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Phase 2 なぜか世界の命運を担うことになった迷宮探索者の憂鬱
第95話 大司教VS国王
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「ロキよ。待たせたようだな」
そう言って現在は神前裁判の法廷となっている神殿の参拝所へと入ってきたのは、左右に護衛の騎士を引き連れた国王だった。
突然の国王の来場に、法廷にいる神官たちは驚いている。
だがそんな神官の中でも大司教だけは、表情を変えずに平静を保っていた。
「これはこれは国王陛下。本日は一体何の御用でこちらまで?申し訳ありませんが、今は神前裁判の最中で……」
「余はロキに呼ばれて来たのだ。王都城壁の守衛をしていた王国軍魔法師団長エフェリーネがロキの使いとしてやってきてな」
大司教たちや勇者がロキを睨みつける。
だれの助けも得られないように、城門に来たロキたちをすぐに捕まえて連れて来たはずだった。
大司教たちも、まさか守衛にロキの協力者がいたとは思ってもみなかった。
またいたとしても、まさか国王を呼びつけるなどということができるとも思ってもいなかった。
大司教たちにとって国王の登場は、完全に想定外の出来事だ。
そして国王は要件を告げる。
「それよりも大司教ドルバンよ。おまえの方こそ、一体誰の許可を得て神前裁判をしているのだ?」
「誰の?突然いらして何をおっしゃるやら。この国の法律では、神前裁判を執り行うのに誰かの許可を得る必要などありませぬが?神の名の下、正式な手順を踏んで開かせてもらっているだけですよ」
「正式な手順を踏んで?それにしてはやけに慌てているようだな。これほどまでに急に神前裁判が行われるというのは、聞いたことがないぞ」
国王とのやりとりにも、大司教は表情を崩さない。あくまでも自分たちの正当性を訴える。
「それだけこの容疑者ロキという男が、この国にとって危険だということです。なにせ勇者様への暴行をはたらいたというのですからね」
「ロキが勇者に?それは不思議だな。それはブルームポートでの話だろう?ブルームポートには王都のような結界は張られていない、つまり勇者は女神の祝福と呼ばれる身体強化がされている状態のはずだ。その状態の勇者を傷つけるなど、普通の人間であるロキには不可能に思えるが」
「そ、それは勇者様が手を出さなかったからで……」
「だとしてもだ。女神の祝福を受けている状態の勇者の体は、並大抵の魔物でも傷つけることはかなわんと聞くが?」
大司教の嘘にボロが出てきた時、慌てて勇者が口をはさむ。
「それはそいつが魔法を使って来たからだ!そいつは大魔法使いだ。魔法で俺を殺そうとしたんだ!」
「魔法?それは何の魔法だったのだ?」
「それは……火だ。火炎魔法だ!」
「だとしたら町中が焼き尽くされてしまうだろうな。ロキの魔法はそれくらいの威力がある。だがブルームポートが大火事になったという話は聞いていないが?」
「ま、間違えた。氷の魔法だ!低温やけどしたから熱いと勘違いしちまったんだ!」
「低温やけど?ロキほどの大魔法使いが氷の魔法を使ったとなると、低温やけどどころではなく辺り一帯を氷漬けにしてしまうはずだ。だとしても多くの人間が死んでいるはずだが?」
「そ……それは……」
勇者も嘘のつじつまが合わずにしどろもどろになる。
「そもそもロキよ。もしお前が対人戦で魔法を使うとしたら、どんな魔法を使う?」
「俺が?それは……炎や氷の上級魔法じゃ被害が大きくなりすぎるから、土魔法のメテオを魔力を調整して圧縮して撃つかな?」
そういえば一度やったなと、アルマは思い出す。
もしそれがバレたらロキはやはり逮捕されてしまうだろう。傷害だけでなく、街中で攻撃魔法を撃つのは犯罪だ。
「だそうだ。ドルバンよ。そもそもロキが勇者を襲ったなどという作り話、誰から聞いたのだ?余が受けている報告では、ロキたちに先に迷宮を踏破されて怒った勇者が、ブルームポートの迷宮探索者ギルド内で他の迷宮探索者を攻撃して死なせるところだったという話だ。それをお前が取り押さえたのだったな、バカラよ?」
「はっ!その通りです!」
国王に問われ、バカラは起立し答える。
その姿を大司教たちは忌々しそうに睨みつけていた。
国王は大司教たちの反応を確認しながらも、話を続ける。
「おまえたちの話とずいぶん違うではないか?それとロキの迷宮踏破の妨害を続けてきたブルームポートの迷宮探索者ギルド長アポカリプソンが、自分の立場を守るために何か企んでいるという報告も受けている。ドルバンよ。お前はアポカリプソンから受けた虚偽の報告で、証拠もないままロキを断罪しようとしているのではないか?」
「……」
「答えよドルバン!」
国王の恫喝に、それまで冷静を貫いていた大司教の額から汗が流れ落ちる。
「そ、そんなことは陛下に関係ないでしょう。ともかくその男、ロキには、正義の名の下に死刑の判決を下さなければならないのです!
