河原人さぶ

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1. 歩き巫女

河原人さぶ

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 長和五年の正月、京都は鴨川の河原人さぶは、近所の雑色から弊死した牛が出たと聞いて喜んだ。新年早々の獲物である。
  早朝から河原で、運びこまれた老いた牛を捌くのは快感そのものである。穢れを嫌う京の人々は獣の解体には近寄らないので却って作業に集中できる。
  さぶは内心誇り高かった。それというのも昨年の暮れ、人別帳から籍を抜けるという話を聞いて、なめした皮と引き換えに近所の寺で剃髪したからだ。
  さぶは備中の貧農に生を受けたが、地主の年貢と役務がきつく、父親が土地を捨て離散した。気がつくと母兄弟も蒸発しており、仕方なくさぶも故郷を出て流れついたのが京の鴨川であった。
  鴨川には、さぶの河原小屋の他にも同じような小屋が点在しており、皆窮していたが互いに助け合う不思議な暖かさがさぶを満足させていた。
  牛を捌くさぶの周りには、だんだんと河原人の人垣ができ始めた。皆、手に手に思い思いの器をもっている。内臓の肉片でも御相伴に預かれればという寸法である。
  「正月だ、後で雑色には話とくから、米でも野菜でもある奴は持ち寄ってくれ、肉と煮込んで鍋をやっておっそう分けだ」
 さぶが肉を捌きながら気勢を上げると人の輪がどっと湧いた。
  さぶにはここ数年、面倒を見ている少女がいた。ミクである。河原で泣きながら歩いているところをさぶが保護してずっと面倒をみている。
  年の頃は今年で数えの十二、三といったところか、胸も膨らみかけ、ほんのりとした色気も出てきて、さぶの身の回りで甲斐甲斐しく尽くしている。
 「なんでもするから、ここに置いて」
 女房というものはこういう女をさすのではないか、さぶも内心満更ではなかった。
  さぶが牛の胃を探った時である。何か石コロのようなものが手に当たった。さぶはそれが古老から聞いていた牛黄であることに狂喜した。
  牛黄は、牛が薬草を舐めてできた天然の薬石で、それを少し削って人が服すと薬効著しいものであった。
 「これを市中の薬問屋に持っていけば、牛数頭分の役得だ」
  さぶは一座の者達に鍋を振る舞いながら上機嫌であった。
  正午になり、皆が鍋を囲んでいるところに、その匂いと水煙に惹きつけられるように歩き巫女がやって来た。
  石見から来たというこの歩き巫女は、シノといい、歌舞をよくするという。さぶは河原には決して見ることのないその美しさにいっぺんで目を奪われた。
 「礼は鍋だけでないぞ、手厚くできる」
 牛黄が出たら、すぐに河原人を監督する検非違使に通報することになっていたが、シノを見つめているうちにさぶからその思いは雲散霧消していた。
  さぶがシノの歌舞に心奪われ、牛黄を懐に握りしめる側で、ミクは牛黄の玉を白眼視していた。
  鴨川の夜はしんしんと更け、川のせせらぎに混じって時おり鵜の鳴き声が聴こえるばかりである。
  何も無いさぶの小屋には、獸の脂でかすかな明かりが灯され、それがかすかな異臭を漂わせている。
  「明日、この牛黄を薬問屋に持っていけば、牛三頭分の大金が入る。なっ、だからいいだろう?」
  さぶは上目遣いでシノの反応を見た。
  シノは少し躊躇してから、向こうを向くとするすると着ている物を脱ぎ捨て全裸になった。肉付きのいい尻がなまめかしい。
  歩き巫女にとって、こうした商売も路銀を調達する手段の一つだ。
  シノはさぶの方に向き直ると、筵の上に腰を下ろしてユックリと股を開いた。さぶはその漆黒の茂みを認めると、得心したかのように全裸になり、長いあいだ持て余していた一物を精一杯怒張させて身体を合わせた。
  その晩、鴨川の河原には川のせせらぎに混じって、シノの喘ぎ声が深夜まで響いた。
 ミクはさぶの小屋から二、三軒離れたサンジの小屋で一晩を過ごしたがまんじりともしない。ミクは夜半の洛中に歩を進めていた。
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