天才魔法使いの未来まで巻き込んだ隠し子騒動

藤田 晶

文字の大きさ
11 / 31
第二章

第3節 フェリ

しおりを挟む


「お二人!手を貸してくれませんか!」

控え室に慌てたようにヘラが現れた。腕には仔竜が2、3頭に足元にも数頭絡みついている。超級魔法使いというより牧場主のようだ。

「なぁにぃ?そんなにチビちゃん抱えて。ベビーシッターでもはじめたのぉ?」
「おうおうすげーな。さすがドラゴンマスター」
「だから!手伝って!ください!ってば!!!竜舎の管理人がぎっくり腰でおまけに竜舎の担当兵士は熱を出して休んでいるしッ!」

ドラックイーンとガーゴイルがソファーにゴロゴロしていた。ドラックイーンは待機で、ガーゴイルは非番だ。
ヘラは竜舎の管理、監督を任されている。管理人は何人か居るが高齢だったり、体調不良が続いている。竜舎の管理担当の兵士も皆面白いくらいに体調不良だ。まぁつまりストライキである。全員辞めてもらったようだが。ドラゴンの世話はドラゴニスタが一番向いている。話もわかるし、世話の仕方も知っている。問題は、竜舎の管理だ。一頭や二頭なら大したことはないが、数百頭管理するには管理の仕方や世話の仕方を知らなければならない。ヘラも、管理を任される様になってから学んだのだ。管理人がいないと世話が大変なのを今になって知ったのだ。
ここ数日、ヘラは寝ずに竜舎にこもりきりだ。王の護衛なんてやっていられない。

「大変ねぇ。でもよく考えてちょうだい?あなたにもわからないのに、私達がお世話できると思うの?」
「うーん…竜舎の管理ができそうなやつなら、一人心当たりがあるが…」
「なに?!誰でも構わないんです!猫の手も借りたいんだ、こっちは!紹介して!お願いします!」
「ロイ坊の彼女だ。ロイスに聞いてみな。大丈夫そうなら、俺がロイ坊と護衛変わってやるよ。ロイ坊もドラゴンの扱いはうまいからな」
「なんでもいいです!ロイス君!ロイスくーん!!!」

テレパシー使ってくださいよ、うるさいなぁ、と頭の中にロイスの声がした。つい先日ロイスはガーゴイルを大声で呼んだのは秘密だ。
超級魔法使いになるとまず教わるのはテレパシーだ。敵に会話を聞かれたりしないし、遠くの味方に話しかけるのに必須だ。広域魔法の一種である。一部の親衛隊員もつかうことを許されており、キルヒとはよくテレパシーで授業がつまらないとか、これからお菓子を食べに行くとかどうでもいい話をしたりしている。
ロイスはフェリに王城の竜舎の世話を頼んでみることにした。ガーゴイルに王子を任せたロイスは、学園に転移した。午前中の授業の真っ最中で、廊下にはさすがに誰もいない。ロイスはキルヒに一応学園に来たことと、フェリを探していることをテレパシーで伝えた。

<フェリ?今はええっと、時間割は~…あ、飛行訓練みたいだね>
<ふーん。王城の竜舎で待っててくれ。あっ、ノクを呼んでおいて。フェリを迎えに行ってくるから。>

テレパシーでさっと話を済ませたロイスは、竜舎に向かった。今は全学年のドラゴニスタ科の生徒が自分のドラゴンにのり飛行訓練を行っているようだった。竜舎から上を見上げると、白いドラゴンを見つけた。アンジェラとフェリだ。ふわりとロイスは浮遊すると、ヒュン、と移動しフェリの前に立ちはだかった。アンジェラを操っていたフェリはびっくりして乗っていたアンジェラのお腹を足で強く蹴ってしまった。