「やれやれ……、証拠もないまま自分達の都合のいいように罰を下す……神殿はそこまで腐ってしまったか」
「神前裁判は王国の法律に則って、大司教たる私の判断で判決を下すだけです!」
「法律か。貴様が法律を持ち出すなら、こちらからも伝えなくてはならぬな。余は先日ロキより魔導通信によって迷宮踏破の報告を受け、それを確認した」
ロキは足元に置いてあったカバンから赤く光る聖鍵を取り出し、国王へ見せる。
国王はそれが聖鍵であることを見て分かり、静かに頷く。
「そしてその聖鍵を手に入れたロキへの踏破報酬として、ロキの希望である近年腐敗が進んでいる神殿の人事改変する事を承認した。おい」
「はっ!」
国王が隣の側近に声をかけると、側近は懐から一枚の下紙を取り出す。そしてそれを大司教たちの方へ掲げた。
「まずはドルバン。これは貴様の罷免状だ。貴様を本日付けで大司教の座から解任する。これは王命だ。先程貴様は法律の話をしたな。この国の法律では大司教は国王から任命されるものだ。そしてもはや大司教でもない貴様が執り行うこの神前裁判は無効だ。分かるな?」
「か、解任?!私を?へっ、陛下、お戯れを!何を血迷っておられるのですか?」
「血迷ってなどおらぬ。余は至って冷静だ。余も常日頃から、神殿の腐敗ぶりにはいささか頭を悩ませていた。だがこの国の経済を支える聖鍵を新たに手に入れることができるのは、これまでは女神の後ろ盾ある勇者しかできなかった。そのため女神の信者たちへは、余もあまり口を出しづらかった。だが、それももう終わりだ。勇者でなくとも迷宮を踏破できる事を、ロキが証明してくれた。もう勇者だけを特別扱いする必要はないという事をな。であるから、これからは余も女神を奉ずる者たちへの態度を改めることにする。只今よりこの国では女神を邪神認定をし、女神を崇拝する事を禁ずる」
国王の最後の一言でその部屋にどよめきが起きた。それはそうだろう。これまで女神崇拝は神の信仰と双璧を成すくらいの派閥であった。どちらも対立することなくこれまでやって来たが、女神崇拝を禁じるというのだ。今後王国の大手組織である神殿内部が真っ二つに割れるであろう。
「今後も女神崇拝を続ける者は、国外追放とする。余からは以上だ」
「陛下!御冗談はおやめください。そんなことをしたら大変なことになってしまいます!」
慌てて国王の命令を取り下げさせようとする大司教。だが国王の顔色が変わることは無い。
「大変なこと?神殿が貴族から小遣いを巻き上げられなくなることか?」
「ち、違います!私たち女神崇拝する神官がいなくなってしまえば、王都でけが人や病人の治療にあたれる者が激減してしまいます。現在神殿の治癒魔法使いは半々。神威代行魔法を使う神官による治癒魔法使いと、女神の加護による治癒魔法使いはおよそ同じくらいの人数です。神殿の半分の治癒魔法使いがいなくなってしまっては、王都の国民の治療に支障をきたしてしまいます!」
「結界魔法も使えるのが神威代行魔法使いで、それが神官のおよそ半数だったな。まあ問題ないだろう。調査したところ、一般国民の治癒に当たっているのはごく一部の神官だけ。ほとんどが大した病状ではない貴族に治癒魔法を使っていると聞く。そちらをやめればいいだけだろう」
「そんな、我々はどうすればよいのですか?!」
「素直に女神崇拝をやめるならよし。それができないのなら王国から出てゆけ。どちらにせよ今の贅沢な暮らしはもう送れないと知れ」
「王権の濫用だ!」
「貴様にそれを言われくはないな」
「大司教。もういいじゃねえか」
そう言ったのは、いつの間にか大司教のいる壇上まで来ていた勇者だった。
「勇者殿……」
「おい国王。確かにお前の言う通りだ。傷害をやらかしたのは俺だ。だがな。悪いのは俺じゃねえ。悪いのは勇者である俺様に逆らうやつらの方だろう?」
「ダイジロー……貴様何を言っている?」
「言ってやれよ大司祭。勇者こそが特別な存在で、それに逆らうやつらこそ悪だってな。もういいだろう?ちょっと計画が早まったが、国王もちょうどいるんだ。ここでやっちまおうぜ?」
勇者はそう言って椅子に座っている大司祭の肩をポンと叩いた。
勇者の顔を見上げる大司祭の顔は、邪悪な笑みを浮かべていた。
「そうですな」
