先生、おねがい。

あん

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 温め直した料理をテーブルに並べ終わった頃に、スーツから部屋着に着替えた先生が寝室から出てきた。

 長袖シャツに下はスウェット。そんな無防備な先生を見ることが出来るのは、学校の中では多分俺だけ。それがちょっとだけ嬉しい。

 二人で食卓を囲んで、「いただきます」と手を合わせる。料理を口にして顔を綻ばせる先生は、年上なのに何だか可愛い。


 「美味い。心って料理上手なんだな。朝食も弁当も美味かったし」


 先生に褒められたことがすごく嬉しくて、口元が緩みそうになった。だけどこれ以上子どもっぽいところを見せたくなくて、なんとか冷静を装う。


 「えと……バイトで厨房にも入ったことがあるので」

 「へえ。凄いな。良い奥さんになりそう」

 「えっ……」


 (お、奥さん?俺が……?)


 俺にとって不相応な言葉に目を丸くすれば、はっとした先生が苦笑を浮かべた。


 「ごめん。男に変だよな。心が可愛いくて、つい」

 「か、わっ……」


 (また可愛いって言われた……)

 
 昼に山田君に言われたことを思い出す。一日に二度も可愛いと言われるなんて、今までに経験のないことだった。


 「心、ごめんな?怒った?」


 申し訳なさそうに謝る先生に、俺はぶんぶんと首を振る。


 (そりゃ、俺だって男だし普通なら嫌なんだろうけど……)


 「怒るわけ、ない、です……」


 だって、嫌じゃない。

 山田君のときはただ驚くばかりだったけど、今は胸がほわほわして、きゅってして、くすぐったくて。言葉では言い表しづらい感情が胸の中で渦巻いている。


 それに……嬉しい。なんて感情も少しだけ。




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