迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

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Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱

第50話 アルマの不調

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 19階は毒の沼地階層と呼ばれているが、階層全体が沼地というわけではない。ところどころに沼地が点在しているという形で、普通に歩ける陸地もある。
 沼地の中でアシッドスライムを狩っていたロキたちは、一度陸に上がろうと歩き出す。
 今日はいつものような元気がないアルマが気になったロキは、歩きながらアルマに話しかけた。

「アルマ、今日調子が悪いのか?もし体調が悪いのだったら無理せず一度戻るけど、どうだ?」

「え?いえ、心配かけてすいません、ロキさんの方がつらいはずなのに……」

「は?」

「私は大丈夫です!行きましょう!」

 ロキの方がつらいという意味は分からなかったが、本人が大丈夫だというならその言葉を信じるしかない。アルマの元気がない理由は分からなかったが、今はとりあえず進むことにした。
 少し腑に落ちない感じがありつつ歩いていると、あと少しで陸というところで、ロキが何かを発見し立ち止まった。

「ちょっと待て」

「どうしたロキ?」

 ロキが仲間たちを制止すると、魔物の気配は感じないのに立ち止まったロキを不思議に思ったココロが尋ねた。
 アルマの結界によって、一時的に透明な水になっている四人の足元。
 ロキはそこから少し抜け出し、深緑色の毒の沼の中を覗く。

「何かある……」

 そこに何かを見つけたロキは、それが何かを確認するために、レイピアで沼の中を突いた。
 その瞬間、ガキン!という金属音が沼の中で鳴り、ロキの後ろにいた三人は驚いた。
 沼の中のため大きな音ではなかったが、力強い音だった。アシッドスライムではない強力な魔物がいるのではないかとも思った。だがロキがレイピアの剣先に引っ掛かったそれを持ち上げて見せた時、何でそんなものが迷宮の中にあるのかと四人は違う意味で驚いた。

「何だこりゃ……」

 重みでしなるレイピアの剣先に噛みついていたそれは、鉄でできたトラバサミと呼ばれる罠だった。
 迷宮の中には、落とし穴や岩が落ちてくる罠、宝箱の形をした魔物など数多くの罠があるが、このような明らかに人為的な罠は見たことがない。
 トラバサミには細い鎖が付いており、それが陸地へと繋がっていた。見ると鎖の終点には杭で止められた鎖が何本か沼地へと繋がっている。沼の中のトラバサミは、これ一つではないのだろう。

「何でこんなもんがここに?他にもあるようだから足元に注意して進もう」

 三人を先導するロキはさらに慎重に進み、他のトラバサミを踏むこともなく陸地へと上がった。
 陸に上がったロキが気になっていた、沼の淵に打ち込んである杭とそこから沼へとつながる数本の鎖。まさかと思いつつも、その鎖を一つ一つ手繰り寄せてみる。
 するとやはり思った通り、鎖の先にはそれぞれ先ほどと同じトラバサミが付いており、誰かが沼の中に仕掛けたに違いなかった。

「なんでこんなことを?他の探索者がかかる可能性のある罠を迷宮内に設置することは禁止されているはずだし、そもそもアシッドスライムくらいしか出没しないこの沼にこんな罠を設置しても意味がない」

「知恵のある魔物が探索者を捕まえるために設置した可能性は?」

「深層に行けば知性のある魔物が出るらしいが、こんな浅層でそんな魔物が出た話は聞いたことがない」

「そうか……」

 ロキの答えにアポロも首をかしげる。

「あの……」

「そうだな、こんなことよりも先に困ってる探索者がいるんだったな」

 人為的な罠の設置が気に放ったが、その真相の究明よりも先にロキたちは先へと進むことにした。

★★★★★★★★

「あいだだだ!」

「暴れるなアドン!今外すからじっとしてろ!」

「先に毒消しポーションかけた方がいいんじゃないすか?」

「そうだな。おいフーゴ、毒消しだ」

「え?あ、ああ!」

「早く!痛い痛い痛い!」

「ん~?」

「フーゴ?」

「あれぇ?どこにしまったっけなぁ?」

「痛い痛い痛い痛い!早くしてくれえ!」

「うるせえ!少し黙ってろ!」

 迷宮内で何やら騒いでいる四人組がいた。
 ココロが困っている探索者の気配を感じるというので来てみたが、ロキたちが彼らを発見した時にはあまりに騒がしいために困ってなんかいないんじゃないかという気がしてきた。
 それでも念のため声をかけようと近づいてゆくと、ロキはそこにいた四人の顔に見覚えがあることに気が付く。