「何を言っている貴様ら?」
そんな王の問いかけに、勇者はもったいぶるように答える。
「この神殿本部に仕える神官の半分は、女神の加護である治癒魔法使いだ。そいつらの魔法は俺の魔法と同じように、神威結界の張ってある王都内では使えない。ではどうやって治癒魔法を使っているか分かるか?」
それは知っている者には当たり前の事実であり、知らない者には全く知られていない話だった。
「それはこの神殿だ。そいつらはこの神殿内でのみ治癒魔法を使っている。つまりだ。この神殿の中だけは全ての神官が治療行為を行えるように神威結界を張っていないということだ。どういう意味か分かるか?」
バカラが勇者を捕らえる際、女神の加護を封じる首に巻かれていた封印の首輪は外されている。
「この神殿の中では、俺の力を抑えることはできないんだよ」
それはこの危険人物である勇者が、敵対をすることになったロキや国王に対し、今はその力を全て解放された状態だということだ。
そんな大見えを切った勇者と国王の間を遮る形で、ロキが立ちふさがった。
「それはおまえだけじゃなくて、この神殿の中でなら俺の魔法だって使えるっていうことだよな?」
「へっ、こんだけの空間にこれだけの人間がいるんだ。魔法を使ったらお互いの仲間たちまで巻き込んじまうぜ?今この場で有用なのは、俺の身体強化だけだ」
勇者はいつのまにか手にしていた聖剣を持って、そう告げた。
そしてそんな勇者の言葉に自信を取り戻した大司教は、国王に対して宣言をする。
「国王陛下。あなたにはがっかりしました。本当はもう少し様子をみるつもりだったのですが、計画を前倒しすることにしましょう。あなたには死んでいただき、我々はこの勇者ダイジローを新たな国王になっていただきます!」
「ドルバンよ、貴様クーデターを起こすつもりか?!」
「その通りです!さあ、殺っちまってください勇者様。私たちに逆らう愚か者どもを、皆殺しにしてください!」
そう言って現在は神前裁判の法廷となっている神殿の参拝所へと入ってきたのは、左右に護衛の騎士を引き連れた国王だった。
突然の国王の来場に、法廷にいる神官たちは驚いている。
だがそんな神官の中でも大司教だけは、表情を変えずに平静を保っていた。
「これはこれは国王陛下。本日は一体何の御用でこちらまで?申し訳ありませんが、今は神前裁判の最中で……」
「余はロキに呼ばれて来たのだ。王都城壁の守衛をしていた王国軍魔法師団長エフェリーネがロキの使いとしてやってきてな」
大司教たちや勇者がロキを睨みつける。
だれの助けも得られないように、城門に来たロキたちをすぐに捕まえて連れて来たはずだった。
大司教たちも、まさか守衛にロキの協力者がいたとは思ってもみなかった。
またいたとしても、まさか国王を呼びつけるなどということができるとも思ってもいなかった。
大司教たちにとって国王の登場は、完全に想定外の出来事だ。
そして国王は要件を告げる。
「それよりも大司教ドルバンよ。おまえの方こそ、一体誰の許可を得て神前裁判をしているのだ?」
「誰の?突然いらして何をおっしゃるやら。この国の法律では、神前裁判を執り行うのに誰かの許可を得る必要などありませぬが?神の名の下、正式な手順を踏んで開かせてもらっているだけですよ」
「正式な手順を踏んで?それにしてはやけに慌てているようだな。これほどまでに急に神前裁判が行われるというのは、聞いたことがないぞ」
国王とのやりとりにも、大司教は表情を崩さない。あくまでも自分たちの正当性を訴える。
「それだけこの容疑者ロキという男が、この国にとって危険だということです。なにせ勇者様への暴行をはたらいたというのですからね」
「ロキが勇者に?それは不思議だな。それはブルームポートでの話だろう?ブルームポートには王都のような結界は張られていない、つまり勇者は女神の祝福と呼ばれる身体強化がされている状態のはずだ。その状態の勇者を傷つけるなど、普通の人間であるロキには不可能に思えるが」
「そ、それは勇者様が手を出さなかったからで……」
「だとしてもだ。女神の祝福を受けている状態の勇者の体は、並大抵の魔物でも傷つけることはかなわんと聞くが?」
大司教の嘘にボロが出てきた時、慌てて勇者が口をはさむ。
