天才魔法使いの未来まで巻き込んだ隠し子騒動

藤田 晶

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第二章

第2節 キルヒ

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学園には優秀な生徒がいる一方で、問題を抱えた生徒もいる。当然、キルヒは学年で一番優秀であり首席会の会長でもあるので問題をそのままにしていることはできない。フェリももちろん手伝ってくれたが、それでも喧嘩を諌めるのに苦労した。キルヒがのんびりしているせいか自由な学年なのはいいがいささか自由すぎるのが難点だった。
先ほども、魔法攻撃をしあっている生徒が居たのでキルヒとフェリは制裁をしたところだ。しかし、戦闘経験の少ない二人には仲裁に入るのも一苦労だった。ロイスがいれば一瞬で終わるのかなぁ、と考えなくもないがロイスがそんなことを手伝ってくれるとも思えなかった。
フェリは竜舎へ世話をしに行き、キルヒは2学年のメタスター科講義室でため息をついた。

「僕は昔から攻撃より防衛タイプだしなぁ…ロイスに戦闘訓練でもしてもらおうかな…」

またため息。ロイスは学園に顔を出さないし、先日は忙しそうだった。そもそも超級魔法使いに学園に通う暇なんてないのである。
キルヒはカリカリと羽根ペンを揺らし、学園長に粛々と事の顛末を書くことしか出来ない。おまけにグリモワール科の宿題も終わっていない。もうキルヒは今日は勉強を諦めることにした。控え室に寄って、ロイスがいなかったら帰って寝ようと決めた。
学園長に始末書を出し、王城の控え室に転移した。

「…キルヒ?あ~そうかもうこんな時間か…」
「ロイス。寝てたの?うちに帰って寝た方が良いんじゃない?」
「俺今日一日控え室に待機なんだ。どうせ何にも起こらないだろうし、暇だから寝てた」

控え室にはベッドくらいのソファーがいくつか置いてあり、ロイスはローブをかけて寝ていた。あらかじめ知らせておいてくれれば、もっと早く会いに来れたのにな、とキルヒはちょっと悔しく思った。キルヒはロイスの対面のソファーに座った。幸い、ロイス以外の超級魔法使いはいなかったのでちょうどよかった。
控え室には紅茶やお菓子、食事がいくつか用意されているのでロイスがのそのそと起き上がり、キルヒに適当に用意してくれた。

「チーズケーキ美味しいって話をしたら料理長が真似して作ってくれたんだよね。これはこれで美味しい」
「へぇ。そうそう、城下にはエッグタルトってお菓子を出すお店が出たんだ。行ってみたけど、チーズケーキより僕は好きなんだ」
「エッグタルト…食べてみたい…ガーゴイルさんに買って来てもらうか…ガーゴイルさん!ガーゴイルさーん!」
「えっロイス!ちょっと!」

ロイスは猛烈にエッグタルトという謎のお菓子を食べてみたいので、レオナルド王子の護衛についていたガーゴイルを呼ぶことにした。控え室は王の間と各王族の自室と繋がっているので、ロイスは構わずレオナルドの部屋の扉を開けた。ロイスがガーゴイルと叫ぶので、ガーゴイルも何事かと言う顔だ。
レオナルドは机に向かって軍議の資料を確認していたところだった。

「ガーゴイルさん、エッグタルト買って来てくれませんか?」
「んだぁ?急に。エッグタルトっつったら、あの広場沿いの店か。じじぃが陛下のお菓子を欲しがってたから買ってくるか。王子が軍議の間はヘラとじじぃがいるからそん時買ってくるわ」
「お願いします。ガーゴイルさんは顔が知れてるから並ばずにすぐ買えるから便利なんだよ、キルヒ」
「お前よぉ…師匠に向かって便利とか…まぁ否定もできねぇのがなぁ。ロイスの友達のためだと思って行ってやるよ」

