根来半四郎江戸詰密偵帳

dragon49

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09 ももんじ先生の東西

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 橋本が竹橋の藩邸に出仕すると、藩の牛込射場を管理する、幕府の鉄砲衆大番頭である服部右衛門に会った。
 「これは服部殿、お久しぶりですなぁ。江戸煩いでお身体の方が芳しくないとお聞きしましたが」、橋本が慇懃に挨拶した。
 「最近、射場に根来半四郎殿が出入りする様になって、山鯨だの牡丹だのを持ってきてくれるのです。その薬喰いでスッカリ良くなりました。お陰様ですなぁ」、服部は水野に会釈した。
 「いやぁ、世辞は別として半四郎殿の鉄砲衆としての腕は大したものです。牛込射場では、15間の射撃でまだ的を外した事は有りません。幕府内でも一二を争う手練れですなぁ」。水野が不敵な微笑をした。
 橋本は何やら胸騒ぎを覚えた。役を正午に終えると、その脚で深川の裏長屋に半四郎を訪ねた。「おーい、半四郎おるか?」、半四郎はあいにく留守であった。
 橋本は仕方なく、隣居する大工の女房に半四郎の行き先を聴いた、「あー半四郎さんなら、八王子じゃないかしらね~ももんじ狩りに行くと言ってたから、二、三日で帰るよ」、「何?!八王子?二、三日?!」、何という健脚であろうかと橋本は仰天した。
 「それから、牛込に寄って、平河町経由で深川に帰って来るのさ。だから長屋の皆は、ももんじ先生って呼んでるよ」、「信じられん」、「あの先生はね、明け六つ前には起きて、隅田川に水練に行くか、野駆けに行ってから、ほれ長屋の屋根の修理をしてくれるんだ。高い所が好きだからって、駄賃を取らないんだ」。
  出仕しない半四郎を咎めるどころか、どこか庇う水野に何かしら腑に落ちない橋本は、大家にことわり半四郎の部屋を検める事とした。
  何のことはない長屋の一室であったが、天井に修復した所が有り、大工の家からハシゴを借りた橋本はそこから屋根裏に入った。そこで橋本が見たものは、銃器と弾薬、小箱に入った数種の手裏剣、鎖帷子などであった。「奴は、紀州の忍び....」。藩邸で橋本がこの事を口にすると、留守居役の水野は即刻彼を国許に返してしまった。
(続く)
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