先生、おねがい。

あん

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番外編 おともだち①

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戸塚がセフレとの関係を考え直す話。戸塚視点で進みます。

***


 兄貴と暮らすようになってから、セックスすることはなくなった。部屋でヤれねえってのもあるけど、精神的にも必要なくなったから。
 俺はたぶん、愛されない自分を認めたくなくて、そういう行為に逃げてたんだ。だけど、それは間違いだったって分かった。
 兄貴は今でも俺を弟だと思ってくれてたし、こんな俺のことを心配してくれるお節介なやつもいる。

 (それに……)

 そのお節介のひとり──望月心のことを、本気で想うって決めたから。
 だから、俺なりのケジメとして、セフレとは関係を切ることにした。
 ずいぶん連絡をとってないやつや、名前を見ても顔が浮かばないやつのも。順番に、ためらいなく削除ボタンを押していく……けど。

 「……」

 途中で指が止まり、画面に映る名前に、眉を寄せる。

 “律”

 コイツもセフレだ。つまり、切る対象。むしろ最近は律とばかりヤッてたから、コイツを切らないことには、俺のケジメは始められない。
 だから、絶対に消すべきだ。なのに、何故か指は動こうとしない。

 (だいたい、名字も知らねえんだから、たいした仲でもねえだろ……)

 たった何回かボタンを押すだけ。猿でもできる、簡単な作業だ。
 けど、消せないのはなんでだ。なんで、コイツだけ消せない。なんで、俺の頭の中から消えてくれない。

 (……クソが)
 
 ギリッと歯を食いしばると、クイッと裾を引かれた。

 「戸塚君?」
 
 アイツと似てる、男にしては高く、澄んだ声。
 その声を聞いた瞬間、ヒュッと肺に嫌な空気が流れ込んできた。視線をスマホからずらせば、きょとんと瞬いている、デカくてまん丸した瞳と目が合う。

 「……あぁ、お疲れ」

 取り繕うように労いの言葉をかけて、スマホを尻ポケットに仕舞う。
 今日はセンセイに勉強を教わる日。だから、ついでに望月をバイト先まで迎えに来て待ってたんだけど、いつの間にか仕事を終えて、外に出てきてたみたいだ。

 「ありがとう。ごめんね、待たせちゃって」
 「……別に」

 先に歩き出せば、急いでトテトテとついて来る望月。横に並ぶと、望月は俺の顔を窺うように見てきた。

 「誰かに連絡してる途中だったんじゃ……俺、待ってるよ?」
 「……ちげーよ」

 いつもは俺も横目で顔を見るけど、なんだか目を合わせづらくて、声だけで返事をした。

 「あ、じゃあ、お勉強アプリとか?戸塚君、最近ずっとお勉強してるもんね」
 「……」
 「えへへ、この間、良いアプリ見つけたんだよ。写真で暗記シートを作れるんだけど……」

 (〰︎〰︎っ)

 「違う」

 あまりの無邪気さに後ろめたさが募り、俺は本当のことを言うことにした。
 元々コイツに嘘をつくつもりはない。コイツはすでに、俺のダメなとこもダサいとこも、全部知ってるんだから、今さら隠したって仕方がない。

 「セフレの連絡先消してただけだ」
 「……ふぇ?」
 「もう必要ねえし……お前んとこのセンセイも、ちゃんとしろってうるせえから」
 「そ、そっか……うん、たしかに、先生が聞いたらホッとしそう。先生、いつも戸塚君のこと、心配してるみたいだから」

 そう言いながら、苦笑を浮かべる望月。
 突然出たセフレという単語に戸惑っているのだろう。こういう話題が苦手なのは、相変わらずらしい。得意になられても困るが。
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