ロイスはよろしく!と愛想のない顔で言うと扉を閉めてしまった。
ガーゴイルはロイスに甘い。愛弟子なので大体頼めばやってくれる。ロイスは結構それに甘えている。この間も、友達とチーズケーキの店に行った、また食べたいと言ったらすぐに買って来てくれたのだ。
レオナルドは苦笑しながら少し早いが軍議の場所に行くことにした。早く買い物しに行きたいと思っているであろうガーゴイルに配慮したのだ。それに、ガーゴイルが言うじじぃがお菓子を欲しがってるということは、王の側近じいやが差し入れるつもりなのだ。そしてタルトはおそらく自分にも回ってくるだろうと、レオナルドもちょっと楽しみだ。そんなことを思いながら、レオナルドとガーゴイルは別の部屋に転移した。
一方その頃、ロイスとキルヒは部屋でのんびりしていた。否、のんびりしているのはロイスだけだ。
キルヒはロイスにお願いして、グリモワール科の宿題を見てもらうことにした。

「はじめはパーっと本見て、気になるページで止める。ドラゴン召喚と同じ魔法陣を頭に思い浮かべると、本が浮いて………来ない…な…」
「…ね…」
「ちょっと魔法陣を頭に思い浮かべてて」

ロイスもグリモワールは苦手な部類だ。発動は出来るが結局強いのは自分だけの魔術書になってしまう。とにかく、ロイスは自分の目に解析する禁呪をかけた。より詳しくキルヒのグリモワールへの魔法回路を知るためだ。
見てみると、キルヒは確かに召喚魔法陣を頭に思い浮かべる段階までは完璧だ。だが、目の前の魔術書の文字を見ても頭が反応してないのだ。普通であれば魔術書の文字は魔法を作る元なので、魔法使いには何らかの反応を示すはずだ。
さらにロイスはジッとキルヒを見つめた。なんだかキルヒの周りがぐにゃぐにゃと歪んで見える気もしなくもない。なんだろう?とロイスは試しに近くにあったスプーンを投げた。スプーンは歪んだ中にするりと消えた。

「!」

スプーンはロイスの後頭部に勢いよく当たった。キルヒはこともなげに本を見つめていた。ロイスは、スプーンが飛んでくる瞬間、魔力を感知できなかったことに余計に驚いた。

「………なるほどね………」

これは異空間魔法のようだ。ロイスが未だできない魔法の1つだ。キルヒはスプーンを異空間に入れ、任意のタイミングで出したと考えられる。普段このように物を投げてもキルヒはこの魔法を使ったことはない。極度に集中すると出るのだろうか。逆に言えば、これが発動するのでグリモワールが反応していないのだろう。
そこに、ガーゴイルが転移して来た。話出そうとするガーゴイルをロイスは制し、キルヒを指さした。そしてガーゴイルにスプーンを渡してキルヒに投げるように耳元に囁いた。不思議には思った様だが、ガーゴイルはキルヒにスプーンを投げて見た。
数秒遅れて、床からガーゴイルに向かってスプーンが飛んできた。ガーゴイルは慌てて飛びのいて、スプーンは壁に突き刺さった。
ガーゴイルはギョッとしてキルヒを見てしまった。今まで見かけたことのない魔法だ。近いとすれば、Dr.ドクターの異世界に近いだろうか。

「キルヒ!避けて!」

ロイスはあえてキルヒが気がつく様に大声をだしてからその辺にあったフォークを投げた。ハッと気がついたキルヒは慌てて身体をかがめて避けた。

「無意識じゃないとだめかぁ…」
「フォークなんか投げてこないでよ!びっくりしたなぁもう」
「キルヒはメタスターの才能がずば抜けて他の属性よりいいのは知ってたけど、俺の予想を超えてるな…」
「おい、キルヒとか言ったか。お前、親衛隊興味あるか?」
「ガーゴイル様?ええと、僕、攻撃魔法はイマイチで…あまり考えたことないですね…」

ロイスとガーゴイルはどうする?俺か?お前か?などと訳のわからないことを二人で話し始めた。キルヒはついていけていないが、エッグタルトのいい匂いがするので早く食べたいなぁとどうでもいいことを考えていた。

「とりあえずあいつに話してみるかねぇ。親衛隊のしの字も考えたことなさそうだが…興味がなさげなら俺が引き取るわ」
「そうですね。その方向でいきましょう」
「キルヒ、お前タルト食ったら帰りな。明日はロイ坊非番だからまた明日の夕方来い。な?ほれ、タルト」

