天才魔法使いの未来まで巻き込んだ隠し子騒動

藤田 晶

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第三章

第3節 影

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ひゅん、と転移した先には1学年の主席でありメタスター学科の生徒が座っていた。生徒が、ロイスを見た。

「あ…貴方は…!」

生徒がロイスを見て驚いた。1学年でも、超級魔法使いロイスを知らない者などいない。なぜこの船にいるのか?と生徒の表情に書いてあるようだった。
うーん?とロイスは顔にも態度にも出さなかったが思った。この魔力の感じといい、気配の漂い方といい、顔立ちといい、誰かとよく似ていた。そして、赤い瞳を見てすぐにピンときた。

「…なんだ。俺なんかサポートにいらないだろ。アレ、使えるでしょ?喧嘩の仲裁くらいアレ使えばなんてことないしね。でも、君の一族がこうして表に出てるなんて珍しいね」
「!」
「君はじいやにそっくりだ。気づかないわけないだろう?気配の隠し方、出し方までじいやと瓜二つだよ」
「…流石ですね」

この生徒は、じいやの魔力の質に異常なほど酷似していた。まるでじいやが今側にいるようだった。つまり、この生徒がじいやの関係者であることは間違いなかった。
ロイスは、すっかりサポートする気がなくなった。とりあえず出航するまでいる振りして寝てようかと思うくらいであった。
じいやの生家を知らない超級魔法使いはいない。じいやの魔力に似ているということは即ちじいやの血縁者であることを意味している。ディックはヴァン・ダイク家に連なるものだということだ。それだけではない。超級魔法使いと彼らとは、時折、一緒に任務に就くこともある。彼らは特殊な訓練を受けている。暗殺、諜報術はもとより、会うたびに名前も違うし、容姿も性格すらも違う。潜入するために別人格になれる。そして1人が複数人いるらしいと聞く。ロイスが言ったアレというのは、彼らの特殊な技能である複数人になれるということを指しているようだ。
彼らは王家の”影”だ。一般人がヴァン・ダイク家を知ることはない。また、彼らがディックのように表で普通に学生していることもあり得ないことであった。だが、ディックはこうして学生をしている。そして、じいやに酷似した魔力。じいやの思惑はロイスにはわからないが、おそらくディックは”影を司る後継者”に一番近い者なのだろう。

「俺…私はディック…ヴ、……モーリスです。カルディアさんの噂はかねがね聞いています。」
「あはは、ロイスでいいよ。”影”が表舞台に出てるなんて珍しいから気になっただけだ。余計な詮索はしないから、安心してよ。転移の手伝い、要らないでしょ?」
「…いえ、いてください。私も貴方に聞きたいことがあります」

ディックの名前から姓を名乗るまでの逡巡がロイスには面白かった。本当は本名を名乗るべきだったのだろうが、誰に聞かれるかもわからないので、仕方ないだろう。
それまでディックが出していた魔力の質が、変わった。
殺気、とまではいかないがいつでも戦える、そんな雰囲気だ。
ぶわり、と別の船から巨大な魔力が発生した。出航時間のようだ。各船の下に大きな魔法陣が生成されていく。

「…話はこれの後にしましょう」

うん、とディックの変化を気にすることなくロイスもディックの隣に腰掛けた。ディックはすぐに同じように転移魔法陣を展開した。
基本的には、人間の転移も物質の転移もやり方は同じだ。ただ、物質の場合は動かす対象の大きさによって転移魔法陣の大きさも変化する。大きいものを移動させるには、それなりの魔力と魔法陣が必要になる。
まず、リリィ率いる5学年だ。5学年から2学年まで一気に結界の外に船を転移させる。ロイスとディックを、遠くから6学年のジュリアスが見ている。1学年の転移を見届けるようだ。
ディックの魔力が一時的に膨れ上がり、瞬きの後は船ごと空の上にいた。転移成功だ。ジュリアスの船ももうとっくに転移していた。
後は、ノーマルの生徒たちの出番だ。風魔法で船を動かすのである。

「やっぱり、俺は要らなかったな」
「…話の続きです。単刀直入に聞きます。今回の旅行に参加したのは、生徒として楽しむためだけですか?それとも…任務の一環ですか?」
「………うーん、やっぱりじいやに似てるなぁ。じいやが後継者にしたがるのも頷ける」
「はぐらかさないでください!俺はッ」

ぞくり、とディックの背に悪寒が走る。ロイスの表情は変わらない。むしろ微笑んでいる。だが、先ほどまでとは余りにも違いすぎる。何かはわからない。殺気でもない。威圧、というのに近いだろう。ディックは思わず唾をゴクリと飲み込んだ。

「じいやに似過ぎているのも考え物だな。そうだなあ………いずれわかる、とだけは言っておこう」
「………」
「けど、まだまだ青い。勘が鋭く頭が働くのはじいや譲りだけど、自分より強い相手への慎重さを、身につけるべきだな。それに、内緒話をするなら、ちゃんと閉鎖結界くらいして欲しいな」

