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第二章
第13節 忍び寄る闇
しおりを挟む魔鳥討伐騒動から一夜明け、ガーゴイルとロイスは北部のスノ洞窟に居た。スノ洞窟を抜け、外に出てみるとそこには昨日の冬景色とは打って変わって、初夏の陽気に包まれていた。そのまま、ロイス達は北部の村へと転移する。
北部の村は、ぐちゃぐちゃだった。昨日の戦いで魔鳥が暴れたのもあるが、それ以前に魔鳥が食べ散らかした人間の無残な姿もいくつか残されていた。家は全壊し、広場らしきところの噴水もなんとなく噴水とわかるぐらいにしか残っていない。
「ひっでぇ有様だなこりゃ」
「教会、ですかね。まだ壊れずに残っています。行ってみましょうか」
「おう。どうせ人なんか居やしねーんだし」
小さな村の教会だけ、微妙に形を残していた。二人は、魔法を使って瓦礫を退かしつつ、教会の中に入ってみることにした。そこには、神父と見られる男性が亡くなっていた。否、血の量から見て、神父だけではない。数十人はここに居たはずだ。おそらく、魔鳥から逃げてきた人々の最後の砦であったはずだ。魔法を使った痕跡もある。
神父の傍らには、本が落ちていた。聖書かと思いきや、それは神父の日記帳であった。本人に悪い気はするが、ロイスはそれを見てみることにした。
「…! ガーゴイルさん、これ見てください」
「あん?どうしたよ」
秋の日 十五日
私達はすごいものを見た。半信半疑だったが、あの御方は、簡単に病を治してくだされた!やはり噂は本当だったのだ。あの御方は、マーリン様に選ばれた神子様なのだ!
秋の日 二十八日
御方様は、私に一つの予言を下さった。この村から、災を齎らす魔獣が産まれる、と。そうして御方様は私に卵?を下さった。これが村を守るそうだが…ただの卵にしか見えないな。
冬の日 十一日
あの御方から頂いた卵が孵った。確かに、すごい魔力を持った鳥だ!小さくて可愛らしい!すっかり村のアイドルになった。
そうそう、御方様はしばらく来れないそうだ。もうすぐこの辺りは雪深くなるから、仕方がないな。春を待とう。
冬の日 三十日
鳥はどんどん大きくなった。最近、村人が失踪している。ブリザードも長く続いているな…
ああ御方様、お助けください!
春の日 三日
まだブリザードは吹き止まない。もうすぐ食料がなくなる。どうしたものか。
村人が半分に減った。この雪の中、どこに行ったのだろう。きっと逃げたのだ。この村はもう終わりだ。
唯一の望みは御方様から頂いたこの鳥だ。もうすぐ背丈が私と同じになる。随分大きくなる鳥だなぁ。
春の日 二十九日
御方様、何故、何故こんなモノを!!
この鳥が我らを守ってくださるのではなかったのですか!?皮肉にも御方様が予言した災はきた。御方様の手によって!!!
夏の日 一日
救援信号を出したが…もう長くは持たない。私の魔法ではもう悪魔を退けられない。
最後に残った女子供だけでもなんとかして助
「…なんてこった」
日記帳は夏の日一日の途中で終わっていた。それはすなわち、神父の死を意味していた。
まさか、魔鳥があの御方の手によって産み出された怪物だったとは二人とも思っていなかった。何という酷い仕打ちであろうか。あの御方は、村人たちを洗脳し、魔鳥が産まれる様に仕組んだのだ。
「反吐がでるぜ。なんてことしやがる。マーリン様の神子が聞いて呆れる」
「なぜ、魔鳥をわざわざ育てさせたのでしょうか…育った魔鳥を村に送り込めば済むことなのに」
「そうだなぁ。育てて、村人が失踪した頃にやってきて魔鳥を殺してみせる。そうすりゃ、御方様が災から守ってくれた~!って益々信仰させられるだろうな」
「!」
そうか、とロイスは思い至った。英雄信仰だ。この国では、マーリンを魔法神として崇めている。事実、マーリンは魔法や魔術を創り出した魔法の創造主であり、誰もが名を知る英雄でもある。真祖革命派の御方様は、自らをマーリン様の神子あるいは子孫として、信者を作っていると考えられる。
あの御方が神として崇める人が増えれば、王の立場は揺らぐ。今ある、マーリンの直系の子孫という立場より、民を救ってくれるマーリンの子孫である御方様、どちらを民が取るかは明白だ。
ガーゴイルが、イラついた様に自分の足元の瓦礫を蹴っ飛ばした。
「森林公園で新魔獣を作らせていたのも、ここに魔鳥を生まれさせたのも、全てはあの御方が英雄になる為に、やったんですね」
「さぁな。わからねぇけど、どっちも失敗したのは間違いないな」
「ジュニアが言っていました。子供の魔鳥だと思ったら、成体だったと。魔鳥の成長スピードがあの御方の予想よりかなり早かったのでしょう。恐らく、数日以内に俺の代わりに魔鳥を殺しに来たはずだ」
そんなとこだろうな、とガーゴイルはいらだだしげに言った。ロイスは、神父の日記と教会の奥にあった魔鳥の卵の殻を持ち帰ることにした。
ガーゴイルと共に、遺体がある人のぶんの墓を作っていく。これが、ロイス達にできる最後の仕事だった。
このまま王城に帰っても良かったが、二人はこの鬱屈した言い様のない怒りと悲しみと不安から村の周りを歩いてみることにした。
村を出て、少し南に行くと白い花の咲く草原が広がっていた。村は山の上の方にある為、緩やかに下に向かって草原が広がっていた。下の方には、町やスノ洞窟も見える。ちょうど日が沈み始め、夕焼けが眩しかった。
「…綺麗だ」
