わたしの世界

グラタン

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わたしの世界

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私はとある高校に通うふつうの女子、山田 夢子。
私はこのクラス…いや、この学校が嫌いだ。
理由は、ろくな奴がいないから。
大好きな友達は2、3人いる。
でも、それ以外は女子も男子も嫌いだ。
なんでも自分勝手な奴らで、私がちょっと失敗しただけで笑ってきたりする奴もいる。
まぁ、嫌いな理由はこれだけでは無い。
同じグループに入ろうとすると睨んでくるし、たまにこっちを見ながらクスクス笑ってるし。
私の自意識過剰では無い。
確実にやっている。
いわゆる、陰キャと陽キャってやつ?
私はこの言葉が嫌いだった。
どうしてこんなもので差別が生まれてしまうのだろうか。
私はもちろん陰キャだった。
ただそれだけの理由でいじめのような扱いを受けている。

だが、別に私の性格が悪い訳では無い。
親戚にも
「優しい子だよね、夢子ちゃんは。」
と言われるくらい、性格は悪くないのだ。
「はぁ…もういっその事皆私になっちゃえばいいのに…。」
そう私が言った途端、地面がグラグラと揺れ始めた。
教室中が騒ぎ始める。
私は隣にある机に掴まった。
その机はクラス1のいじめっ子の寺島 連の席だった。
普段なら触っていたら何か言われそうだが、今はそんなこと気にしていられない。
やがて揺れ始めて2分が経った。
未だに揺れは収まらない。
その時、教室の1部の床が崩れた。
「キャーーー!」
と私のクラスで1番嫌っている女子が下に落ちていった。
皆、心配する間もなくどんどん落ちていく。
残ったのは私のみ。
「何で…?どういうこと…私が…選ばれた
…?」
なんて、そんなはずない。
私がこのクラスで選ばれるなんてそんなこと…。
と、その時。揺れがピタリと収まった。
きっとほかの教室にも人がいるに違いないと思い、私は隣のクラスに歩いて行った。
だが、残念なことに誰もいない。
「なんで…私が…。」
私は不安になって膝から崩れ落ちた。
仲のいい友達も誰もいない。
先生も嫌いな奴も。

「夢子ちゃん…聞こえる…?…」
ん?今なにか聞こえたような…。
「夢子ちゃーん…。聞こえる…?」
「え…誰かいるの…?」
私は不安のあまりその声に答えてしまった。
顔を上げるとそこには1人の女の子が立っていた。
年齢は5歳くらいだろうか…。
「こんにちは!夢子ちゃん、1人?」
「え、まぁ…そうだけど…。」
「じゃあ、ピッタリだね!今日はあなたの夢を叶えに来たの!」
わたしの夢…?なんだろう…。
「自分だけの世界にしたいんだよね?そしたら、叶えてあげる!」
「え…それが私の夢…?まぁ、言ったけど…。」
まさかそんな事が叶ってしまうなんて…。
「じゃあいくよ~!えいっ!」
女の子が手に持っていたステッキを振った途端、まわりが真っ白になった。


キーンコーンカーンコーン…。
「うぅ…。なに…?」
教室にチャイムの音が何響いた。
あぁ…やっぱりそんな事が叶うはず無かったんだ。
普通に授業は始まっていく。
「それじゃあ…ここの問題を…夢子!答えてみなさい。」
突然私が当てられた。
最悪だ…。
「は、はい!えっと…」
「3xです。」
「え…?」
私が答える前に、皆が一斉に声を揃えて答えた。
どういうこと…?
私は恐る恐る後ろを振り返る。
すると、みーんな自分だった。
「え…本当に叶っちゃったの…?」
今起こっている恐ろしい現実に手が震えた。
みんな同じ顔をしているのだ。
だが、授業中の為、声も出せず、時間は過ぎていった。

キーンコーンカーンコーン…。
休み時間だ。
皆にどういうことか聞かなきゃ…。
「ね、ねぇ…!なんで皆同じ顔してるの…?」
「え?なんのこと…?いつも通りじゃん。」
「そうだよ。どうしたの?夢子ちゃん?」
そうか…。やっぱりこの世界はこれが当たり前なんだ。
あれ…?でも先生は…。
「先生って…え!?」
先生も私がメガネをつけた顔をしていた。
髪型は少し違うけど…。
同い年の皆は私と同じ髪型だった。
「あ、先生!私ちょっと早退します!」
「なんの事だ…?っておい!夢子!」
私は教室を出て走り始めた。
外にいる人達も皆同じ顔なのかな…?
その予報通り、皆同じ顔だった。
「全員私…?」
どこを走っても私、私、私…。
もちろん家族も私…。
「どうなっちゃってるの…?」
ずっと走っていたことを今思い出し、恐ろしい息切れに襲われた。
「はぁはぁ…この先…どうしよう…。」
きっと不自由な生活が待っている。
そう考えただけで辛くなった。


