迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

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Phase 2 なぜか世界の命運を担うことになった迷宮探索者の憂鬱

第94話 神前裁判

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 ロキたちが連れて来られたのは、以前にも来たことのある神殿の参拝所だった。
 前に来た時と違って、裁判を行うためのテーブルや座席が用意されている。
 神前裁判を行う時には普段のような一般の参拝は受け付けておらず、このような状態にして法廷として使用しているようだ。
 神の前で真実を明らかにするという考えなのだろう。

 中央正面には以前来た時と同じく、神のシンボル、そしてその横には女神像がある。
 その前に置かれた威圧感のある台の上には、金糸で豪華な刺繍をした法衣を身にまとい背の高い帽子をかぶっている男が座っていた。おそらく裁判長である大司教だろう。眉間にしわを寄せ、ロキたちを見下すように見下ろしていた。
 その横にはおそらくその部下である司祭たちが並び、正面一段したのテーブルにも人がいる。
 そして左右にテーブルが用意されていて、左側のテーブルにはやはり神殿関係者が座っており、ロキは右側のテーブルの前に座らされた。
 左右のテーブルの中央には証言台があり、今は誰もいない。
 そして腰まである柵で区切られた後ろに用意された椅子に、ロキたちパーティーメンバーや勇者パーティーのメンバーなどがいる。

 ロキはそのレイアウトが、前世で知る裁判所と似てる気もしたが、やはりいろいろと違うように感じた。
 ただ一つ明らかなのは、前世ほど公平ではなく、明らかに神殿に優位な状況なのは確かだろう。

「ただいまより神前裁判を開廷する。ここでは神の前で真実のみ述べること。虚偽を述べる者は死後地獄へ落ち、真実を述べる者は死後神の元へ召されるであろう。それでは被告人、迷宮探索者ロキよ。前に出ろ」

 裁判官である大司教が声を上げる。ロキは嫌々席を立ち、中央の証言台へと立つ。
 そして第一声を上げた。

「なんかさあ……公平性に欠けるんじゃねえの?」

「こちらが発言を許すまで発言することを禁止する……」

「勝手にそっちのルールで始めようとするんじゃねえよ!俺はまだこの裁判を受けるなんて一言も言ってねえぞ」

「黙れ」

「そもそも告発者と裁判官が同じ神殿側なんだから、告発したおまえらの思い通りになるに決まってるじゃねえか!卑怯だぞ!」

「黙れと言っているだろう!こちらの指示に従わないのであれば退廷を命じるぞ!その場合お前の申し開きを聞く機会無く、告発者の発言だけで判決が下る。お前の不利になるだけだぞ」

「滅茶苦茶じゃねえか。そもそも弁護士の一人も付かねえのかよ?」

「弁護士とは何だ?お前を擁護してほしかったら、今傍聴席に座っている仲間に発言してもらえばいいだろう」

「この世界の裁判って滅茶苦茶だな……」

「何か言ったか?」

「もういい。聞いてやるよ、お前らの言い分を」

「……口の減らないやつだ。それでは進めるぞ。被告人ロキ。おまえには勇者ダイジローの探索の妨害と勇者様への傷害、暴行、殺人未遂。そしてブルームポート迷宮探索者ギルドの業務妨害の告発が出ている。そのことに間違いはないか?」

「間違いだらけだろう。どれ一つ合ってねえよ」

「否認するというのだな。分かった。それでは席に戻れ」

 渋々元の席へと戻るロキ。

「それでは証人、勇者ダイジローよ。前へ出ろ」

 傍聴席から柵をくぐり、ダイジローが証言台へと立つ。
 その表情はロキへの復讐ができることへの喜びでニヤついていた。
 ふとその憎らしい顔を見たロキが、あることに気づく。

「ちょっと待て!なんで首輪が外されてるんだ?」

 ブルームポートのギルドで暴れた勇者を取り押さえるために、その首には女神から与えられた力を封じるための封印の首輪が嵌められていたはずだ。
 ロキだけでなく、そのことに気づいた勇者の仲間たちも驚く。
 勇者はその首を自らの手で触りながら、ニヤついた顔のままでロキに答える。

「おいおい、神の結界が張られているこの王都の中に入ったんだ。もう封印の首輪は必要ないだろう。それにそもそも俺が捕らえられる意味が分からないしな」

「何を……」

 ドンドン!
 裁判官はガベルと呼ばれる木槌を鳴らす。
 日本の裁判所にはないものだ。

「私語は慎め!」

 ロキは黙ったまま裁判官を睨み返した。

「それでは勇者ダイジローよ。ブルームポートの迷宮探索者ギルド長より、おまえがそこにいる迷宮探索者ロキから暴行を受けたと報告を受けているが、それは真実か?」

「そうだ」

「嘘だ!」

 ありもしないことを言われ、それをすぐに肯定する勇者。思わずロキは否定の声を上げた。傍聴席もざわつく。

「静粛に!被告人には発言の許可を与えていない。何度も言わせるな」

「くそっ、あの小太りめ。ありもしないことを報告しやがったな……」

 そこでロキは、ブルームポートの迷宮探索者ギルド長が自らの保身のために神殿へ虚偽の報告をしたことを知った。勇者も自分の都合のいいように話を合わせるつもりのようだ。

「勇者よ。それだけではなくロキが迷宮探索者ギルドの業務妨害をしていたことも本当か?」

「本当だ」

「具体的にはどういう?」

「それはアポカリプソンとかいうギルド長に聞いてくれ」

「なるほど。分かった。席へ戻れ」

 勇者はニヤついた表情のままロキへ視線を送る。
 席へと戻る勇者を睨み返すことしかロキにはできなかった。

「被告人ロキと被害者ダイジローの発言に相違がみられる。どちらかが虚偽を述べているのは明らかだ。ダイジローが言っていることはブルームポートの迷宮探索者ギルド長アポカリプソンが認めているが、ロキよ、おまえの擁護をする者はいるか?」

