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第二章
第1節 日常
しおりを挟むロイスの日常は元に戻りつつあった。違うことといえば、友達ができたことくらいだろう。学校にもあまり行ってはいなかった。ロイスにはやらねばならないことがたくさんあったのだ。今日は尚更忙しかった。
そんな中、控え室に書類を取りに行きドクターと話をしているとキルヒとフェリが転移してきた。ロイスがまずやったことはキルヒとフェリに控え室に入れるようにすることだった。学校に行けるとは限らないので、会えるように計らってもらったのだ。
「ロイス!」
「ああ、2人とも。ちゃんと結界に入れてよかった。…この部屋じゃゆっくり出来ないだろうから、今から俺のうちに行こうか。俺、今日ちょっと忙しいんだ」
「えっ?!い、いいのか?忙しいなら出直すよ」
「いいよいいよ。父さんに紹介したかったし」
そう言いながらロイスは2人ともまとめて転移した。キルヒが転成陣が見えなかった!とロイスの実力に感心しているのとお父様に紹介?!とモジモジしはじめたフェリはさておき。転移した先は、立派な庭園だった。夕暮れ前のオレンジの光が大きな噴水にきらめき、様々な花が咲き乱れていた。キルヒは名門貴族なので、小さい庭は手入れがしやすそうだなぁなどと失礼にも考えていた。フェリは綺麗な花々に目を輝かせていた。
ロイスのドラゴン、ジュニアが人間体になって現れるとノクターンもアンジェラも現れた。ジュニアは定位置と言わんばかりに木と木に架けられたハンモックにゴロンと横になってあくびをしている。
「急にどうしたの?アンジェラ」
「フェリ、ここは凄く魔力が濃いわ!とっても気持ちいい!」
「そう…気持ちいい…シャルンの巣だから…?キルヒ、何も感じない?凄く気持ちいいよ…眠たくなってきた…」
「ああ、ジュニアは大体いつも庭園で過ごしてるんだよね。うち竜舎とかないし。夜になると生きた魔獣を放すからみんなで食べるといいよ。それより、2人はこっち」
アンジェラは噴水のところに座って花を眺め、ノクターンは仔竜サイズになって噴水から庭園を流れる水路を楽しげに泳ぎ回っている。ちなみに、ジュニアは竜王の息子なので人間やドラゴンは大概ジュニアと呼ぶが、ロイスが古代神である太陽王シャルンからつけた名前がある。ロイスは重要な時だけそう呼ぶが、ノクターンとアンジェラにとってはジュニアは他にもいるのでシャルンと呼んでいるらしい。
ロイスはすっかり庭園に取り憑かれてしまった3頭を笑いながら見ると、庭園から館に入って行く。
中は思った以上に質素だった。高そうな花瓶や絵もない。人気はないが、照明で明るく暖かい雰囲気だった。館内は一般家庭の家3つ分ほどで、キルヒのような名門貴族の邸宅に比べると小さな別荘程度だった。しかし、キルヒは自宅の煌びやかすぎる家の装飾や使用人がいる騒がしさよりこうした家の方が落ち着けて良いなと思った。フェリも、いかにも貴族貴族しい庭園だったので緊張していたが、実家と同じような雰囲気でホッとしていた。
ふわりと花の香りがすると、3人の周りに小さな羽根の生えた妖精が現れた。屋敷ピクシーである。家に住み着く妖精で、部屋の温度を保ったり庭の手入れを手伝ったりする。単純に言えば家の管理人みたいなものだ。大体どこの家庭にも1匹は住み着いている。
「ピクシー、父さんは?」
『キッチン!キッチン!ご飯!作ってる!』
「ありがとう」
ロイスは廊下を少し歩いて、キッチン兼リビングに友人2人を案内した。
キッチンには、黒髪の背の高い男性が立っていた。すでにサンドイッチがテーブルに並べられ、何か甘いものを調理しているのだろう。甘い匂いが部屋に漂っていた。
くるり、と男性が振り向いた。ニコッと笑うと嬉しそうに話しだした。
「おかえり、ロイス!ピクシーがロイスが誰か連れて来たって言うから慌ててパンケーキいっぱい焼いちゃったよ!ロイスのパパです! いらっしゃい、キルヒ君にフェリちゃん」
「ただいまー」
「「お、お邪魔してますッ!」」
「さぁさぁ座って!ティータイムにしよう」
キルヒとフェリは慌てふためいて恐縮している。ロイスの父親という事実もだが、実はこの男性かなりの有名人である。まさかロイスの父親が彼だとは思いもしなかったのだ。おずおずとキルヒがきいた。
「あ、あの…禁呪研究者のブレンダン様…ですよね?」
「そうだよ~!あれ、息子から聞いてない?あっそっか!今日ここに2人を連れて来たってことは、僕達の話をしたいんだね?ロイス」
「父さん、そこにあるシロップ取ってくれる?」
「はいシロップ」
ブレンダン・カルディアは、世界最高の禁呪研究者と言われている。年に数回学園にも公演に来ている。書籍や魔法研究所などにも引っ張りだこで魔法使いで知らない者はほとんどいない。彼のおかげで読めないが発音できる人や、読めるが意味はわからないなど禁呪の素養がある者も増えた。禁呪と言う存在を知らしめた人物だ。
カルディアと言う名前から気がつけばよかったが、2人は全く気づいていなかった。なにせ余りにもブレンダンとロイスの容姿は違いすぎている。似ているのは青い瞳くらいだろうか。
「ロイスがこのうちに君達を連れて来たと言うことは、カルディア家の話をしなくてはいけないね。そうだなぁ、まず単刀直入に言うと、僕達は『禁呪使い』なんだ」
