迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

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Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱

第16話 地上はちょっとした騒ぎになっていた

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 アルマは商家の一人娘として生まれ育った。将来は父の仕事を手伝うものだと思っていたが、ある日回復魔法に適性があることが判明。両親はそれをとても喜んだ。
 回復術士として神殿勤めをするか迷宮探索者になるか二択を迫られたとき、なぜかアルマは探索者への道を選んだ。ぼんやりとだが、迷宮探索者というものに対しての憧れがあったのだ。
 家族から期待されてこの迷宮都市に出てきて、そして今のレギオンに入ったものの、現実はなかなかうまくいかず、毎日怒られてばかりだった。毎日、もう実家に帰りたいという気持ちと、期待されて出てきたため恥ずかしくて帰れないという気持ちが戦っていた。

 そんな上手くいかない毎日を送っていたアルマは、ついにこれまで最大の危機を迎えた。ロイダたちに置いて行かれた後、ヒールの魔法でダメージを与えてゾンビを追い払ったりしながらも、どっちへ逃げればいいか分からず迷宮の中で立ち往生していた。
 そんな中、彼は現れた。
 アルマを助けるため、彼は辺りにいる魔物をあっという間に一掃した。
 逃げようと彼が指示を出してくれた瞬間、初めて見る巨大なクモの姿にアルマは萎縮してしまった。
 それを察した彼は巨大グモへと向かっていったが、上から襲ってきたスライムに姿勢を崩され、落とし穴の罠にかかってしまう。穴の中へと降りてゆく巨大グモに焦ったアルマは、その恐怖心に打ち勝ち、巨大グモの上から穴の中の彼に回復魔法をかけることに成功する。
 彼はクモに噛まれていたが、回復魔法によって傷がすぐに消え、そして彼は覚醒した。

 「前世と同じやないかーい?!」という、謎の叫び声を上げた後の彼は凄かった。
 彼は逃げるという選択肢を選ぶことをやめ、次から次へと魔物を倒し続けた。
 その剣は力づくで豪快なロイダの剣とは違い、流麗で美しく、とても芸術的なものに見えた。思わず言葉を失ったアルマは、ただその姿に見とれていた。
 アルマが憧れていた迷宮探索者の姿がそこにあった。

 気がつくと辺りに溢れていた魔物は一匹残らずいなくなり、代わりに足元に沢山の魔石が散らばっていたのだった。

★★★★★★★★

「これで全部かな?」

 モンスタートレインの魔物を駆逐しつくしたロキは、後に残された魔石をアルマと二人で残らず拾った。

「けっこうな量が取れたな。上層とはいえこんだけあれば、まあまあの稼ぎだな」

 荷物を入れるバックパックが、二人とも一杯になるほどの量だった。
 魔石を拾いつくした二人は、地上へ戻るため来た道を歩きだした。

「俺の名前はロキだ。君は?」

「え?あ、アルマです!」

「アルマ、助けてくれてありがとう。俺一人だったらあのまま死んでたよ」

「え?そ、そんな!助けてもらったのはこちらの方です!」

「それにしてもすごいな、そんなに若いのに回復魔法が使えるなんて」

「そんな、すごいなんて……」

 急に褒められて、照れてうつむくアルマ。
 ロキはそんなアルマにお構いなしに、ただ自分の思ったことを呟く。

「うらやましいよ、回復魔法。俺も魔法の使い方を習ったことがあるんだが、回復魔法だけは適性がなかった。もし俺に回復魔法が使えたら、ソロでやっていくこともできたかもしれないのに」

「私はロキさんがうらやましいです。とても強くって。私は回復魔法しか使えないので……」

「そうなのか?アルマは迷宮探索者になってどれくらいだ?」

「まだ最近なったばかりです」

「新人か!じゃあこれから色々学べばいい。俺だって最初から何でもできたわけじゃない」

「はい!」

 アルマは最近褒めらることがなかったし、こうして励ましてもらうこともなかった。
 ロキの言葉がとても嬉しく。なんだか胸が熱くなった。
 思わず目に涙があふれてしまい、慌ててローブの袖でそれを拭く。

「どうした?悪い、変なこと言っちゃったか?」

「いえ、違うんです……」

 気まずくなった二人は、その後は無言で地上へと歩いた。

 二人は別々のレギオンに所属している。なので叶うことはないのだが、アルマは心の中で、ロキのような人と一緒に迷宮探索してみたかった。そしたら今とは違う状況になっていたかもしれない。ふとそう思った。

★★★★★★★★

 ロキとアルマが一緒にダンジョンから出ると、ギルド内部は先ほどのモンスタートレインで騒ぎになっていた

 アドンたちとロイダたち、それぞれのパーティーメンバーが大声で言い合いをしていた。
 お互いの言い分をギルド職員が困った顔で聞きながら、なんとか仲裁をしようとしている。

「だからこのおばさんたちを助けに行ったら、モンスタートレインを俺たちになすりつけて逃げて行ったんだ!」

「なすりつけなんて言い方するんじゃねえよ!おまえらが助けに来たから任せてやったんじゃねえか!おまえらがどうなろうと、か弱い女探索者を助けることができて本望だろう!」

「誰がか弱い女探索者だ、このババア!」

「何だとこのデブ?ぶっ飛ばすぞ!」

「ぶっ飛ばす?!やってみろ!これだけ目撃者のいるギルド内でできるならな!傷害罪で即逮捕されるだけだぞ!わはは!」

「てめえ殺す!」

 ロイダはアドンへ向けて、迷わず大剣を振り下ろす。
 間一髪盾でそれを受け止めると、アドンは大きく尻もちを付く。

「ひいい!人殺しだ!助けてくれ!」

「誰が人殺しだこら!」

 追い打ちをかけようとするロイダを、ギルド職員が羽交い絞めにして取り押さえる。
 血の気の多い探索者たちの間でいざこざは絶えないが、今回の騒ぎは特別ひどい。

「どっちも頭を冷やしてください!とにかく正確な情報を説明してください!」

「ともかくそのババアのせいで、こっちはロキが犠牲になったんだよ!人が一人死んでんだ!」

「こっちだってアルマが死んでんだ!被害があったのはお互い様だ!」

「それはこっちに関係ないだろうブー!」

 興奮しすぎたアドンの語尾がおかしくなったところに、ロキとアルマが顔を出した。

「誰が死んでるって?失礼な……」

「ロキ!」

「アルマ!生きてたのかい?!」

 二人をそれぞれのパーティーメンバーが驚きの声で迎えた。

「ともかく、どちらのパーティーも被害はなかったということでよろしいですね?」

 呆れた表情でギルド職員がそう言うと、さきほどまで揉めていた二人はそれを肯定するように頷く。

「じゃあそういう事でよろしいですね!」

「ま、待ってくれ!」

 ギルド職員が立ち去ろうとすると、アドンが呼び止め、モンスタートレインなすりつけについて抗議するが、ギルド職員は後はレギオン同士で話し合って解決しろと言い残して去って行った。
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