魔王転生→失敗?(勇者に殺された魔王が転生したら人間になった)

焔咲 仄火

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第61話 魔界の動向

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 ――魔王城、円卓の間。

 魔界最奥部にある暗黒の城、魔王城の中の一室『円卓の間』では、その部屋の中央にある円卓を囲んだ魔界の幹部たちが、ヴォルト死去以降の魔界の方針についてどうするべきか討論を続けていた。

 勇者に殺された魔王ヴォルテージが言い残した「必ず戻ってくる」という言葉を信じて待つべきだと主張する者と、未だ姿を現さないヴォルテージに転生の秘術が失敗した可能性があり今後の事は自分たちで決めなければいけないと主張する者がおり、意見が二分していた。

 信じて待つべきだと言う意見を最も強く訴えているのは、魔王親衛隊の隊長であるルビィだ。
 ルビィは、男性たちと同じ軍服を着てはいるが、女性だ。だが剣の腕では男性でも適う者がおらず、現在の地位を得ている。そのため発言力も強い。
 逆に、いつまでも魔王を待っているわけではないと言う意見を強く主張していたのが、政務副官のニルヴァナとシオンの二人であった。

「貴様らは魔王様への忠誠を無くしてしまったのか?!私は魔王様に命を捧げたのだ。貴様らが何と言おうと、私は死ぬまで待つ!」

 そんなルビィの強い言葉に、シオンが反論を唱える。

「もちろん我々だって、魔王様が帰って来ることを願っているに決まっているでしょう?ですが待っている間にも、戦況は刻々と動いているのです。今でこそ勇者が大ダメージを負って追撃をかけれずにいるのでしょうが、勇者が完全に戦場に復帰したり人間たちが新たな兵器を用意したりしないとも限りません。そうした場合、今何もしていない我々が大ダメージを負う事は目に見えているだろう?魔王様が戻ってこなかったからと言って、民を見捨てるわけにもいかないのだ。ルビィ、貴方は戦うこと以外の仕事をしてこなかったせいで、視野が狭くなっているのです」

「な、なんだと!政治がどれだけ難しいか知らんが、戦場で命を張ってない貴様らに侮辱される理由はない!」

「我らは政治に命を張っているのです。そこにどちらが上かなどという概念はありません」

 ルビィとシオンの言い争いはだんだんエスカレートしてゆく。

「ル……ルビィ。落ち着いて……」

 ルビィの横に座る、言葉少ない戦士マグマが同僚のルビィを諫める。
 魔王ヴォルトよりも大きい身長2メートルを超す大男マグマが、小柄なルビィに対し怯えながら話しかけるその様は、見慣れた仲間たちでも違和感を覚える。
 このマグマは、いざ戦場に出れば誰よりも勇敢で尋常ならざる剣の強さを持つ戦士だ。だが話し合いの場などではいつも一歩引いていて、気の強いルビィの制御役となっている。

「うるさい!貴様はどっちの味方だ!貴様まで魔王様への忠誠を忘れたのか!」

「も……もちろん魔王様を待つべき。だけど、シオンの言いたい事も分かる……」

 キー!と叫びながらマグマの胸を思い切り殴るルビィ。だが巨漢のマグマは蚊に刺されたほどにも感じていないようだ。

「癇癪を起こしてないで、まじめに話し合いなさい!」

 シオンの一喝に、ルビィの矛先はシオンへと戻る。

「う、うるさい!ともかく貴様は魔王様への忠誠が足らんのだ!魔王様が戻ってくると約束したのだから戻るまで待つのが我らの仕事だ!私は魔王だからヴォルテージ様に仕えているのではない。ヴォルテージ様だから仕えているのだ!だからあのお方を待つ。それだけだ」

「わ……分かるよ、ルビィ……」

「うるさい!お前に私の気持ちの何が分かる!」

 そして再びマグマへも怒りをぶつける。

「私はな、ヴォルテージ様に命を救ってもらったのだ。私の故郷の村は、ドラゴンゾンビに襲われて滅びた。ドラゴンの住む山でゾンビ化したそれが暴れまわっていたところを、ヴォルテージ様が助けに来てくれたのだ。そして救ってくれたのにも関わらず、私の家族を助けられなかった事を私に謝ってくれたのだ。私はヴォルテージ様がいなかったら今は生きていない。私の命はヴォルテージ様にささげたのだ!だから絶対にその言葉を裏切ることはできん!」

