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第三章
第4節 弓弦
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な
夜の食事の後は、生徒達は各々の部屋に帰るか、浴室に行ったり甲板にあるプールで遊んだりカップルはダンスフロアでダンスをしたりして楽しむ。だが、キルヒは風紀委員なので6学年の船に明日の打ち合わせに行ってしまった。なので、ロイスはフェリをダンスに誘ってみようかとも思った。とはいえ、フェリを誘おうにも2人きりにはなれそうもなかった。結局、ジュニアのところにでも行ってキルヒが帰ってくるまでジュニアを構ってやるか、とジュニアの元に行くことにした。
「ジュニア」
「おお、主人か。さっきノクとぷーるとやらに行って泳いできたのだ。今ちょうど羽根を乾かしているところだ」
「ロイス…久しぶり…」
「久しぶりノク。ジュニアと遊んでくれてありがとう」
「ぷーる気持ち良かった…水遊び楽しい…シャルンはうるさいけど…」
「なんと!ノク!我をそんな風に思っていたのか?!」
二頭は仔竜姿で羽根を乾かしていた。濡れて綺麗になったからだろうか。二頭とも鱗がつやつやとしている。
文句を聞いたジュニアがノクに飛びかかって二頭してコロコロもつれ合っている辺り、遊んでいるのだろう。二頭は本当によく一緒にいる。最近は竜の国でもジュニアの仕事をノクが手伝っているらしい。余り口数の多くないノクだが、ジュニアの尊大な態度によく文句を言っているのである。ジュニアを諌めるような態度が、ジュニアも気に入っているのだろう。今も首筋を甘噛みしあっていて可愛い。
「ジュニアもそうしてると小動物みたいで可愛い」
「なに!我はいつだって可愛いではないか?うむ、許す、存分に触るがよいぞ主人」
「…喋るから可愛くないんだな。ノクみたいに黙ってゴロゴロしてたら可愛いのに。ノクは可愛い。見ろ、こうやって見つめてきて可愛いじゃん」
ふむ、とジュニアは考えたようでノクと同じようにこてんと横になると、くりくりとした瞳でじっとロイスを見つめてきた。さすがにロイスもグッときた。中々可愛いじゃないか、ジュニアのくせに。
ロイスはジュニアに頬擦りをして、頭から尻尾を撫で撫でしてあげた。きゅるる、とジュニアが気持ち良さげに鳴いた。ノクも撫でてくれと小さな足でヨチヨチと歩いてくるのが可愛い。
「ノクターン、僕からロイスに鞍替えかい?」
くるぴゃーと嬉しげにノクが鳴いた。突然現れたキルヒの元にノクは、ととと、と駆け寄った。キルヒはノクを撫でながら腕に抱きかかえた。やはりキルヒが一番らしい。
「ああキルヒ、終わったの?」
「終わったのじゃないよ。消灯時間がとっくの昔にすぎてるよ?早く部屋に戻って寝なきゃ」
「ええっもう?わかったよ。戻ろう」
気がつけば周りには誰も人がいなかった。いるのは警備のひとくらいだ。正直、消灯時間は早いが仕方がない。その辺りは学生なのだから我儘は言えないだろう。
ロイスとキルヒはドラゴンと共に艦長室に戻った。
2人は艦長室に戻ると、大浴場に行く事にした。本当はダメなのだろうが、ロイスがキルヒに透過魔法をかけてくれたおかげでこっそり入る事に成功した。お風呂から上がると、2人はベッドに横になった。魔法石側にロイス、出入り口側にキルヒが寝る事にした。魔法石側には大きな窓があり、大海原ならぬ夜の大空が広がっていた。星がいつもより近く見える。
「去年はここに1人で寝たんだ。僕…本当に嬉しい。ロイスと友達になれて良かった」
「キルヒはいつもそう言うけど、俺だって一緒だよ。キルヒ達がいなかったら、こうやって学校にも行ってないだろうし、旅行にも行ってなかったよ。キルヒとフェリがいるから、俺は本当の俺でいられる気がするんだ」
「本当のロイス…?いつもは違うの…?」
「違くはないけど…任務と普段の俺は違うよ。キルヒと一緒にいるときは、本当の俺だよ。なんていうのかな、周りを警戒したり緊張したり、取り繕ったりしないでいいんだ。そんなこと、父さん以外とは考えたことなかったんだよ。だから、キルヒが思っている以上に、俺は君に助けられてる」