1週間後。
まさかこんなことになってしまうとは。
今までの世界より、こっちの方が全然生きやすい。
嫌なことを言ってくる奴もいない。
笑ってくる奴も、バカにしてくる奴も。
こんな平和な世界初めてだった。
皆、私の友達よりも気が合うし。
自分だから当たり前だけど。
私は何不自由ない生活を送っていた。
「もうずっとこれでいいのにな~。」
とベットに寝転びながら言う。
いつこの世界が終わるかわからない。
今のうちに楽しまなくっちゃ。
きっと皆もこの世界を望んでいるに違いない。
だって、私しかいない世界は、争い事が怒らないのだ。
殺人事件や、強盗など、一切起こらない。
こんな平和な世界、神様も見たことがあるのだろうか。
とても夢のようだった。
なんたって、私は争いごとが嫌いだ。
だからこの世界でいい。
テレビに映る人が全員私でも全然問題ない。 
今は生きていることが楽しい!
ずっとずーっとこれでいい。
「夢子~!ご飯できたよ!」
「はーい。」
私の顔をした私のお母さんが呼ぶ。
早くご飯が食べたい。
私は急いで階段を下りた。
「さぁ、早く食べて!今日はいっぱい作ったんだから!」
お母さん(私)の料理はとても美味しかった。
まぁ、前のお母さんよりは下手くそだけど。
「美味しい!このハンバーグ!」
「でしょ!?もっと食べて!」
喋り口調まで私と一緒だ。
ちょっと恥ずかしい時もあるけど、これくらい大丈夫。
ご飯を食べていると、目の前にあるテレビからこんなニュースが流れた。
「速報です。○○マンションの2階で殺人事件が起こりました。犯人は未だ見つかっていません。繰り返します…」
「え?殺人事件…?」
「殺人事件!?どうしてこの世界で殺人なんか起こるの…?」
お母さん(私)はとても驚いていた。
やっぱりこの世界では殺人事件なんていう物騒な事件は怒らないのだ。
「ドアの鍵…閉めてたっけ…?ちょっと確認してくる!」
「え?お母さん!この事件があったの隣の県だよ!?絶対大丈夫だって!」
「だって怖いでしょ!殺される可能性なんてゼロじゃないんだから!」 
こうやって用心深いのも私と全く同じ。
だからって隣の県の殺人事件は平気でしょ…。
それにしても私しかいない世界で殺人事件なんて…。
私は人を殺したいと思ったことなんてない。
嫌いな奴はいっぱいいるけど。
でも……。
胸の奥からこんな思いが滲み出てくる。
「この事件の真相を知りたい。」
私はお母さん(私)に、
「ちょっと出かけてくるね!」
とだけ言い残し、急いで家を出た。
貯金してあった5000円という財産を手に持ち、駅に向かう。
もちろんお札の柄も自分だ。

ここから隣の県までは電車で約1時間。
今日中に事件のあったマンションに着ければいいのだが。
切符を購入し、電車に乗る。
電車はものすごい勢いで走り出した。
「きっとこれなら間に合うでしょ…。」
それにしても、どこから私の「殺したい」という気持ちが生まれたのだろうか。
気になって気になって仕方がなかった。
これ以上死ぬ人を増やさないように急がなきゃ。
スマホでニュースを見てみても、まだ犯人は捕まっていないらしい。
きっと、私(殺人犯)なら大丈夫。
これ以上死人を増やしたりしないはず。
希望を胸にマンションへ向かった。


「ここだ…。」
あっという間にマンションに着いた。
ドキドキする胸を抑えて歩き出す。
勇気を振り絞って中に入った。

中は思ったより広いマンションだった。
ここから見つけ出せるだろうか…。
一軒一軒インターフォンを押して回る。
「迷惑がられてるだろうな…。」
そう思いながらも仕方なく押していく。
そして12件目。
ピンポーン…
「はい、どちら様ですか?」
「あ、あの、殺人事件の犯人って誰か知ってますか?」
「あ、ちょっとお待ちください。」
と言いインターフォンが切れた。
この展開は初めてだ。
いつもなら「知りませんよ。」って言われて切っちゃうけど、この人(私)ならなにか知っているのかもしれない。
「お待たせしました。その事件の犯人、多分4階の夢子さんだと思いますよ。さっき、ご近所さんから電話が来て、4階の夢子さんだって噂が広まってるらしいんですよ。」
4階…。ここは2階だ。
なら、4階に行ってみよう。
「ありがとうございました!あ、ちなみに、その犯人が今どこにいるかは分かりませんよね…?」
「そうですね…。それはちょっと分かりませんね…。」
「そうですか…。ありがとうございました。」
しっかりお礼をし、踵を返してエレベーターに乗った。
「そっか…。皆殺人犯がいるから外に出ないようにしてるんだ。私も気をつけなきゃ。」
チーン。とエレベーターのベルが鳴る。
4階に着いた。
ここからは要注意だ。
何が起きるか分からない。
「さぁ…行かなきゃ…!」
全速力で家をまわっていく。
401号室も402号室も違う…。
その隣もその隣も違う…。
やがて30分程経ち、全部の家をまわった。
どの家も違うという…。
「ここじゃないなら一体どこに…。」
悩みに悩んだ。
全くどこだか思いつかない。
だがふと思った。
「殺人犯も私なら、きっとどこにいるかわかるはず…。心で感じればきっと…。」
なんだか恥ずかしい気もしたが、胸に手を当てて感じ取ってみた。
私なら…もし私が殺人を犯してしまったら…。