 ルビィは思わず、自分の過去の話をしてしまう。
 同情されるのが嫌で、今まで誰にも話したことは無かった。
 だが魔王ヴォルテージへの思いの丈が思わずそれを口にさせた。
 すると、シオンからは意外な言葉が返って来た。

「それはみんな同じです、ルビィ」

「え?」

「ここにいる皆、最低一度はヴォルテージ様に命を救ってもらった事があるという事です。それに対し恩に着せることの無いヴォルテージ様に対して、皆心から忠誠を誓っています」

 ルビィは今まで自分の話をしたことがなかっただけでなく、人の過去の話を詮索するような事もなかった。中には貧しい身分の出の者もいて、辛い過去の話を話したがらない。だが今は同じ主に仕える仲間同士として、身分の差は関係ないからだ。
 そんな仲間の知らない過去に、全員魔王ヴォルテージに命を救われた事があると聞いて驚いた。
 ルビィが円卓を囲む仲間たちの顔を見ると、シオンの言葉に皆頷いたり、過去を思い出して薄笑みを浮かべたりしていた。

 魔界全体には魔力が漂っている。魔力は、魔族が使う魔法の元ともなっているが、同時に魔物を生み出す力も持っている。そのため人間界よりも強い魔物が数多くいる。だからこそ魔族が魔物に襲われることも多い。
 ヴォルテージが魔王となる前、魔族の平和を脅かす魔物の退治をしていたのは彼らの中では有名な話だ。そして今ここにいる魔王の幹部たちは、皆その頃に命を救われた経験のある者ばかりだったのだ。
 魔王ヴォルテージを失った悲しみは、ルビィだけでなく全員が同じ気持ちだった。

「悲しいのはお前だけではないのです、ルビィ。その上で我々は前へ進んでゆかねばならないです」

 ルビィは、返す言葉もなく立ち尽くしていた。
 向かい合って座っているルビィとシオンの横側には、顔に大きな刀傷があり鋭い視線を放つあごひげの生えた男が座っていた。
 彼は魔王軍の総司令官である、将軍ロック。
 魔王直属の親衛隊として常に魔王ヴォルテージの護衛をしていたルビィとマグマとは違い、常に最前線で兵を率いていた男だ。

「シオンよ。もし魔王様を待てぬとなったらどう動く?すぐにでも派兵するか?」

 ロックが、そこで重い口を開いた。
 現在の戦況は、人間たちの軍が、魔界の入り口の砦を占拠している状態だ。人間たちを完全に追いやるためには、さらなる攻撃をしかける必要がある。
 もし向こうに勇者、もしくはそれに準ずる戦力があった場合、正面から攻撃を仕掛ければ、魔王軍は大打撃を受けるだろう。だが勇者もまたセミリタイヤ状態ならば、砦を奪還するチャンスでもあった。
 ロックもまた悩んでいたのだ。動くべきか、留まるべきか。

「魔導部隊は今は無理よ。けが人ばかりで役に立たないわ」

 そう言ったのは額に星型の魔法痕を持つ女性。魔導部隊の隊長である、サザンクロス・ジェニーだ。

「飛空艇も魔王様の制御を無くして墜落してしまった物が未回収のままだし、他の艦の整備もできていない。すぐに飛ばせる飛空艇はないぞ」

 ジェニーに続き、魔導兵器の責任者ザクロも消極的な事な発言をする。
 実際、魔王ヴォルテージが出陣しなくてはならないほど、魔界の戦力は弱体化していたのだ。

 そしてルビィ率いる魔王親衛隊は、個人の技量は高いが人員が少なすぎて部隊としてなりたたない。
 つまりは、今攻めるというのならできる事は、ロック将軍率いる残された魔王軍で正面からぶつかることだけだった。

 全員がシオンの意見を待っている中、返って来た言葉に全員が驚いた。

「いえ、派兵は待ってください。私は、ここで人間たちに休戦協定を持ち掛けてもいいと思っています」
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