ディックは失念していた。ロイスに聞きたいことに夢中になっていた。通常、他人に聞かれたくないことや行動は、閉鎖結界と呼ばれる結界内で行う。防衛魔術の一種だが、一般的でありどこでもよく行なわれる手法だ。反対魔術もあるが、むしろこちらは知られておらず、だからこそ閉鎖結界は便利だ。
今回は、ロイスがあらかじめ閉鎖結界を作っていてくれたらしい。笑うロイスには、もう先ほどまでの威圧感はなかった。優しい先輩に戻っている。

「じゃあね、ディック」

そう言って笑ったロイスは、ふっと消えてしまった。おそらく、2学年の船に戻ったのだろう。
はーっ、とディックは心底からため息をついた。なんて恐ろしい男なのだろう。いや、超級魔法使いはみんなこうなのかもしれない。
だが、ディックには勘とも確信とも言える何かがあった。絶対にロイスはただ旅行に来たわけではないのだろう。いずれわかるということは、いずれ何かが起こるということでもある。
ディックにはヴァン・ダイク家から受けた命令がある。今回のことと関係がないかもしれないが、見ておきたいところである。こうなるともう意地だ。

「使ったところですぐに察知されそうな気もするが…」

ディックには、祖父から譲り受けたグリモワールがある。これは影の誰も扱うことができない、ディックにしかこの本は開くことができない禁断の魔術書の出番だ。

「《影を扱う者》よ、我に応えよ。…”視者”」

シャドウユーザー、とこの本は呼ばれている。かつて祖父が影を集め、全員にこの本を開けてみろと命じた。当時の影は誰1人その本に触ることすらできなかった。ある日、ディックがじいやに初めて会いに行った時の事だ。じいやはディックを一目見て、この本を渡した。ディックは本を受け取り、まだ字が読めなかったのでパラパラとめくって要らない!と宣った。これに驚いたのは影達だ。触ること、開くことを本が許したのだ。
じいやはおかしげに笑って、本をまた自分の手に戻したが。数年後、グリモワールという存在と文字を知った頃にじいやからきちんと渡されたものだ。不思議なもので、今ではじいやも開ける時と開けない時があると言っていた。
文字通り、この本には影に関する魔術が詰まっている。影とは、王家の影のことではない。人間やものにできる自然な影と、心の影を扱う本だ。

「ロイスさんの影に忍び込め」

ディックはロイスの影から様子を見ることした。この影を仕込んでおけば、対象者をいつでも見ることができるし、会話も聞くことができる。まさしく、隠密行動にふさわしい魔術書なのである。
魔術書からモヤモヤと出て来た黒い影は、すぐにどこかに消えてしまった。ロイスの影に忍び込むのだろう。

ロイスの影は、2学年の船にできていた。船内のホールで昼食を食べるところであった。旅の醍醐味と言えば、何と言っても食べ物だ。船では、一流シェフが贅沢なブッフェを用意してくれている。
生徒達が我先にと料理に群がっている。先生達までもが、争う様に取りに行くあたり、本気で美味しいのだろう。魔法を使っているのか、とってある程度なくなると勝手に元どおりに補充されている。

「…俺たちは、ブッフェじゃないの?」
「うーん、去年は取りに行ったんだけどなぁ。まぁ好きなだけ取るって意味ではそうかな…」
「変な気を回されたのかな…」
「みんなロイスが取りに来たら遠慮しちゃうわよ」

ロイスとキルヒ、それにフェリは同じテーブルで食事をするようだ。しかし、今年は違う。大きなテーブルにこれでもかと様々な料理が並べられ、3人が少しずつ料理を取ると、また新しい料理が並べられる。なんというか、好きなものを好きなだけ取れるには違わないが、なんだか違う。他の学科の生徒と違って、給仕までついている。
それはそれで不公平な気がするので、ロイスは給仕にあっちに取りに行くからいいよ、と言ったがやんわりと、

「船長からの指示でございますので…」

と、取り合ってもらえなかった。3人はありがたく受けることにした。料理の内容は他の生徒も変わらないようだし、充分用意されてもいるようだ。
キルヒは元々いい所の出身なので、こう言った給仕されることになんの疑問も抱かないタイプだ。フェリはちょっといいのかな?と言う気持ちにはなったが、最近キングスティーでしっかり教え込まれているからか気後れすることもないようだった。
ん?、とロイスは、地面からなんだか妙な魔力を感じた気がして、足元をちらりと見た。給仕が誰か何かしたか?と思ったがもうそれは感じ取れない。こういった魔力を隠す技術には、1人アテがある。ディックが何か仕込んだな、とロイスは少し笑った。

「…ふふ、中々面白いことをするね」

ロイスはどうしようか迷った。無理やり剥がすか、ディックにお灸をすえるか、放置するか。だがロイスはこういうことは即断するタイプだ。放置しておこう。

「ロイス?どうかした?」
「ううん。なんでもないよ。あっ、俺鳥肉すきなんだ!フライドチキン!」
「君ほんと肉好きだよね。僕はこっちの魚が好き」
「私はデザートが楽しみ!」

3人が仲良く話していると、給仕が無言で3人が好きな料理をどんどん運んでくるのは言うまでもなかった。
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