「そうだ…!きっとあそこしかない!」
ふと思いついた場所は、家族と小さい頃に作った秘密基地。
またまた全速力で走る。
あの秘密基地ならそこまで遠くはない。
まだ日が暮れる前に着けるはず!
少ないお金で切符を購入し、電車に乗る。
「絶対、絶対そこにいるよね…。」
小さな希望を持ち、秘密基地へと向かった…。

1時間後。
「やっと着いた!待ってて、私!」
秘密基地へと走り出した。
きっといるはず!
すると、それは期待通りだった。
「あ!」
喜びのあまり大きな声を出してしまった。
私の声に反応して殺人犯(私)が振り返った。
「ね、ねぇ!あなた、誰かを殺したんでしょ!?どう思ってるわけ!?」
「……あなたもあるでしょ。誰かを殺したいって思ったこと。」
「え…?」
私はそんなこと思ったことなんて無いはず…。
だって私は優しい心を…
「2年前の5月。まだ入学したての高校1年生の春。あなたは同級生の男子や女子に「キモい」とか「ウザい」とか言われてた。その時よく思ってたよね。殺したいって。」
その言葉を言われた瞬間、胸にグサッと何かが刺さったような感触を覚えた。
「高校1年生…そうだった…あの時は…。」
思い出してしまった。
忘れたいと思っていたあの時の記憶。
でも、私は人を殺したりなんかしていない…。
「私、人を殺したことなんてないよ…。」
「その自分の思いがどんどん進化していっちゃうんだよ。
あなたのその小さな思いが成長して、あなただけの世界で実現してしまったの。この世界はあなたの思いが枝分かれしてそれぞれがその世界で成長していって出来た世界なの。後で後悔する前に、今なんとか解決した方がいいんじゃない?」
「解決…?」
そう言われても、解決法が分からない。
「どうやって解決するの…?」
「それは自分の直感でやってみたら?私には分からない。」
解決法が分からない…?
そうか。私も分からないから殺人犯(私)も分からないんだ。
でも、どうしたら……。
「この秘密基地を見てたら分かるかもよ。本当に大切な事に。」
本当に大切な事?
私は辺りを見渡す。
この秘密基地に一体何が…。
「あ…。」
私の目に映ったもの、それは、家族と昔、気に彫った私の似顔絵だった。
とても懐かしい。
あの時は本当に楽しかったな…。
「ね、わかったでしょ。」
「うん…。こんな世界にいい事なんてないんだね。とっても生きやすくて楽しいって思ってたけど、皆同じなんじゃなくて、人それぞれに個性があるから楽しいんだよね。」
「そう。それがあなたの答え。」
殺人犯(私)がそう言った瞬間、辺りが突然揺れ始めた。
「また!?」
「さようなら、本当の私。もうここへは戻ってきちゃダメだよ。」


キーンコーンカーンコーン…
「んん…?」
目を覚ました場所は学校の机の上だった。
顔を上げると、そこには普通の先生が立っていた。
「おい、夢子。授業中だぞ。受験前なんだからしっかりしなさい。」
「あ、はい!すみません…。」
周りからクスクスと笑い声が聞こえる。
はぁ、戻ってきてしまったのかとは思ったが、残り少ない高校生活。
少しくらいの事は我慢しよう。
世界には色んな人がいるんだということを知った私にはもう何も怖いことはない。

学校が終わり、家に帰ると、普通のお母さんがいた。
「本当に戻ってこれたんだ…。」
「あら、おかえり夢子。おやつ食べる?」
「うん!食べる!」
やっぱりお母さんの手作りおやつが1番美味しい。
私はこの世界に戻ってきて本当に良かったと心から思えた。



「皆も世界中の人が自分になったらどうなるだろうって思ったことない?
私は毎日そんなことばっかり考えてた。
でも、「みんな違ってみんないい」って言葉通りだったよ。
自分や、周りの人の個性をしっかり捉えて、楽しい人生を送ってね。」

終わり。
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