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第三章
第1節 学園生活
しおりを挟む魔鳥討伐から数日経ち、ロイスは平穏を取り戻しつつあった。それは王城の者達にも言えることで、鍛錬に精を出したり魔術の研究が出来るような余裕さえ感じられた。
今日は、ロイスも学園に登校することにした。実に数週間ぶりだった。
「ロイス様だわ…」
「今日は試験受けに来てるらしいぜ!」
ロイスが王城の控え室から学園の二学年の校舎に転移すると、それだけで生徒たちはざわざわと囁き合う。本来はメタスター学科の制服である紺地に金の刺繍のローブが良いのだろうが面倒なので超級魔法使いのローブのまま来てしまった。お陰でやけに目立つな、とロイスは苦笑する。
キルヒがそのうち噂を聞きつけて来るだろう、と長い校舎の廊下をぷらぷらと歩く。朝の明るい日差しが窓越しに当たり、ロイスの髪がキラキラと光っている。
「ロイス!」
「キルヒ、おはよう」
ほら、案の定キルヒが転移して来た、とロイスは笑った。
「おはよう!ロイスも中間試験受けに来たの?」
「…中間試験?そんなのあったんだ。…勉強全然してないけど、落第しちゃうかなぁ」
「君を落第にする先生なんているわけないだろ!午前中は筆記試験で午後から実技の試験だよ!どっちかというとみんな実技の試験で落ちるから、僕はとっても心配だよ」
「ふぅん。暇だし、学生らしくテスト受けるよ。場所連れてってくれる?」
キルヒが嬉しそうに頷いた。そう、キルヒは久しぶりにロイスと肩を並べて勉強出来るのだ。嬉しいに決まっている。
会場は、ノーマルの講義室らしい。二学年が一斉にテストを受けるのでギュウギュウだ。ざっくりと座るところが別れているが、メタスター学科の二人は一番後ろの席だ。キルヒもロイスも何となく特別扱いなのだろう。
「使い魔は試験終了まで回収します!カンニングを防ぐため、全員の解答は暗号化されます。魔法の使用は制限しませんが、カンニングに該当すると判断した場合、解答は無効となります」
そんなアナウンスが流れて来た。使い魔はドラゴンなど主人より魔法を知っている場合が多いので、大概の試験では持ち込めないようにしているらしい。キルヒはしっかりと勉強して来たのだろう、教科書にはびっしりと文字が書いてあった。ロイスがふと前を見ると、フェリがロイスを見て手を振って居たので、キルヒとロイス二人して仲良くフェリに手を振り返してしまったりする。
さて、いよいよ試験が始まった。生徒達は各々一生懸命回答している。
ロイスはざっくりと試験の問題を読んだ。各属性の魔術や魔法、薬学や治療学などたくさんの問題が並んでいたが、どれも基礎的な問題であった。ただ、あまりにもたくさんの問題があったのでロイスは自力で回答するのを諦めることにした。
ペンに書いて貰えばいいのだ。
ロイスは羽根ペンを握ると、魔力を通す。自分の考えを書けるように簡単な魔術回路をペンにつくり、傀儡魔法もついでにかけた。ふわぁ、とロイスは欠伸をした。腕を組み、ついうとうとと船をこぐ。この間、ペンは勝手に動き、回答欄に文字を書いている。
ギョッとした生徒たちは勝手に動く羽根ペンが気になり、試験が疎かになるほどだった。試験の回答は暗号化しているので、後ろや隣を見ても誰も注意しない。先生ですらロイスの動く羽根ペンを興味深げに眺めている。
全ての回答をいち早く終えたキルヒが、ツンツンとペンを突いてみた。
「…あんまり突くとペンが怒るぞ」
「?」
「ほら、怒った」
二人は小さな声でこそこそと話した。
突いたキルヒの指を羽根ペンがペン先で攻撃してきた。ロイスの言う通りにペンは怒ったようだ。
「ごめんね」
慌ててキルヒは謝って、指を引っ込めた。