ロイスが珍しくそんなことを言った。フェリを連れてきたいと思ったことは言わなかった。
ガーゴイルもグッと伸びをしている。涼しげな風が気持ちよかった。
「帰るぞーロイ坊」
ガーゴイルが夕焼けを眺めているロイスに声をかけた。
ロイスは頷いて、ガーゴイルの後を追った。
王城に帰ると、王族達が待ち構えていた。ロイスはバレない様にそっとため息をついたのは言うまでもない。
すぐに二人は村の神父が持っていた日記帳を王に渡した。神妙に読んでいた王であったが、王太子に日記帳を回した後、憤慨した様に肘置きを殴りつけた。
ロイスとガーゴイルが、先ほど話していた推測を王に告げると王族達が苦々しい顔をした。
「信じられん!マーリンの英知を持ちながら何故こんな酷いことを出来るのか!虐殺ではないか!!」
「父上、すぐに国中の密偵達にあの御方を信仰している、あるいは訪れたことのある地域を探させましょう!このままではおなじことがまた…」
「そうだな。すぐに調べさせよう。じいや、準備を頼む。ロイス、ドラックイーン、ガーゴイル、大儀であった。ゆっくり休んでくれ」
はい、と3人は静かに頭を下げた。王族達が退出するのを待ち、居なくなると3人は控え室に戻る。今日は、3人以外は王族の護衛に回っている。
「それで、あいつらは吐いたのか?」
「ええ」
実は、魔鳥を討伐している間にドラックイーン達にも戦闘があった。
ドラックイーンとミリィは村人の診療に備え、薬剤の準備やベッドの準備などを行なっていた。討伐については、ジュリアスから順次テレパシーで話を聞いていた。一連の報告をしに、一人戻ってくるらしいことも。
王立治療院から連れ添ってきていた二人の医師達は建てたテントで薬剤を調剤すると言って中に入ったきりで、ドラックイーンもミリィもそれを全く気にしていなかった。やがて、報告に戻ってきた一人の隊員が二人に声をかけた。
だが、そのあとはお粗末なものだった。やってきた隊員が二人の注意を引き、背後から医師達が襲いかかる。
やぁねぇ、とドラックイーンは一言言うと、どこからともなく現れた植物の花が襲いかかる敵の頭をパクリと食べていた。食人植物のデスフラワーである。食人と言う割に消化は遅く、食べられた人は数日モゴモゴと食われているわけだ。そのため、敵を捕まえておくにはいい植物なので、ドラックイーンはデスフラワーをたくさん飼っている。そもそも、たった3人でドラックイーンが倒せるわけがないのである。
こんなことがあり、ドラックイーンは王城に帰ってきてから3人にお仕置き(ちょっと意味は違うが)していたわけである。
「あの御方のために様子を探っていたんだって。あの御方が村の人を救うから邪魔するなって言ってたわよ。仲間もいっぱいいるみたいよぉ~。なるべく吐かせたけど、もう逃げちゃったかしら?」
「まぁ、大方予想どおりだな。そういうやつらは、あの御方が命じない限り、王城にいるだろうな。逆に言えば、あちらの動きやアジトも見つけやすいだろ。そのまま泳がせよう」
「数人は処分するべきでしょうね。残った仲間がバレてないと思いやすいし、団結しやすいですから」
「了解よ♡じいじにもお願いしとくわね~!」
真祖革命派はすでに王城まで入り込んでいた。今まで仲間だったもの達が、明日には敵かもしれない。そんな苦しみの中、それでも彼ら超級魔法使い達は王族を守らなければならなかった。いつ寝首をかかれてもおかしくない。だが、それは今に始まったことではない。裏切り裏切られるは人の常だ。
超級魔法使い3人は、とりあえず休もうと与えられた自らの部屋に戻ることにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…感じましたか?」
あの御方はヴェルフェゴールに向かって言った。
ここは、真祖革命派の暮らす貴族邸宅の一室だった。
「はい。今まであの様な魔力の爆発を見たことも感じたこともありませんでした」
「一体、何者なのでしょう。北部の村の辺りですが、何かあったのでしょうか?」
「人間ではないかもしれません。あんな魔力を感じられる程の人間は貴方以外に見たことがありません」
「そうかもしれません…ああ、私が側にいれば…!」
御方様は悲しげにポロポロ涙を流した。ヴェルフェゴールはそれを見て嬉しくなった。民のために涙を流して悲しんでくださるなんて、やはり御方様はお優しい方なのだと改めて思った。
だが、ヴェルフェゴールは知っていた。あの魔力の爆発を齎したのが、帝都の超級魔法使いの一人であることを。その情報は王城に無数にいる密偵達からの連絡で知った。魔鳥が現れた理由は知らないが、御方様が気にしていた村で起きたことだ。御方様が予知していたのだろうと、改めて御方様の才能に驚くばかりだ。
しかし、もっと驚くべきは、帝都の超級魔法使いだ。密偵達によれば、ロイスと言う名の超級魔法使いらしい。まだ若いが、今代超級魔法使いの中で一番強いと言わしめているらしいと聞いた。
あれほどの魔力を持つ者とあの森で対峙したのかと思うと、血が沸き立つ様にゾクゾクした。
「ロイス・カルディア………か」
ヴェルフェゴールは誰に言うともなく呟いた。それは文字通り誰にも聞こえていなかった。
あの御方が創り出した街を歩きながら、ヴェルフェゴールは溶けるようにどこかに消えた。
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