応えはなかった。キルヒはもう寝てしまったようだった。今日は一日ずっと転移させたり、風紀委員の仕事をして気を張っていたのだろう。
ふふっ、とロイスは笑った。なんて幸せなんだろう。友達がいて、学校に通って、みんなで旅行に行って遊ぶ。これを幸せと言わないで何というのだろう。明日が楽しみだ。初めての浮遊島。初めてのバカンスだ!ロイスの心は期待と楽しみでいっぱいだった。
もそもそと布団に潜り込んだロイスも、顔のあたりで丸まって寝ているジュニアを撫でながら眠りについた。
しかし、ロイスのその期待と眠りをぶち壊すものがあった。
もうみんなが寝静まった深夜のことであった。ロイスは、学園の船以外の近づく何かの気配を察知した。ゆっくりとだが着実に近づいている嫌な感じだ。目を開けると、ジュニアの瞳とぶつかった。ジュニアも気がついているようだ。ジュニアはとたた、と起き上がったロイスの肩に飛び乗った。ロイスはキルヒを起こさないようにそっとベッドから出ると、ローブを着てすぐに艦長室の上、つまり艦首の屋根に転移した。嫌な感じが近づいている。
それが何なのかを知る為に、ロイスは自分の瞳に禁呪をかける。解析の瞳である。
「…船、か…?」
解析の瞳で見えたのは船だ。この船よりかなり大きい。船といっても客船ではなさそうだ。黒い大きな旗がちらついている。周りには数十のドラゴン。魔法使いもいるようだ。雲に隠れて、かすかにしか見えない。
ハッとした。増えた。一隻だったはずが、何隻か周りを取り囲んでいる。まだ遠いが、このままでは囲まれる。
ロイスはすぐに未確認の敵を排除することにした。しかし、こうして超級魔法使いが船にいることも、学生が手を出したことも知られたくなかった。ならば選択肢は1つしかない。
肩に乗っていたジュニアが人間体に変わった。
「シャルン、天の弓弦を出してくれ」
「ふふん、そうくると思ったぞ。よかろう、しばし待て」
シャルンは何やら上を見上げてブツブツと呟く。しばらくすると、シャルンの手には金色の弓が握られていた。ロイスはすぐに受け取ると、シャルンから矢を受け取った。
「三本しかない。外すでないぞ!」
「誰に言ってるわけ?」
ググッ、とロイスは弓をつがえて弓弦をしならせる。まずは初めに見た黒い旗を持つ一隻からだ。解析の瞳で位置をしっかりと捉えると、ロイスは自らの手を離す。矢は一直線に船に飛んでいき、黒い旗をぶち抜いた。それを確認したロイスはまた弓をつがえて、他の二隻に放つ。それ以外の船は放置だ。
ゴロ、ゴロ、と突然雷鳴が轟いた。そして、カッと光ると、雷はどこかに落ちた。いや、遠くの船が燃えている。三隻ともだ。雷だけではない。雨も降り出した。嵐が来た様だ。
「…シャルン、竜たちを落とせるか?」
「落とせるが…魔力を使うからバレてしまうぞ」
「そっか…じゃあいい」
学園の船が、雲より下にいて良かった。雲の上だったら使えない方法であった。
天の弓弦は、天竜が天(宇宙)の力を借りて神から借りる弓である。シャルンの場合は太陽神の眷属なので、太陽神から借りる。太陽神の矢が当たったところには、嵐を起こしたり遣い手の想いによっては恋に落ちたり、傷が治ったりする。シャルンは今回嵐を起こす様に太陽神に願って弓を出したのだろう。問題は、矢の本数だ。これがなかなか気まぐれで、一本の時もあれば大量にでてくる時もある。おそらく太陽神の気分なのだろう。
天の弓弦の素晴らしいところは、矢が残らない所なのだ。矢はたとえ当たっても、すぐに神のもとに還るので、痕跡が残らない。そう、自然に嵐が起きる様に見えるのである。
ロイスはシャルンに、周りにいるドラゴンを落とせないかと聞いた。更に混乱するかと思ったが、バレてしまっては弓を使った意味がなくなってしまう。
<ロイス>
<…ジュリアス。気付くのが遅い>