またロイスは寝始め、ペンは動き始めた。だがそろそろ回答もし終わるようで、徐々にペンは動きを緩やかにして、最終的にまた動かないただのペンに戻ってしまった。
そんなことがあったが、無事に筆記試験は終わった。
お昼はキルヒと二人で食べ、午後からは実技の試験である。
「みんな一人ずつ先生に言われた課題をやっていくだけなんだけど、僕達はメタスター学科だから他の学科の生徒の評価の手伝いもしなきゃいけないんだよね」
「へぇ。俺たちのメタスターの実技試験はどうなるわけ?」
「見本として先生に言われた様にやるだけだよ。10秒以内に転移するとか転移魔法陣を複数箇所に設置するとか、そんなに難しくないって聞いたよ」
「ふーん。メタスター学科じゃない人にはまぁ、そう簡単に出来ないもんね」
「それで、僕達は先生と一緒に生徒の実力を見つつ、変なところに魔法陣出ちゃったの消したり?どっかわけわからない場所に転移しちゃった人を学園に連れてきたり?」
「ははは、俺も昔はよく変な場所に転移してたなそういや」
メタスターはロイスやキルヒのように生まれつき無意識に転移ができるタイプと、基礎から学び自力でメタスターになるタイプに分かれる。ほとんどが生まれつきメタスターの者が多いが、超級魔法使いDr.ドクターとヘラは自力でメタスターを習得したタイプである。
生まれつきメタスターを使えるとは言っても、自由に素早く転移できるようになるまでには練習が必要だ。ただ、元々素養があるので感覚が掴めてくれば大概の場合すぐに習得する。その練習の一つが、魔法陣を何ヶ所にも出してそこに移動する、素早く転移する、思い描いた場合に転移できる、などである。
メタスター学科の二人は、もうその段階の話ではないので、先生もあまり真剣に試験をしないのだ。
「じゃあ、ノーマルからやっていこうか?」
やりたい実技から適当に並んでやっていくわけだ。ノーマルは自分の体内の魔力を使った魔法を意味する。そのため、外界の魔力を遮断する部屋で行った。
先生が、キルヒには水!ロイスにはかなり迷って闇!と属性の指示を出したので、二人はそれに合わせた魔法を発動した。キルヒは水魔法が得意なのでもちろんさらりとこなし、ロイスは闇属性の霧を出してみせた。ちなみに闇属性は闇の精霊と契約しない限り扱えるものはほとんどいない。先生も流石にびびっていた。
その後も、フェアリスト、防衛魔術、ドラゴニスタと順調にこなしていく。
「はぁ…落第しないか心配だよ…」
「グリモワールは俺も苦手だから課題によっては落第かも」
「なんとかグリモワールが浮くようになったけどそれ以上はどうにもならなかったんだよね…」
「こればっかりはね」
グリモワールはロイスも一番苦手な属性だ。結局のところ、自分のグリモワールがなければ話にならないのだ。しかし、上級汎用型魔術書を扱えるロイスと、初級の魔術書すら発動出来ないキルヒとではまた話が全然違う。
「はい、あとは君達だけだよ」
「あ、ミスターグリモワールだ。俺が前にグリモワール学科に居た時ぶりくらいじゃないかな」
「そうだね、ロイス君。えーと、どっちから試験する?」
ぐだぐだと管を巻いているうちに、グリモワール学科の実技試験はもう二人だけしか残っていないらしい。
ミスターグリモワール、とは愛称である。その名の通り、グリモワール学科を仕切るグリモワール学科の教師である。ミスターグリモワールは、数千もの魔術書を所有し、学園の図書館に置いている。魔術書は所有者を選ぶ。数千もの魔術書のうち、毎年何人かは所有者が決まるので学生達は毎日出会いにいくくらいだ。ミスターグリモワール自身も、数冊の魔術書に選ばれていると聞く。特に、『亡き主人達の遺産(ロスト・タレント)』が有名だ。今まで所有していた魔法使い達の秘術やオリジナル魔術、魔法、珍しい使い魔などを記録した超貴重な魔術書である。
「じゃあ、俺が先にやります」
