先生、おねがい。

あん

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 先生の車で家まで送ってもらうことになった。

 鞄は先生が持って行ってしまい、手ぶらで病院のエントランスで待つこと数分、一台の薄いブルーの軽自動車が俺の前に止まる。


 「待たせてごめんな。具合大丈夫か?」

 「は、はい」


 車から降りた先生が、後部座席のドアを開けてくれた。

 先生の爽やかな雰囲気によく似合っている車は、ぴかぴかしてて、何だか格好良い。

 そんな気持ちが表情に出てしまっていたのか、先生は「車好きなの?」なんて言いながら可笑しそうに笑って、俺の背中を優しく押した。


 「ほら、乗りな」

 「失礼します……」


 俺が車に乗ると、先生は「閉めるよ」と言ってドアを閉めてくれた。なかを見渡すとずいぶん綺麗にしてあって、何だか恐縮してしまう。


「横になってて良いよ。まだ完全に治ってないだろ?」


 運転席に座って、俺のことをミラー越しにちらっと見た先生が、車を発進させながら、またもや俺を気遣ってくれた。


 「そんなこと、ないです」


 本当は先生の言う通り、少し眠気がある。

 けど、人様の車で寝るなんて失礼なこと出来ないから強がった。


 「こーら、無理するの禁止。お医者さんもしばらく身体を休めてって言ってたし。って言っても、すぐ家着くけどな。それまでは寝ちゃいな」

 
 流れていたラジオまで消されてしまい、先生もそれっきり話さなくなった。静かな空間で、適度に身体が揺れるから、徐々に意識が遠のいて行く。

 そんななか、夢うつつに先生の襟首を眺めていた。

 誰かが運転する自動車に乗るのなんていつぶりだろうか。


 (不思議だなぁ、あんなに苦手だったのに。今は何だか、先生がいてほっとしてる……)





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