先生、おねがい。

あん

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 「栗原君っ。栗原君待って!」


 足早に歩く栗原君を追いかけて、屋上につながる階段の踊り場でなんとか追いついた。掴んだ腕は乱暴に振り払われてしまったけど、そこでやっと栗原君は止まってくれた。


 「しつこいな。そっちだって、俺がいない方が清々するでしょ」

 「違うのっ。そうじゃないの……俺、栗原君を追い出したいわけじゃないっ」

 「はあ?本当におめでたいよね。必然的にそうなるって分からない?俺は君が嫌いなの」

 「栗原君が俺のこと嫌いなのは分かってるけど……でも俺っ、諦めたくない……山田君が大好きだから、一緒にいるのを諦めたくないの……だから、チャンスをください……」

 「チャンス?」


 栗原君がますます顔をしかめる。


 「俺、この性格変えて、栗原君を不快にさせないように頑張るから……だから……栗原君とも友だちになるチャンスを……」


 上手く言えない。口ごもる俺に、栗原君は大きな大きなため息を吐いた。


 「君が何しようと、馴れ合うつもりはない。皆が……山田が望月君を選ぶって言うなら、俺は一人でいる方が断然マシ」

 「そんな……どうして……」

 「……そっちにとっては良かったじゃん。山田が俺より望月君を選んだってことなんだから」

 「違うよっ。なんでそんな……」

 「山田は俺より君の方が良いって。つまりはそう言うことでしょ」

 「ち、違うもん!」


 栗原君の言葉にカアッとなってしまい、思わず叫んでしまった。栗原君は俺の意外な行動に驚いたように目を見開いて、言葉を失っていた。


 (どうして……どうして、そんなに悲しいことを言うの)


 「あの日っ、俺、山田君があんなに怒ってるの初めて見たっ。それって、山田君が栗原君のこと、すごく大切に思ってるってことじゃないのっ?」


 大きな声を出し慣れてないせいで、これだけでも喉が痛くて。それでも俺は、言わずにはいられなかった。伝えずにはいられなかった。


 「いつもニコニコしてる山田君が、栗原君のためにあんなに怒ったんだもんっ。そんな友だち思いの山田君が、栗原君のことを『選ぶ』とか『選ばない』とかするはずないよっ」

 「……っ!調子乗んな!」

 「……っ」


 ガッと壁に肩を押し付けられる。痛い。痛いけど、心はもっと痛い。だって、栗原君が今にも泣きそうな顔で俺を睨むから。苦しくて仕方ないって顔を向けてくるから。


 「調子のんなよ……いくらっ……いくらっ、山田と両想いだからって!!」


 (……ん?)

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