「わかった。今年の課題は…”5分間にどれだけ魔術書の魔法を発動できるか”です」
「へぇ。どの汎用魔術書でもいいんですか?」
「決まりはないよ」
ロイスはごそごそと自分のローブの内ポケットを探る。取り出したのは、上級汎用型魔術書の一つである精霊召喚魔術書である。百ページ程の中に、各ページに精霊が宿っており召喚できるという魔術書である。
ミスターグリモワールが始め!と声をかけ試験は始まった。
ロイスは、魔術書の表紙を人差し指で軽く叩き、裏表紙も軽く叩く。
「ーーーフルオーダー」
そう言ったロイスの魔術書が光り輝き、次々に精霊が本から飛び出して来た。バラバラと勝手に本は項をめくり、最終的にパタンとその中身を閉じてしまった。
フルオーダーとは、すべての項の召喚をするという命令だ。もちろん、すべてのページを召喚したことがなければ出来ない上に、召喚するだけの魔力を持たなくてはならない。
ロイスは、リリィとの任務によくこの本を使っている。リリィは精霊から魔力をもらっているので、魔力の増強や、精霊が居ない場合などに便利なのである。
「………僕思うんだけど、君グリモワール苦手なわけじゃなくてグリモワールがないだけのグリモワールの天才だと思うんだよね。というかロイス君、君ね、そもそも規格外なんだから試験に来るならちゃんと”学生らしい”魔法使ってくれないと困るよ。凄すぎて他の学科の先生達腰抜かしてたよ。試験荒らしでもしてるの?」
「えっ俺かなり手を抜いてるんですが…?」
「…もう次から君は卒業まで試験免除ね。フルオーダーできるならもう卒業どころか先生になっちゃうんだからね。はい、もう次!次の人!」
ミスターグリモワールが若干投げやりになっている。
ちなみに、ロイスが実技試験でやったことであるが、ノーマルでは闇魔法を出し、フェアリストでは大精霊を召喚し、防衛魔術ではバードゲージを出し、ドラゴニスタでは試験用のドラゴン全頭が服従する、と言った伝説を残している。総魔力量測定では機械を壊し、剣術や体術では戦う前に対戦相手の剣術指南の教師が泣いて許しを請うた。
一方キルヒはグリモワールの魔術式を出し本を浮かせることしか出来なかったが、魔術式が正確でグリモワールも僅かだが反応していたので良しとされた。
「ほらね、グリモワール出来ないっていうのはこういう感じだよ…まぁいいや、はい二人とも合格ね」
ミスターグリモワールはため息をつきながら、ロイス達をメタスター学科の試験に回した。メタスター学科の試験は非常に簡単で、二人ともあっという間に終わってしまった。他の学科の生徒のフォローに回ったものの、それも大したことはなく穏便に終わった。
後日、ロイスの試験成績が発表されたが、評価は判定不能であった。また、卒業までの試験免除までついており、ロイスとしては少し不満だったが、仕方ないかと諦めることにした。
「あー終わった~!ね、ロイスも来るだろう?」
「何に?」
「えっ?何って、夏の親睦旅行だよ。夏休み前に学園全体で浮遊島に行く…んだけど、そうか知らないよね。中間試験が終わると、船に乗って浮遊島で遊ぶんだよ」
「…知らなかった…いいな。行きたい!浮遊島も久しぶりだし、任務があるか聞いてみるよ」
「うん!」
キルヒとロイスは、試験終わりに廊下を歩きながらそんな話をした。親睦旅行とは試験終わりのちょっとしたご褒美のようなもので、毎年恒例だ。みんなこれのために中間試験を頑張っていると言って過言ではない。
ロイスは早速、王子に行きたいから休ませろと脅してみることにした。もちろん、王子的には休ませたくはなかったが、たまにはいいだろうと許可が出た。晴れてロイスは親睦旅行を楽しむことができるようになったのだ。
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