作った花冠を被って欲しい」
聖騎士を目指していた頃は、エニシアの花も結婚も他人事だった。
でもアニスと出会ってから、最愛の人と消えない約束で結ばれたら、どんなに幸せだろうと憧れるようになった。
やっと12歳になったばかりの俺がこんなことを言っても、かえって軽薄かもしれない。だけど旅立つなら、エニシアの花を渡せるタイミングは今だけだ。
だから求婚の意味のある花を差し出して、約束を求めた結果は
「ア、アニス? どうして泣いているの? 俺がいきなり結婚とか言ったから? 嫌だった?」
泣きそうな顔を見たことはあった。でもアニスが実際に、俺の前で涙を流すのははじめてだ。
調子に乗って求めすぎちゃった? やっぱり花畑を見せるだけにしたら良かったかも。
負担だったのかなとオロオロする俺に、アニスは涙を拭いながら
「違う。嬉しくて」
「う、嬉しいって?」
戸惑いながら問う俺に、アニスは顔を上げると
「君からこの花をもらえたことが嬉しい。消えない約束をありがとう、カイル」
エニシアの花畑で、約束の花を大事そうに受け取りながら微笑むアニスを月明かりが照らす。
目の前の光景が、きっと一生忘れられないくらい綺麗で、俺はドキドキしながら
「あ、あの、それって、大人になったら俺と結婚してくれるってこと?」
俺の問いに、アニスは少し迷うような間を開けたものの
「……うん。君が大人になった時、まだ私を好きだったら」
「それなら大丈夫! 俺は何があっても絶対に、ずっとアニスが大好きだもん!」
俺は喜びのあまり飛び跳ねるように、アニスにギュッと抱き着くと
「いちばん綺麗な花冠が作れるように、たくさん練習するね!」
と世界一、幸せな約束をした。
こんなによくしてもらいながら、明日には別れも言わずに居なくなることが、やっぱり少し後ろめたかった。
だけど旅立ちの理由を話せば、俺じゃなくてアニスが悪く思われる。それを考えると、けっきょく村の人たちには何も言えなかった。
すっかり夜も更けた頃。俺は父さんが眠ってから、こっそりアニスを家から連れ出すと
「こんな遅くに、どこまで行くの?」
「ゴメン。もうすぐだから」
困惑するアニスの手を引いて、村近くの森を歩く。今夜は満月だから明るいけど、この森には魔物が棲んでいる。
昼間は比較的安全だけど、魔物は夜行性が多いので、夜に森を歩くのは危険だ。でもアニスの『隠形』のおかげで、いちいち戦闘になることなく歩けた。
そこまでして俺がアニスを連れて来たかった場所は
「もう目を開けていいよ」
目的地の手前で閉じてもらった目を、開けるようにアニスに言う。
瞼を開けたアニスは、目の前の光景に驚いて
「綺麗……」
俺たちの前には一面の花畑が広がっていた。
俺も夜に、ここに来るのははじめてだ。こうして見ると、陽光と月光。受ける光で、花の印象はまるで違った。
昼間ももちろん綺麗だけど、青白い月明かりに照らされた花畑は、物語の中の風景のように幻想的だった。
アニスは腰を下ろして、まじまじ花を観察すると
「これ全部エニシアの花?」
「そう。しばらく村には帰れないから、いちばん綺麗な場所をアニスに見せておきたくて」
はじめて来た夜の花畑が、思ったよりも特別に美しい場所で良かった。
しかし目的はそれだけじゃなくて
「それとエニシアの花は、この付近にしか咲かないらしいから、村を出る前にあげたかったんだ」
俺はエニシアの花を一輪摘むと
「……エニシアの花の意味を覚えている?」
以前、結婚式に出た時に一度だけアニスに話した。この村ではエニシアの花を一輪渡すことが婚約という『消えない約束』になる。
そして本番では
「大人になったら結婚して。俺が作った花冠を被って欲しい」
聖騎士を目指していた頃は、エニシアの花も結婚も他人事だった。
でもアニスと出会ってから、最愛の人と消えない約束で結ばれたら、どんなに幸せだろうと憧れるようになった。
やっと12歳になったばかりの俺がこんなことを言っても、かえって軽薄かもしれない。だけど旅立つなら、エニシアの花を渡せるタイミングは今だけだ。
だから求婚の意味のある花を差し出して、約束を求めた結果は
「ア、アニス? どうして泣いているの? 俺がいきなり結婚とか言ったから? 嫌だった?」
泣きそうな顔を見たことはあった。でもアニスが実際に、俺の前で涙を流すのははじめてだ。
調子に乗って求めすぎちゃった? やっぱり花畑を見せるだけにしたら良かったかも。
負担だったのかなとオロオロする俺に、アニスは涙を拭いながら
「違う。嬉しくて」
「う、嬉しいって?」
戸惑いながら問う俺に、アニスは顔を上げると
「君からこの花をもらえたことが嬉しい。消えない約束をありがとう、カイル」
エニシアの花畑で、約束の花を大事そうに受け取りながら微笑むアニスを月明かりが照らす。
目の前の光景が、きっと一生忘れられないくらい綺麗で、俺はドキドキしながら
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「それなら大丈夫! 俺は何があっても絶対に、ずっとアニスが大好きだもん!」
俺は喜びのあまり飛び跳ねるように、アニスにギュッと抱き着くと
「いちばん綺麗な花冠が作れるように、たくさん練習するね!」
と世界一、幸せな約束をした。
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