迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

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Phase 2 なぜか世界の命運を担うことになった迷宮探索者の憂鬱

第65話 魔動車

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 国王へ献上する『聖鍵』の護衛をしつつついに王都へとたどり着いたロキたちだったが、堅牢な城壁に囲まれた王都の中へはすぐに入ることはできなかった。
 魔物が出没する街の外へ好んで出てゆく者は少ないためこの門は通行者が少なく、普段であれば簡単な身分確認ですぐに通過できる。だが今回は城壁の外で繰り出された派手な上級魔法によって魔物が倒される光景を見た衛兵たちが、詳しい話を聞くために代表者であるギルド長を別室へと連れて行った。
 ロキたちはギルド長が事情説明を終えるのを別室で待っているしかできなかった。
 馬車から下ろして持ってきている聖鍵の入った箱を見つめながらロキが呟く。

「魔物は王都の中までは追ってこないのかね?」

 この聖鍵から流れ出ている魔力のせいで、道中魔物たちを呼び寄せてしまい大変な目にあった。今も魔物が城壁を乗り越えてやってこないか一抹の不安を隠せないでいた。
 そんなロキの疑問に近寄ってきた一人の人間が答える。

「それなら大丈夫です。聖女様が張られた結界を維持するための祈祷を、十二名の神官で交代しながら二十四時間体制で続けています。王都の歴史ではこれまで一度もこの結界を超えて魔物が入ってきたことはありません。もちろん先ほどあなたたちが討伐された土竜もです」

「あんたは?」

 ロキに声をかけてきた人間は、紺色をベースに黄色いラインが入ったローブを纏った一人の女性だった。女性の斜め後ろには装飾の少ない同じローブを着た男性も付き添っていた。
 その色使いはこの城壁を守る衛兵たちの制服と同じで、違っていたのは魔法使いが着るローブのように羽織る形のデザインだったということだ。
 つまり尋ねつつもロキにはその女性がどんな立場の人間か分かってはいた。衛兵の中でも魔法を使う者だろうと。

「王国軍魔法師団師団長をしております。エフェリーネと申します。先ほどの土竜を倒された魔法使いはあなたでしょうか?」

 エフェリーネと名乗る女性はそう言ってロキをまっすぐに見つめる。
 ロキはレオンと組んでからはローブと杖を装備しており、一目で魔法使いと分かる風貌のロキに声をかけてきたのだ。

「そうだ。俺はロキ。迷宮探索者だ」

 エフェリーネの名乗りに対しロキも答える。するとエフェリーネは堰を切ったかのように言葉を続けた。

「感動しました!素晴らしい魔法です!最後の真っ赤な岩石を落とす魔法は何なのですか?初めて見ました!王国の魔法学園でもあなたほどの魔法使いはいませんし、聞いたこともありません!それに上級魔法を何回も使われても平然としておられるのですね!いったいどれほどの魔力をお持ちなのですか?」

「ちょちょちょ……ちょっと待って!」

 エフェリーネの剣幕に押されて、ロキが戸惑っていると、後ろにいた男性魔法使いがエフェリーネに声をかけた。

「エフェリーネ様、落ち着いてください。ロキ様が困惑しています」

「あ、す、すまない!ロキ様、申し訳ありませんでした。しかしロキ様はお若く見えるのに、使われる魔法は大魔導師の域。いったいどれだけの研鑽を積まれたのか。己の未熟を嘆く次第です」

「そんな堅苦しく喋らないでくれ。あんたお偉いさんなんだろ?俺はただの迷宮探索者、そんなに恐縮される理由はないよ」

 ロキはエフェリーネをなだめるように両掌を向けてそう呟く。言われたエフェリーネはさらに目を輝かせて言葉を続けた。

「ロキ様は魔法の腕前だけでなく人格も優れたお人でいらっしゃいますね!魔法学園のじじいどもに見習わせたいものです。学園だけでなく王都にあるどの組織も役職が上の者ほど驕ってばかりで……」