何がなんだかわからないままキルヒはガーゴイルにタルトを口に突っ込まれ、追い立てられる様に帰らされてしまった。エッグタルトはやっぱり美味しい。
ガーゴイルはレオナルド王子の護衛に戻り、ロイスはキルヒがいなくなってガランとした控え室でまた寝ることにした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



翌日キルヒはガーゴイルに言われた通りにロイスに会いに控え室に転移してきた。が、部屋にいたのは痩せっぽちで栄養の足りてなさそうな男性だった。超級魔法使い、Dr.ドクターである。メタスターの素養がある者なら誰でも憧れのメタスターの天才だ。キルヒももちろん憧れていて、超級魔法使いの中ならロイスの次に好きだ。
そんな憧れのDr.ドクターがソファーに座っている。ちょっぴりキルヒはドキドキしながら、恐る恐るドクターに聞いた。

「あの…ロイスは…ど」
「君はグリモワールを習得したいそうだね。…ロイス君は急に任務に出かけてしまった。だから、私がグリモワールの指導をするように頼まれた」
「えっ?!いやあのそれは…僕、帰りま」
「座りなさい、キルヒ君。グリモワールに集中するんだ」

口調は穏やかだが、細い目と雰囲気が恐ろしかった。キルヒがわたわたとドクターの向かいのソファーに座ると、ドクターはグリモワールを差し出した。
キルヒはドクターに言われるがまま、召喚陣を思い浮かべ、ジッとグリモワールの文字を見つめた。だんだんと意識はふわふわとし、文字が浮かび上がるような感覚があった。もう周りの音もドクターが話しかけるのもキルヒには聞こえていなかった。

「キルヒ君…キルヒ君………ふむ………」

ドクターはキルヒの周りの魔力の質が変わったのを感じた。ロイスとガーゴイルが、異次元魔法を扱える若者がいると聞いていて興味を持った。本当かどうか確かめたくなったのだ。ロイスは、キルヒの周りがぐにゃぐにゃしたと言ったが、異次元魔法を使うドクターにははっきりとキルヒの周りに異次元魔法の前段階、流路が見えた。流路は、異次元とこの場所を繋ぐ道のようなものだ。転移魔法は座標を無意識に指定し、その場所から座標に向かう魔法だが、一瞬にして移動するためには一度空間を歪めている。だが、普通は座標から座標に引っ張られているように、ただ引っ越しているようにメタスターは思っている。しかし、どうやって移動しているかはメタスター自身もわかっていない。だからこそ、メタスターは特殊な才能と呼ばれるのだ。空間を歪めて、戻すことが素早くできるのがメタスターだ。その歪みを自分でコントロールすることで異次元魔法は成り立っている。
つまりキルヒは、この場所とどこかを繋ぐ空間を歪め続けることが出来るという段階だ。きちんと指導すれば異次元を自在に操るようになるはずだ。
ドクターは、小さな火の玉を作ると空間にヒョイと投げ入れた。火の玉はポッといきなり空中に現れて、ドクターに向かってきた。ドクターにはわかっていたようで、小さな部分結界で防ぐ。

「ふふ、ふふふ…行き先の座標がなければ、空中を彷徨って、適当に元の座標に戻るということか。理にかなっているな」

キルヒは、その声にハッと気がつき、ドクターを見た。目の前のドクターは、初めてあった時とは違い穏やかに微笑んでいた。ドクターは親衛隊を持たない。毎年何人かメタスターの技術を学ぼうと親衛隊の希望があるが、断ってきていた。しかし、キルヒは違う。他のメタスターとは違うのだ。ドクターは高揚していた。

「キルヒ君、僕の弟子になりなさい。嫌だとしても、こればかりは聞いてあげられない。他の超級魔法使いにはとても譲れないよ」
「…?」
「ああ、こう言ってあげたほうがいいか。君を僕の親衛隊にする」
「え、ええー!!??」
「王に報告するから、ついておいでなさい」

キルヒは訳がわからないようで、?と顔に描かれている。ドクターはおかしげに笑って、自分に素晴らしい才能があるとわかっていないキルヒを無理やり連れて、王に会うべく部屋を出た。
後日、ロイスから話を聞いてキルヒはまた驚いたが、ドクターの新弟子になれるのは光栄だった。こうして、キルヒは新しいステージに立ったのであった。
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