「えっ、しかし、ブレンダン様は読めるし意味もわかるが使えないと…」
「書けるし読めるし!それに意味もわかれば禁呪は使えるんだよ。使えないふりしてるだけ」
えっへん!と言わんばかりにブレンダンは胸を張った。ロイスはパンケーキを食べている。ロイスから話すつもりはないのかもしれない。
禁呪使いは、現存していないことになっていた。現存しているならば、この世界を一瞬にして破壊することすらできると聞いている。現代魔術の数百倍の強い魔法が作用する超古代文字の組み合わせだ。扱うのはまるで神から認められた者だけだと言わんばかりだ、とブレンダンは著書で語っている。
キルヒとフェリはゴクリと生唾を飲み込んで聞いた。
「で、では…この世界を破壊することも…」
「3秒くれればできるよ~。まぁしないけどね。世界を破壊すると僕死んじゃうし…。そんなわけで禁呪使いは凄いけど、国を乱すから極秘にしてるわけ。僕は普通の禁呪使いなんだけど、息子が天才でねぇ。超超超極秘にしてるわけ!僕の息子天才~!凄いな~!」
わざとらしくパチパチと拍手するブレンダンにキルヒが聞いた。
「?禁呪使いには種類があるのですか?ロイスは超級魔法使いだから天才に間違いはないとは思いますが…」
ブレンダンは居住まいを正して、急に真剣な表情になった。
「ないと思っていたけど、あるんだよ。禁呪ってのは言わば定型文なんだ。マーリン達古の魔法使いが作った呪文を僕らは発動するだけだった。でも…ロイスは違う。禁呪を作ることができるんだ。例えば、食べるっていう禁呪があったとして、普通の禁呪使いは食べるって魔法しか出せないけど、ロイスはいっぱい食べるとか好きな物だけ食べるっていう魔法に変えたり、食べないって魔法に魔法陣を変えることができるんだ」
「それって…!」
「つまり、ロイスは今現在マーリンと同じことができる、とも言えるね。扱えない魔法はロイスにはもうほとんどないと言っていい。僕がロイスを養子にした時にはもう超級魔法使いで禁呪使いだったし、今と変わらないくらい魔力おばけだったし?きっと生まれたその瞬間から使えない魔法なんてないんだと思うんだよね。まぁ、個人が編み出した魔法はまだ扱えないみたいだけどねぇ」
フェリとキルヒが驚いたように目を見開いた。凄いやつだとは2人ともわかっていたが、桁違いだ。超級魔法使いだけでも素晴らしい才能だが、禁呪使いに加え扱えない魔法がほとんどない?マーリンと同じ?このパンケーキを呑気に頬張るロイスが?と言わんばかりだ。
そんな話をしているうちに、時間が経っていた。ロイスの話(ほとんどブレンダンが話していたが)以外の、残りの時間は、キルヒとフェリの家族の話をして過ごした。
「だからね、僕はロイスに友達ができて嬉しいんだ。ロイスはずっと1人だった。小さい頃から任務と僕と禁呪漬けの毎日だったから…愛想もないしクールだけど、君達を大事に思っていると思うよ」
「…2人とも、今日の俺達の話を他言したり記憶を読まれないように禁呪をかけるよ。今日はこの辺にしよう。そろそろ、俺達もやらなきゃならないことがあるし」
「はは、ほらね、優しいだろう?君達に何かあったら困るからいっぱい禁呪を仕掛けるなんてね。ロイス、そんなに睨まなくたって…さ、さあ、もう日も暮れたみたいだから、お家にお帰り」
お帰り、とブレンダンが言った瞬間、フェリとキルヒは庭園に転移させられていた。追い出されたのが正しいが、ロイス達はこれからやることがあるようなので仕方がない。
2人は自分たちのドラゴンを探していた。そう言えば、ロイスが夜に魔獣を放すと言っていたのを思い出したのもつかの間、グギャア!とドラゴンの鳴き声がした。
ジュニアが屋敷に向かって鳴いている。食事の催促だ。
「おお、帰るのか。おっと、フェリ、キルヒ!ハンモックに座っておれ。魔獣に食われても知らんぞ」
「!わ、わかったわ!キルヒ、早く!」
「シャルン!フェリに魔獣を近づけるわけないでしょう!私がちゃんと守るわ」
「…そう、俺もキルヒちゃんと守る…心配要らない…」
噴水で泳いでいたノクターンとアンジェラがすばやく竜体に変わると、グルグル唸ってよだれを垂らしているジュニアに抗議した。ジュニアはふん!と鼻で笑うと言った。
「アレを見ても同じことが言えるのか?」
小さな物置きの扉がギィ、と開く。禍々しい黒い魔力が扉から噴き出たかと思うと、ワッと魔獣の群れが飛び出してきた。キメラの群れだ。数10頭以上はいる。ジュニアは軽やかに走り出し一頭目を仕留めた。
アンジェラとノクターンも興奮したように狩りをはじめた。キメラは戦闘力も強く、ドラゴンくらいの大きさがある。生きているので魔法攻撃もしてくる。
ドラゴン達は上手く避けたりバリアしたりして逃げる魔獣を狩っていく。人間2人に攻撃が当たりそうになるとジュニアが身を呈して守ってくれた。アンジェラとノクターンも2人に結界を張って守ってくれている。
狩が終われば、各々口周りを真っ赤にして食事タイムだ。
「…楽しそうでなによりだね…」
「そうね…」
人間2人は、グロテスクなドラゴンの食事シーンをただ見ているしかなかった。
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