「それはそいつが魔法を使って来たからだ!そいつは大魔法使いだ。魔法で俺を殺そうとしたんだ!」
「魔法?それは何の魔法だったのだ?」
「それは……火だ。火炎魔法だ!」
「だとしたら町中が焼き尽くされてしまうだろうな。ロキの魔法はそれくらいの威力がある。だがブルームポートが大火事になったという話は聞いていないが?」
「ま、間違えた。氷の魔法だ!低温やけどしたから熱いと勘違いしちまったんだ!」
「低温やけど?ロキほどの大魔法使いが氷の魔法を使ったとなると、低温やけどどころではなく辺り一帯を氷漬けにしてしまうはずだ。だとしても多くの人間が死んでいるはずだが?」
「そ……それは……」
勇者も嘘のつじつまが合わずにしどろもどろになる。
「そもそもロキよ。もしお前が対人戦で魔法を使うとしたら、どんな魔法を使う?」
「俺が?それは……炎や氷の上級魔法じゃ被害が大きくなりすぎるから、土魔法のメテオを魔力を調整して圧縮して撃つかな?」
そういえば一度やったなと、アルマは思い出す。
もしそれがバレたらロキはやはり逮捕されてしまうだろう。傷害だけでなく、街中で攻撃魔法を撃つのは犯罪だ。
「だそうだ。ドルバンよ。そもそもロキが勇者を襲ったなどという作り話、誰から聞いたのだ?余が受けている報告では、ロキたちに先に迷宮を踏破されて怒った勇者が、ブルームポートの迷宮探索者ギルド内で他の迷宮探索者を攻撃して死なせるところだったという話だ。それをお前が取り押さえたのだったな、バカラよ?」
「はっ!その通りです!」
国王に問われ、バカラは起立し答える。
その姿を大司教たちは忌々しそうに睨みつけていた。
国王は大司教たちの反応を確認しながらも、話を続ける。
「おまえたちの話とずいぶん違うではないか?それとロキの迷宮踏破の妨害を続けてきたブルームポートの迷宮探索者ギルド長アポカリプソンが、自分の立場を守るために何か企んでいるという報告も受けている。ドルバンよ。お前はアポカリプソンから受けた虚偽の報告で、証拠もないままロキを断罪しようとしているのではないか?」
「……」
「答えよドルバン!」
国王の恫喝に、それまで冷静を貫いていた大司教の額から汗が流れ落ちる。
「そ、そんなことは陛下に関係ないでしょう。ともかくその男、ロキには、正義の名の下に死刑の判決を下さなければならないのです!
「やれやれ……、証拠もないまま自分達の都合のいいように罰を下す……神殿はそこまで腐ってしまったか」
「神前裁判は王国の法律に則って、大司教たる私の判断で判決を下すだけです!」
「法律か。貴様が法律を持ち出すなら、こちらからも伝えなくてはならぬな。余は先日ロキより魔導通信によって迷宮踏破の報告を受け、それを確認した」
ロキは足元に置いてあったカバンから赤く光る聖鍵を取り出し、国王へ見せる。
国王はそれが聖鍵であることを見て分かり、静かに頷く。
「そしてその聖鍵を手に入れたロキへの踏破報酬として、ロキの希望である近年腐敗が進んでいる神殿の人事改変する事を承認した。おい」
「はっ!」
国王が隣の側近に声をかけると、側近は懐から一枚の下紙を取り出す。そしてそれを大司教たちの方へ掲げた。
「まずはドルバン。これは貴様の罷免状だ。貴様を本日付けで大司教の座から解任する。これは王命だ。先程貴様は法律の話をしたな。この国の法律では大司教は国王から任命されるものだ。そしてもはや大司教でもない貴様が執り行うこの神前裁判は無効だ。分かるな?」
「か、解任?!私を?へっ、陛下、お戯れを!何を血迷っておられるのですか?」
「血迷ってなどおらぬ。余は至って冷静だ。余も常日頃から、神殿の腐敗ぶりにはいささか頭を悩ませていた。だがこの国の経済を支える聖鍵を新たに手に入れることができるのは、これまでは女神の後ろ盾ある勇者しかできなかった。そのため女神の信者たちへは、余もあまり口を出しづらかった。だが、それももう終わりだ。勇者でなくとも迷宮を踏破できる事を、ロキが証明してくれた。もう勇者だけを特別扱いする必要はないという事をな。であるから、これからは余も女神を奉ずる者たちへの態度を改めることにする。只今よりこの国では女神を邪神認定をし、女神を崇拝する事を禁ずる」
