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荒城の月
しおりを挟む太田道灌は、天守閣に登り夜空を仰いでいた。
「月は変わらぬ。往時も今も、そして将来も」
道灌は、誰もいない天守閣で一人茶を点てて含んだ。
「すっかり敵に囲まれてしまった。東も西も北も」
利根川の水が寄せては返し、時折潮の匂いを運んでくる。
「ん!あれは?」
破れた城壁の隙間から、市女笠の赤い小袖の女が城に向かってくる。
道灌も天守閣を降りた。
「桔梗か」
女が市女笠をとり、傅いた。
「家康の暗殺、失敗」
「よいのじゃ、これで全てが終わる」
「家臣には、暇を出さねばならぬのう」
道灌は、月を望んだ。
「月は変わらぬ。往時も今も、そして城の主人が変わっても」
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