ごめんごめん、とジュリアスからテレパスが届く。いつの間にか、ジュリアス、リリィ、そして1学年のディックがロイスを見ている。ジュリアスとリリィはともかく、ディックが気づいたのは驚きだ。いや、じいやの後継者なら当然か、とロイスは思う事にした。
<船を逃がすぞ。六隻一気に転移させる!ジュリアス、相手に強風を送り込め!もっと強い嵐に見せて、更に混乱させるんだ>
<お安い御用だよ~>
<リリィさん、浮遊島の見えるあたりまで転移させてください。俺は浮遊島に行ったことがないから転移させられない>
<お任せください>
ロイスは素早くジュリアスとリリィに指示を出した。ジュリアスはすぐに風魔法で竜巻を起こして敵の船に向かっていくつも送りはじめた。リリィも、すぐに六隻の下に転移陣を敷いて一瞬にして、浮遊島が遠くに見える位置まで転移させた。
雲の上に転移した様で、周りには夜空が広がっている。これなら、たとえまた攻めて来たとしても見晴らしがいいのですぐに気がつくだろう。
はぁ、とロイスはため息をついた。結局自ら戦闘してしまっている。ついでに言えば、他の気がついていた3人の視線が痛い。何か知っているんだろ、という顔だ。
<………じゃあ、俺、もう寝るから>
<明日うちの船にみんな集合で、いいよね?>
<明日は浮遊島で友達と観光…>
<説明してくれないなら風紀委員長権限で明日一日船に閉じ込めてもいいんだけどなぁ~>
<………わかったよ。もう寝る。話しかけてくるな>
はぐらかすのは失敗したようだった。こういう時、キルヒやフェリならさらっと帰してくれるのに、とまたため息が出てしまった。
ロイスは痛い視線の中、艦長室のベッドの所に転移した。ローブを脱ぐと、ジュニアが肩からベッドにダイブした。ジュニアも眠たいらしい。ふわぁ、とロイスもあくびをすると布団に潜り込む。さぁ、今度こそ寝るぞ!と目を閉じた時。
「何かあったの?」
「ウワッ!びっくりした…起きてたの?」
「すぐには気がつかなかったけど…起きちゃったんだ。ノクが天井見てるから、ジュニアが上にいるのかなって」
「あはは、ははは。そうだったんだ。ま、もう寝ようよ。明日も早いしね」
うん、とキルヒは何かあったことはわかっただろうに、深く突っ込まずにいてくれた。ノクもジュニアと、ロイスのベッドで寝ている。
ロイスは何だか感慨深かった。出会った頃のキルヒなら気がつかなかっただろう。周りを気にする、警戒する、勘付くといったことがなかったからだ。Dr.ドクターの親衛隊になってから戦闘訓練や任務についているからだろう。特級魔法使いらしくなった。もっと魔力の動きや察知する感覚を掴めれば、ジュリアスやリリィのように気がつくようになるだろう。
「強くなったね、キルヒ」
とても小さな、ささやく様な声だった。ロイスは心の中で思ったが、思わず口から出てしまっていたようだ。
気がつけば、ロイスもウトウトしてきたようだ。いつものようにジュニアを触りながら、眠りに落ちた。
夜の食事の後は、生徒達は各々の部屋に帰るか、浴室に行ったり甲板にあるプールで遊んだりカップルはダンスフロアでダンスをしたりして楽しむ。だが、キルヒは風紀委員なので6学年の船に明日の打ち合わせに行ってしまった。なので、ロイスはフェリをダンスに誘ってみようかとも思った。とはいえ、フェリを誘おうにも2人きりにはなれそうもなかった。結局、ジュニアのところにでも行ってキルヒが帰ってくるまでジュニアを構ってやるか、とジュニアの元に行くことにした。
「ジュニア」
「おお、主人か。さっきノクとぷーるとやらに行って泳いできたのだ。今ちょうど羽根を乾かしているところだ」
「ロイス…久しぶり…」
「久しぶりノク。ジュニアと遊んでくれてありがとう」
「ぷーる気持ち良かった…水遊び楽しい…シャルンはうるさいけど…」
「なんと!ノク!我をそんな風に思っていたのか?!」
二頭は仔竜姿で羽根を乾かしていた。濡れて綺麗になったからだろうか。二頭とも鱗がつやつやとしている。
