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第89話 魔王、バーデンバーグ解放
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人間界最北端にあるバーデンバーグという都市は、魔界に続く峠の入り口に位置する軍事都市だ。
都市の中には武器製造施設、怪我人のための治療施設、食料貯蔵庫など、軍隊が必要とするものを供給するための施設がそろっていた。
人間界の様々な町から集めた物資を魔界の戦地へと送る、補給基地の役割を果たしている。
ヴォルトは、ここから少し離れた場所にヴァレンシュタイン王国から連れて来た兵隊たちを待機させ、単独でバーデンバーグへと潜入した。
その目的は、シオン救出と神人エィスの討伐だ。
マルスの話では、この都市でエィスを見たという事だった。
だがヴォルトが見たのは、もぬけの殻となっていた軍隊の駐屯基地だった。
周辺の施設で働く者たちは残っていたのだが、最も重要な軍隊が駐留する基地に残っている兵隊はいなかった。
基地の中には、数名のローブを着た男たち=オーテウス教の司教がいるだけだった。
おそらく増援を待たずして、軍隊を率いて魔界へと進軍したのであろう。
ヴォルトが基地内を捜索していると、おそらく士官の執務室であろう部屋の机の上に、無造作に置かれていた一枚の地図を発見する。それには、人間たちが把握している範囲の魔界の地図が描かれていた。そしてその地図には、大きなバツ印が一つ書き込まれていた。
バツ印が書かれていた場所は、現在の魔族の領土と人間族の領土の境である、ミルス平原。
おそらく少し前までこの基地にいた軍隊の進軍予定地はそこであり、そこに全軍を集めて魔族たちと合戦を行うつもりなのだろう。
人間たちの軍勢が進軍してきたからと言って、魔族がわざわざ危険の多い平原まで出てきて合戦に応じる理由はない。砦に籠って有利な防衛戦をするか、途中で奇襲をかけた方が得策だろう。
だが人間族にはシオンという人質がいる。
今魔界には、魔王であるオレが不在であり、副官のシオンすら失っては大混乱を引き起こす可能性がある。
シオンを取り戻すために、魔族の軍隊がエィスの挑発に乗ってミルス平原に出てくる可能性は高い。
人間族と魔族の間に大きな戦いが起こり、多くの者が死ぬというのは最悪のシナリオである。
ヴォルトは焦る。
ともかく全てが後手後手に回りすぎていた。
だが焦っていてばかりでは事態は好転しない。
少し離れた場所に待機させているカイン達、二千の兵士たちの元へ戻り、作戦を話し合うことにした。
「……という状況だったのだが、オレはこのまま魔界へ向かってエィスたちを追うつもりだ。カイン、お前たちはどうする?」
「バーデンバーグで働いているのは、一般の市民です。オーテウス司祭によって支配されているのだとしたら、民を解放しなくてはなりません。もし神人エィスの『神言』で操られているとしたら、どうしようもないのですが……」
「そうか。そうだな。それでは当初の予定を変更して、この軍勢を増援要請に応えたという事にして、正面からバーデンバーグへ入ろう。それで町の情報を収集してから、その後の対応を決めよう。心配なのはこの町と最前線の間に連絡手段があるかどうかだ。もし連絡手段があり、定期連絡を必要としているのなら、エィスを倒すまでこの町を解放するのは待った方がいい」
「それもそうですね」
そして二千の兵たちと共に正面から乗り込んだヴォルトたちを迎えたのは、やはり軍人ではなくオーテウス司祭たちだった。彼らから知らされたのは、ヴォルトが予想していた通り回答であった。このまま峠を越えて北上し、魔界の魅する平原で全軍と合流するようにと。
エィス、もしくはザズーから、増援が来た場合にはそう伝えるよう指示を受けていたのであろう。
幸い前線と連絡を取る手段はなく、定期連絡を送る予定もないという事を教えてもらうと、もはやこいつらをのさばらせておく必要はないと、問答無用でオーテウス司祭たちを取り押さえた。
町の一般市民に対し、王都で決定を下されたオーテウス教の追放と魔界の終戦を伝える。
オーテウス教追放については、精霊神殿があるため治癒魔法に困ることもなく、一般市民は冷静に受け止めてくれたようだ。
だが終戦に落胆をするものたちが多くいた。この町にいる者は、皆戦争をすることで商売を成り立たせている者たちだったからだ。
だが、そんな落胆の声を漏らす者たちに、ヴォルトは声をかける。
「安心しろ。当面はおまえたちの仕事が無くなることはない。魔界と終戦後は、これまで鎖国状態であった魔界と貿易が始まる。これまでなかった新しい仕事が増えてくるはずだ。そしてこの場所こそ、魔界と人間界を繋ぐ重要な町になるに違いないだろう!」
「おおお!」
落胆の声は、希望と喜びの声に代わった。
その発言には、ヴォルトと同行をしていたカインもひどく驚いていた。
「おお!ヴォルト様、戦争が終わった先のことまでお考えでしたか!さすがです」
「ま、まあな!」