「フェーリ!」
「ロ、ロイス?!わっ、ご、ごめんね怒らないでアンジェラ」
「ぐるぎゃあ!ぐるる…ぐる…」

アンジェラがちょっと怒っている。ぐるると唸っていたが、悪いのはロイスなのでロイスを睨みつけることにしたようだ。
ロイスもごめんごめんとアンジェラを宥めておいた。

「悪いんだけど、これから王城に一緒に来てもらうよ。アンジェラもね。俺に捕まって?ほら、早く」

フェリは正直すごく困っていた。ただでさえ、ロイスは学園の女子人気1位、2位を争うほどだ。甘いマスクと強さを持っている。そしてロイスは男子はキルヒ、女子はフェリ以外と仲良くすることはない。だからこそフェリはロイスの彼女なのではないかと言われている。もちろん、その度に否定していた。もうすでに周りの生徒たちからの視線が痛い。いつか私刺されるんじゃないかしら、と遠い目になる。
実際は、女子生徒たちも男子生徒たちも特に嫉妬もなかった。学園いち凄いロイスと、学年いち可愛いフェリはくっついて当然というか、出会うべくして出会ったというか。早くくっついたらどうなのかと思っている人が大概だ。女子達はすでに多忙で滅多に来ないロイスではなく、ロイスの御学友キルヒを狙っている。男子はフェリではなくリリィ狙いの人ばかりである。
白馬の王子さまならぬ白いローブのロイス様がフェリをわざわざ迎えに来たのだ。授業だから、と言ったところでロイスに逆らえる魔法使いがどこにいるのだ。
フェリの抵抗も虚しく、アンジェラから降ろされたフェリは、ロイスと共に消えてしまった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



一方その頃、ヘラは竜舎でてんやわんやだった。竜舎の掃除もしなければいけないし、食事も与えなくてはいけないし外に出して飛行訓練や水中訓練などこなさなくてはならないものがたくさんある。それなのに、ヘラはドラゴンに愛され過ぎる体質故に、仔竜がしがみついて離れないし大人のドラゴンも撫でてくれと集まってくるしで仕事にならないのだ。
そんな中、ロイスが友人二人を連れて竜舎にやってきた。3人のドラゴンも、人間体で顕現していた。

「ロイス君、助かるよ!これじゃあ身動きが取れなくて…」
「さすがドラゴンマスターというか…あ、紹介します。フェリです。ドラゴン農場が実家だから竜舎の管理は任せて大丈夫だと思いますよ」
「フェ、フェリ・クライストです!ヘラ様にお会い出来るなんて光栄です!!」
「よろしくね。こんな状態じゃ何にもできなくてね…竜舎の管理をひと通りお願いしたい。人員が必要なら言ってくれ」

超級魔法使いヘラはドラゴンから愛される体質の持ち主だ。どんなドラゴンもヘラを見ればコロリと腹を出し撫でてくれとねだり、本来主人のいうことしかきかない上位個体すら懐く驚異のドラゴニスタである。
フェリはざっと竜舎周りと、ドラゴンの様子を見渡すと、やるべきことを考えた。

「アンジェラ、仔竜達の世話をしてちょうだい。ノク、水属性のドラゴンを連れて水浴びに行ってちょうだい。ジュニアはそれ以外のドラゴンを連れてしばらく上空を飛んできて欲しいわ。ロイスとキルヒは竜舎の掃除ね。私は餌の仕入れとドラゴンの健康状態の確認ね」
「わ、私はどうすればいい?何でもするよ!」
「ヘラ様はここに連絡をして、迎えに行ってください。私の知り合いで…きっと力になってくれるはずです。あとは、ヘラ様はゆっくり休んでてくださいね」

さあ、みんなお願いね!と言ったフェリは、ヘラに連絡先を書いた紙を渡すと早速竜舎の食料庫を見に行った。アンジェラはヘラから仔竜を預かると仔竜を連れてどこかに行ってしまい、ノクターンは水竜を連れて王宮の池に行って、ジュニアは大人のドラゴンを連れて大空に飛び立った。ロイスとキルヒは竜舎の藁を転移魔法でガンガン出して水魔法で糞尿をはき出しはじめた。
あまりにテキパキと進んでいくので、呆然としてしまったヘラだったが、慌てて我にかえるとフェリから貰った連絡先に転移した。
転移した先は、王国の郊外にある小さな小屋だった。竜舎のようなものも見えるが、ドラゴンのいる気配はなかった。ただ、小屋からは笑い声が溢れ、中に人がいるのは伺えた。コンコン、とノックすると中から女性が出てきた。恰幅のいい、いかにも農家の女と言った風貌だが、穏やかな表情でなかなか美人であった。