国王の最後の一言でその部屋にどよめきが起きた。それはそうだろう。これまで女神崇拝は神の信仰と双璧を成すくらいの派閥であった。どちらも対立することなくこれまでやって来たが、女神崇拝を禁じるというのだ。今後王国の大手組織である神殿内部が真っ二つに割れるであろう。
「今後も女神崇拝を続ける者は、国外追放とする。余からは以上だ」
「陛下!御冗談はおやめください。そんなことをしたら大変なことになってしまいます!」
慌てて国王の命令を取り下げさせようとする大司教。だが国王の顔色が変わることは無い。
「大変なこと?神殿が貴族から小遣いを巻き上げられなくなることか?」
「ち、違います!私たち女神崇拝する神官がいなくなってしまえば、王都でけが人や病人の治療にあたれる者が激減してしまいます。現在神殿の治癒魔法使いは半々。神威代行魔法を使う神官による治癒魔法使いと、女神の加護による治癒魔法使いはおよそ同じくらいの人数です。神殿の半分の治癒魔法使いがいなくなってしまっては、王都の国民の治療に支障をきたしてしまいます!」
「結界魔法も使えるのが神威代行魔法使いで、それが神官のおよそ半数だったな。まあ問題ないだろう。調査したところ、一般国民の治癒に当たっているのはごく一部の神官だけ。ほとんどが大した病状ではない貴族に治癒魔法を使っていると聞く。そちらをやめればいいだけだろう」
「そんな、我々はどうすればよいのですか?!」
「素直に女神崇拝をやめるならよし。それができないのなら王国から出てゆけ。どちらにせよ今の贅沢な暮らしはもう送れないと知れ」
「王権の濫用だ!」
「貴様にそれを言われくはないな」
「大司教。もういいじゃねえか」
そう言ったのは、いつの間にか大司教のいる壇上まで来ていた勇者だった。
「勇者殿……」
「おい国王。確かにお前の言う通りだ。傷害をやらかしたのは俺だ。だがな。悪いのは俺じゃねえ。悪いのは勇者である俺様に逆らうやつらの方だろう?」
「ダイジロー……貴様何を言っている?」
「言ってやれよ大司祭。勇者こそが特別な存在で、それに逆らうやつらこそ悪だってな。もういいだろう?ちょっと計画が早まったが、国王もちょうどいるんだ。ここでやっちまおうぜ?」
勇者はそう言って椅子に座っている大司祭の肩をポンと叩いた。
勇者の顔を見上げる大司祭の顔は、邪悪な笑みを浮かべていた。
「そうですな」
「何を言っている貴様ら?」
そんな王の問いかけに、勇者はもったいぶるように答える。
「この神殿本部に仕える神官の半分は、女神の加護である治癒魔法使いだ。そいつらの魔法は俺の魔法と同じように、神威結界の張ってある王都内では使えない。ではどうやって治癒魔法を使っているか分かるか?」
それは知っている者には当たり前の事実であり、知らない者には全く知られていない話だった。
「それはこの神殿だ。そいつらはこの神殿内でのみ治癒魔法を使っている。つまりだ。この神殿の中だけは全ての神官が治療行為を行えるように神威結界を張っていないということだ。どういう意味か分かるか?」
バカラが勇者を捕らえる際、女神の加護を封じる首に巻かれていた封印の首輪は外されている。
「この神殿の中では、俺の力を抑えることはできないんだよ」
それはこの危険人物である勇者が、敵対をすることになったロキや国王に対し、今はその力を全て解放された状態だということだ。
そんな大見えを切った勇者と国王の間を遮る形で、ロキが立ちふさがった。
「それはおまえだけじゃなくて、この神殿の中でなら俺の魔法だって使えるっていうことだよな?」
「へっ、こんだけの空間にこれだけの人間がいるんだ。魔法を使ったらお互いの仲間たちまで巻き込んじまうぜ?今この場で有用なのは、俺の身体強化だけだ」
勇者はいつのまにか手にしていた聖剣を持って、そう告げた。
そしてそんな勇者の言葉に自信を取り戻した大司教は、国王に対して宣言をする。
「国王陛下。あなたにはがっかりしました。本当はもう少し様子をみるつもりだったのですが、計画を前倒しすることにしましょう。あなたには死んでいただき、我々はこの勇者ダイジローを新たな国王になっていただきます!」
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