「はい!」

 傍聴席から聖女レオーネが手を挙げた。

「聖女レオーネよ。発言を許す」

「ロキさんが言っていることが真実です。聖女としてそれを証言致します」

「レオーネよ。自分が何を言っているのか分かっているのか?お前は神殿の意見に逆らうつもりか?」

「え?」

「おまえは聖女という立場を利用して、自分と親しい人間の利益になろうとしている。それは聖女としてあるまじき行為だ。訂正せよ」

「何を言っているのですか?」

「レオーネよ。大司教として命ずる。先ほどの発言を撤回せよ」

「おいオッサン!ふざけんなよ!」

 思わずロキが声を上げた。

「被告人は静粛にせよ!」

「静粛にせよじゃねえよ!言論弾圧するのが楽しいか?何でも自分の思い通りにならなきゃ気がすまねえのか?」

「指示に従わないと退廷を命ずるぞ」

「お待ちください大司教ドルバン。私は先ほどの発言を撤回するつもりはありません。聖女としてロキさんの無罪を主張します」

 すると横にいたアルマも立ち上がり声を上げる。

「そうです。ロキさんは何もしていません!そこの勇者がギルドで他の探索者に暴力を振るったんです。悪いのは勇者です」

「そうだよ!」

 アルマの隣のココロも声を上げる。

「静粛にせよ!」

 再びガベルを強く打ち鳴らし、裁判長である大司教はいらだつ声を上げた。

「私の許しを得てから発言せよ!」

 すると勇者パーティーの一人である、騎士バカラが挙手をした。

「そうだ。何か言いたいことがあるならばそうやって挙手をし、私が発言の許可を与えてからにせよ。そこの騎士よ。発言を許そう」

「私は勇者様と聖女様と同じパーティを組んでいました。迷宮探索では常に同行していた私から証言できるのは、ロキさんから妨害を受けたことも勇者様が暴行を受けた事実もないということです。さきほどアルマさんが言ったようにむしろ暴行をはたらいたのは勇者様の方で、ギルド内でA級探索者パーティー鉄壁のリーダー、プログレをあと少しで殺してしまうところでした。プログレは聖女様の治癒魔法で一命を取り留め、勇者様は私が結界の首輪を使って取り押さえました。被告人席に立つべきなのはロキさんではなく、むしろ勇者様の方です」

「なるほど。おまえたちの言いたいことは分かった。それでは被告人ロキの無罪を主張する者たちは挙手せよ」

 裁判長に言われ、ロキの仲間であるアルマ、ココロ、アポロだけでなく勇者パーティの聖女レオーネ、騎士バカラ、騎士ピートが手を挙げた。

「それでは逆に、被告人ロキの罪が事実であると認める者は挙手せよ」

 今度は勇者ダイジローと、神殿の神官たちが手を挙げた。

「なるほど。話は平行線のようだ。どちらか自分の言い分が正しいと言える証拠を持った者はいるか?」

「証拠ならこれだ!」

 ロキはそう言うと、足元に置いていたカバンをテーブルの上にあげた。
 中からあるものを取り出す。
 それは赤い色で光を放つ大きな石だった。

「これは迷宮を踏破して手に入れた聖鍵だ。俺たちが迷宮を踏破しこれを手に入れた。先に迷宮を踏破された勇者が怒りギルド内で暴れ出したんだ。俺の方からあいつに暴力を振るう理由などないだろう」

 勝ち誇った顔でロキが言うと、裁判長はニヤリと笑った。

「それをお前が手に入れたという証拠はない。むしろギルド長アポカリプソンからは、お前たちが迷宮を踏破した勇者に封印の首輪をつけ、聖鍵を奪ったと報告があった。勇者ダイジローよ。相違ないか?」

「その通りだ」

「嘘つけお前、さっきそんな事一言も言ってなかったじゃねえかよ!」

 裁判長の言葉を瞬時に肯定した勇者に対し、思わずロキがツッコミを入れた。

「被告人は静粛に。先ほど勇者は具体的な話はギルド長アポカリプソンに聞いてくれと言った。矛盾などなにもない」

「ふざけんなよ!」

 再び傍聴席もざわつき始める。
 裁判長はガベルを叩きながら「静粛にせよ」と声を上げるが、今度は静まりそうにない。

「騒がしいな」

 その時、そう言ってその場に入ってきた男に騒がしかった法廷にいる一同が注目した。
 その姿を見た裁判長である大司教が、驚きの声を上げた。

「こ……国王陛下?!」
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