「…どちら様?」
「わ、私は王城に仕えるヘラと申します。ジェームズ様のお宅ですか?えっと、学園生のフェリ・クライストさんからの紹介でここにきました。私に力を貸していただけませんか?!」
「へ、ヘラ様?!超級魔法使いのヘラ様?!ちょっとあんた!ヘラ様がうちに訪ねてきたよぉ!」
「なーにを寝ぼけたこと言ってんだ。こんな田舎に来るわけねーだろが!嘘に決まって…」

ボサボサの髪をした男性がニュッと顔を出した。男性はヘラを見てゲェッと潰れたカエルみたいな声を出して驚いた。

「フェリさんから紹介していただきました。王城の竜舎の管理人がいなくなってしまって…フェリさんがあなたを呼ぶようにと…どうかお願いします!一緒に王城に来てくれませんか?」
「フェリお嬢さんが?ともかく、行きましょう。うちの嫁と子供達はドラゴンの扱いに慣れてますんで一緒に連れて行っても構わないですかい?」
「もちろんだ!人手は多い方がいいです!」
「母ちゃん、馬車の準備しねぇ!王城に行くぞ!」
「その必要はありません。私が一緒に転移しますので、必要な物だけ持ってください」
「!お、おう…母ちゃん、行くぞ!チビ達も一緒だ!」

男性の奥さんはチビというには幾分成長した娘と息子が数人と、まだ小さい子供数人を連れて出て来た。大家族である。
道すがら聞いたが、男性はフェリの農場に勤めていたそうで独立したものの、貧乏子だくさんな上にドラゴンの扱いは最高だが経営の才能はなかったようで農場をやめたところだった。フェリはそれを気にしていたらしい。
ヘラはすぐに王城に転移すると、彼らに部屋を用意し、竜舎の管理人として雇うことを決めた。ジェームズの奥さんは見たこともないお給金と王城に住めることもあり、ますますやる気になっていた。

「ああ、ジェームズ来たわね!じきにドラゴンが一斉に戻って来るわ。食事が朝以来だから気合い入れて行くわよ!」
「へい!お嬢さん!」
「ヘラ様、もう大丈夫ですよ!私とジェームズ一家に任せておけばまず心配は要らないわ!それより寝たほうがいいですよ。目の下すごい隈ですよ。ロイス、キルヒ、もういいよ~あとは私がやるわ!あっ帰って来た!ジュニア~、ノク~!ありがとう~!」

ヘラにはフェリが女神に見えた。テキパキと食事を用意し、竜舎の掃除や水浴びに飛行訓練まで済ませたあとは夜の食事をさせるようだ。ジェームズ一家も竜舎の中に入って準備をしているようだ。
ヘラはお言葉に甘えることにした。正直身体は限界だった。ヘラがぐっすり寝て起きた時、フェリがヘラの部屋の前でそわそわとしていた。なんでも、2日も起きてこないから倒れているのではないかと心配したらしい。
そんなことがあって以来、ヘラはフェリを重用し大事にするようになった。会議に連れて行ったり、ドラゴニスタの指導をしたり、逆にフェリにドラゴンの管理法を学んだり。
結局、管理人はジェームズ一家になった。フェリの農場から若いドラゴニスタが数人研修の形で働いてくれるようになり、今年の学園の卒業生を何人か雇うことにした。これですっかり竜舎は快適だと、ジュニア達はゴロゴロしている。
その話を聞いたドラックイーンが、フェリを親衛隊にしようと言うので、ヘラは焦った。

「フェリ!わ、私の弟子にならないか?!」

フェリはもちろん断らなかった。ヘラはあとあと冷静に考えて、ドラックイーンに焚き付けられたのだとわかったが、フェリを自分の親衛隊に加えることは後悔していなかった。優秀で、真面目で、ヘラにもそして王城のドラゴンにも愛されているのだ。大事に一人前の魔法使いにしてやろうと、ヘラは思った。
こうして、フェリもキルヒに数日遅れて親衛隊員になったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

精霊姫の追放

あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。 「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。

精霊に愛される(呪いにもにた愛)少女~全属性の加護を貰う~

如月花恋
ファンタジー
今この世界にはたくさんの精霊がいる その精霊達から生まれた瞬間に加護を貰う 稀に2つ以上の属性の2体の精霊から加護を貰うことがある まぁ大体は親の属性を受け継ぐのだが… だが…全属性の加護を貰うなど不可能とされてきた… そんな時に生まれたシャルロッテ 全属性の加護を持つ少女 いったいこれからどうなるのか…

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...