「なんで俺愚痴を聞かされてんの?」

「あっ?申し訳ございません!話がそれてしまいました。ぜひお聞かせ願いたいのは、先ほどの魔法についてなのですが……」

 対処に困るロキが仲間に助け舟を求めようとするが、レオンたちは皆関わりたくなさそうに視線を合わせようとしなかった。

★★★★★★★★

 ギルド長が、持ってきた聖鍵を狙った魔物が集まってしまい騒がせてしまったことについて謝罪すると、逆に最近頻発していた地震の原因と考えられる土竜を討伐してくれたことに感謝の言葉を返された。
 ちなみに過去に勇者が迷宮を踏破して聖鍵を持ち帰った時には、聖女が結界で聖鍵を守ってきたために魔物に襲われることはなかったらしい。
 土竜とワイバーンの片づけを衛兵に依頼すると同時に、その素材は王国へ寄付することにした。魔物の襲来のない王都ではこれほどの魔物の素材が入荷することはまずないため、それらは貴重なものであるが、そもそもロキたちだけではそれほどの量を解体運搬するには労力が足りないため放置して腐らすよりは有効に使ってほしいと思って申し出た。衛兵団はその提案を喜んで受け入れた。

 ギルド長がそれらの話を終えてロキたちの元へ戻ると、そこでは少し困った顔をしたロキが衛兵二人と話をしていた。

「いつか私の魔法をご指導していただけませんか?」

「いや、俺は誰かに教えられるようなことはないんだけど……」

「ご謙遜を!それでは見てもらえるだけでもいいんです!私は正直伸び悩んでいるというか、一生かかってもロキ様の使う魔法のレベルに到達できる気がしません。何か殻を破るきっかけがほしいと思っているのです」

「魔法なんて毎日使って少しずつ上達するしかないんじゃないの?」

「それはそうなのですが、何か私のやり方に問題がないかとかロキ様が気づくことを教えていただくだけでも構いませんので……」

「あー、話しかけても大丈夫だろうか?」

「ギルド長。それじゃエフェリーネさん、ギルド長が帰ってきたんで俺たちもう行かなきゃ!」

 ロキはそう言ってギルド長の方へ移動する。
 苦笑いするアレンの横で残念そうな顔して取り残されているエフェリーネを見たギルド長がロキに尋ねる。

「いいのか?」

「いい、いい。助かったぜギルド長。さあ行こうぜ」

★★★★★★★★

 王都の外壁を超えると、そこは農地だった。まっすぐ住宅街へと続く道が続いている。そしてその先に見える小高い山の上には、立派な王城がそびえたっていた。
 城門で案内のための衛兵が一人同行してきたが、それがエフェリーネでなかったことにロキはほっと胸をなでおろす。
 市街地に入るところで馬車を降りる。ここらはまだ良いらしいのだが、王城の周辺の貴族街では馬車での侵入を禁止されているらしい。
 そこで馬車の代わりに用意されたのが馬のいない馬車、魔動車だ。魔力を動力源にして車輪を動かす四輪車だ。
 馬車と違う点は、座席の前に原動機の入ったでっぱりがついている。

「自動車のはしりみたいなもんか」

 ロキも車に詳しいわけではないが、前世と思われる記憶を元にして、内燃機関の代わりに魔力で車輪を回しているだけで自動車が発明されたばかりのころのものと相違ないと感じていた。
 そんなロキの呟きはだれも気にすることなく、荷物を馬車から用意された魔動車に移していると、突然ココロが呟いた。

「誰か泣いてる……」

 そう言ってココロが向いている先には誰もいない。そしてそんな鳴き声も聞こえない。

「どうした……?」

 ロキが尋ねた時、ココロは突然走り出した。

「おいココロ!待てよ!」

 呼び止められても止まらないココロ。慌ててロキは持っていた荷物を足元に下ろし、後を追った。
 衛兵が心配したが、レオンがロキが付いていれば大丈夫だと言って、荷物を乗せ換えたら二人が帰ってくるまで待つことにした。

★★★★★★★★

 曲がり角を曲がったココロが見たのは、建物の前で怒った表情の男に詰め寄られて困っている一人の女性がだった。

「お姉さん大丈夫?」

 ココロが声をかけると、二人は声のした方に振り向く。
 そしてロキが追いつくが、ココロが心配しているのがこの女性だと気づき、ロキはそのまま走ってゆき男に飛び蹴りをくらわせた。

「ぐえっ!」

 飛び蹴りを食らった男は転倒する。ロキは女性が無傷であることを確認してほっとすると、女性はロキに対して言った。

「何てことするんですか?」

「えっ?!」
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