本当は今思いついた。
だがあまりにもヴォルトに対して尊敬をするカインの瞳がまぶしくて、本当の事が言えないヴォルトであった。
都市の中には武器製造施設、怪我人のための治療施設、食料貯蔵庫など、軍隊が必要とするものを供給するための施設がそろっていた。
人間界の様々な町から集めた物資を魔界の戦地へと送る、補給基地の役割を果たしている。
ヴォルトは、ここから少し離れた場所にヴァレンシュタイン王国から連れて来た兵隊たちを待機させ、単独でバーデンバーグへと潜入した。
その目的は、シオン救出と神人エィスの討伐だ。
マルスの話では、この都市でエィスを見たという事だった。
だがヴォルトが見たのは、もぬけの殻となっていた軍隊の駐屯基地だった。
周辺の施設で働く者たちは残っていたのだが、最も重要な軍隊が駐留する基地に残っている兵隊はいなかった。
基地の中には、数名のローブを着た男たち=オーテウス教の司教がいるだけだった。
おそらく増援を待たずして、軍隊を率いて魔界へと進軍したのであろう。
ヴォルトが基地内を捜索していると、おそらく士官の執務室であろう部屋の机の上に、無造作に置かれていた一枚の地図を発見する。それには、人間たちが把握している範囲の魔界の地図が描かれていた。そしてその地図には、大きなバツ印が一つ書き込まれていた。
バツ印が書かれていた場所は、現在の魔族の領土と人間族の領土の境である、ミルス平原。
おそらく少し前までこの基地にいた軍隊の進軍予定地はそこであり、そこに全軍を集めて魔族たちと合戦を行うつもりなのだろう。
人間たちの軍勢が進軍してきたからと言って、魔族がわざわざ危険の多い平原まで出てきて合戦に応じる理由はない。砦に籠って有利な防衛戦をするか、途中で奇襲をかけた方が得策だろう。
だが人間族にはシオンという人質がいる。
今魔界には、魔王であるオレが不在であり、副官のシオンすら失っては大混乱を引き起こす可能性がある。
シオンを取り戻すために、魔族の軍隊がエィスの挑発に乗ってミルス平原に出てくる可能性は高い。
人間族と魔族の間に大きな戦いが起こり、多くの者が死ぬというのは最悪のシナリオである。
ヴォルトは焦る。
ともかく全てが後手後手に回りすぎていた。
だが焦っていてばかりでは事態は好転しない。
少し離れた場所に待機させているカイン達、二千の兵士たちの元へ戻り、作戦を話し合うことにした。
「……という状況だったのだが、オレはこのまま魔界へ向かってエィスたちを追うつもりだ。カイン、お前たちはどうする?」
「バーデンバーグで働いているのは、一般の市民です。オーテウス司祭によって支配されているのだとしたら、民を解放しなくてはなりません。もし神人エィスの『神言』で操られているとしたら、どうしようもないのですが……」
「そうか。そうだな。それでは当初の予定を変更して、この軍勢を増援要請に応えたという事にして、正面からバーデンバーグへ入ろう。それで町の情報を収集してから、その後の対応を決めよう。心配なのはこの町と最前線の間に連絡手段があるかどうかだ。もし連絡手段があり、定期連絡を必要としているのなら、エィスを倒すまでこの町を解放するのは待った方がいい」
「それもそうですね」
そして二千の兵たちと共に正面から乗り込んだヴォルトたちを迎えたのは、やはり軍人ではなくオーテウス司祭たちだった。彼らから知らされたのは、ヴォルトが予想していた通り回答であった。このまま峠を越えて北上し、魔界の魅する平原で全軍と合流するようにと。
エィス、もしくはザズーから、増援が来た場合にはそう伝えるよう指示を受けていたのであろう。
幸い前線と連絡を取る手段はなく、定期連絡を送る予定もないという事を教えてもらうと、もはやこいつらをのさばらせておく必要はないと、問答無用でオーテウス司祭たちを取り押さえた。
町の一般市民に対し、王都で決定を下されたオーテウス教の追放と魔界の終戦を伝える。
オーテウス教追放については、精霊神殿があるため治癒魔法に困ることもなく、一般市民は冷静に受け止めてくれたようだ。
だが終戦に落胆をするものたちが多くいた。この町にいる者は、皆戦争をすることで商売を成り立たせている者たちだったからだ。
だが、そんな落胆の声を漏らす者たちに、ヴォルトは声をかける。
「安心しろ。当面はおまえたちの仕事が無くなることはない。魔界と終戦後は、これまで鎖国状態であった魔界と貿易が始まる。これまでなかった新しい仕事が増えてくるはずだ。そしてこの場所こそ、魔界と人間界を繋ぐ重要な町になるに違いないだろう!」
「おおお!」
落胆の声は、希望と喜びの声に代わった。
その発言には、ヴォルトと同行をしていたカインもひどく驚いていた。
「おお!ヴォルト様、戦争が終わった先のことまでお考えでしたか!さすがです」
「ま、まあな!」
本当は今思いついた。
だがあまりにもヴォルトに対して尊敬をするカインの瞳がまぶしくて、本当の事が言えないヴォルトであった。
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