「おまえら……何やってんだ?」

 ロキが声をかけると、四人が一斉にロキの方を見た。

「ロキ!」

 そう言ったのは魔法使いの男、パーシィ。

「ロキさん!」

 続いて新人の戦士オルテガが声を上げた。 
 地面に座っている太い男はアドン。そして何も言わずにボーっと立っている男はフーゴ。
 いずれもロキが以前所属していたレギオンの迷宮探索者で、ロキと一緒に探索をしたこともある者たちだ。

「久しぶりだなパーシィ。こんなところで何を騒いでるんだ?」

「いや、それがな……」

 そう言ってパーシィは地面のアドンを見る。
 毒に侵され土色の顔色をしているアドンが押さえている右足には、トラバサミが痛々しく挟まっていた。

「トラバサミにかかったのか?!」

「どうでもいいから早く助けてくれ……」

 先ほどまでの騒がしかった元気もだんだんなくなってきたのか、アドンの声が力強さを失ってゆく。

「フーゴ、毒消しは?」

「え?あっ、ああ……」

 ロキの登場でカバンから毒消しを探すのをやめてぼーっとしていたフーゴは、パーシィに言われて慌てて再び毒消しを探し始める。

「ぼーっとしてんじゃねえよ!アドン死んじゃうぞ!」

「ウチのヒーラーに魔法かけさすか?」

「いや、そこまでしてもらうわけには……」

「あった!」

 パーシィとロキが話していると、ようやくフーゴがカバンの中から解毒ポーションの小瓶を発見した。
 それを見て全員がほっとした直後、信じられないことが起きる。フーゴが手を滑らせて解毒ポーションの小瓶を落としてしまったのだ。
 パリンという軽い音と共に小瓶は割れ、中身は地面へと染みていった。

「あ……」

 呆然とするフーゴ。

「いいからさっさと他のを出せよ」

 そうパーシィに怒鳴られると、フーゴは首をひねりながら答えた。

「今のしかないけど……」

「はあ?なんで一個しか持ってきてねえの?」

「だって、何個持ってこいとか言われなかったから……」

「はあ?普通最低でも人数分くらい持ってくるだろ?!」

 フーゴの手際の悪さにパーシィがキレていると、ロキがアルマに声をかける。

「アルマ、解毒キュアーかけてやってくれ」

「え?」

 治癒も状態異常回復も区別することなく全て≪回復ヒール≫だけで行っていたアルマは、ロキのその言葉に戸惑うが、ロキがアルマの耳元で「キュアーって言いながらヒールかけてくれ」と言うのでそれで納得した。

「≪解毒キュアー≫」

 だが、アルマが呪文を唱えてもアドンに変化はなかった。

「え?どうしたアルマ?」

「あれ?おかしいな……」

 今まで魔法を失敗したことのなかったアルマは焦る。額に汗がにじむ。
 アドンが弱弱しい声をあげる。

「助けてくれぇ……」

「アルマ?」

「≪解毒キュアー≫!あれ?ごめんなさい!ごめんなさい!」

 何度唱えても何も起こらず、アルマは泣きそうな顔になっていた。

「いや、大丈夫だアルマ。無理するな。パーシィ、先にトラバサミを外して回復ポーションをかけてやれ!怪我さえ治れば毒のままでも大丈夫だろう」

「あ、ああ!」

 ロキの指示に従い、オルテガが沼の毒に注意しながらアドンの足首に挟まったトラバサミを外す。
 パーシィがフーゴから取り上げたカバンの中から回復ポーションを見つけると、それをアドンの足首にかけてやる。アドンの足首の裂傷は、みるみるうちに塞がった。
 だがアドンの肌の色は毒化状態の土色のままで、怪我が治っても苦しそうにしている。

「一旦帰還のスクロールで戻って、毒はギルドで治療してもらうしかないな」

 ロキの言葉に、意外にも反対したのはアドンだった。

「待てよ!それじゃあ大赤字になってしまうだろうが!」
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