文句を聞いたジュニアがノクに飛びかかって二頭してコロコロもつれ合っている辺り、遊んでいるのだろう。二頭は本当によく一緒にいる。最近は竜の国でもジュニアの仕事をノクが手伝っているらしい。余り口数の多くないノクだが、ジュニアの尊大な態度によく文句を言っているのである。ジュニアを諌めるような態度が、ジュニアも気に入っているのだろう。今も首筋を甘噛みしあっていて可愛い。
「ジュニアもそうしてると小動物みたいで可愛い」
「なに!我はいつだって可愛いではないか?うむ、許す、存分に触るがよいぞ主人」
「…喋るから可愛くないんだな。ノクみたいに黙ってゴロゴロしてたら可愛いのに。ノクは可愛い。見ろ、こうやって見つめてきて可愛いじゃん」
ふむ、とジュニアは考えたようでノクと同じようにこてんと横になると、くりくりとした瞳でじっとロイスを見つめてきた。さすがにロイスもグッときた。中々可愛いじゃないか、ジュニアのくせに。
ロイスはジュニアに頬擦りをして、頭から尻尾を撫で撫でしてあげた。きゅるる、とジュニアが気持ち良さげに鳴いた。ノクも撫でてくれと小さな足でヨチヨチと歩いてくるのが可愛い。
「ノクターン、僕からロイスに鞍替えかい?」
くるぴゃーと嬉しげにノクが鳴いた。突然現れたキルヒの元にノクは、ととと、と駆け寄った。キルヒはノクを撫でながら腕に抱きかかえた。やはりキルヒが一番らしい。
「ああキルヒ、終わったの?」
「終わったのじゃないよ。消灯時間がとっくの昔にすぎてるよ?早く部屋に戻って寝なきゃ」
「ええっもう?わかったよ。戻ろう」
気がつけば周りには誰も人がいなかった。いるのは警備のひとくらいだ。正直、消灯時間は早いが仕方がない。その辺りは学生なのだから我儘は言えないだろう。
ロイスとキルヒはドラゴンと共に艦長室に戻った。
2人は艦長室に戻ると、大浴場に行く事にした。本当はダメなのだろうが、ロイスがキルヒに透過魔法をかけてくれたおかげでこっそり入る事に成功した。お風呂から上がると、2人はベッドに横になった。魔法石側にロイス、出入り口側にキルヒが寝る事にした。魔法石側には大きな窓があり、大海原ならぬ夜の大空が広がっていた。星がいつもより近く見える。
「去年はここに1人で寝たんだ。僕…本当に嬉しい。ロイスと友達になれて良かった」
「キルヒはいつもそう言うけど、俺だって一緒だよ。キルヒ達がいなかったら、こうやって学校にも行ってないだろうし、旅行にも行ってなかったよ。キルヒとフェリがいるから、俺は本当の俺でいられる気がするんだ」
「本当のロイス…?いつもは違うの…?」
「違くはないけど…任務と普段の俺は違うよ。キルヒと一緒にいるときは、本当の俺だよ。なんていうのかな、周りを警戒したり緊張したり、取り繕ったりしないでいいんだ。そんなこと、父さん以外とは考えたことなかったんだよ。だから、キルヒが思っている以上に、俺は君に助けられてる」
応えはなかった。キルヒはもう寝てしまったようだった。今日は一日ずっと転移させたり、風紀委員の仕事をして気を張っていたのだろう。
ふふっ、とロイスは笑った。なんて幸せなんだろう。友達がいて、学校に通って、みんなで旅行に行って遊ぶ。これを幸せと言わないで何というのだろう。明日が楽しみだ。初めての浮遊島。初めてのバカンスだ!ロイスの心は期待と楽しみでいっぱいだった。
もそもそと布団に潜り込んだロイスも、顔のあたりで丸まって寝ているジュニアを撫でながら眠りについた。
しかし、ロイスのその期待と眠りをぶち壊すものがあった。
もうみんなが寝静まった深夜のことであった。ロイスは、学園の船以外の近づく何かの気配を察知した。ゆっくりとだが着実に近づいている嫌な感じだ。目を開けると、ジュニアの瞳とぶつかった。ジュニアも気がついているようだ。ジュニアはとたた、と起き上がったロイスの肩に飛び乗った。ロイスはキルヒを起こさないようにそっとベッドから出ると、ローブを着てすぐに艦長室の上、つまり艦首の屋根に転移した。嫌な感じが近づいている。
それが何なのかを知る為に、ロイスは自分の瞳に禁呪をかける。解析の瞳である。
「…船、か…?」
解析の瞳で見えたのは船だ。この船よりかなり大きい。船といっても客船ではなさそうだ。黒い大きな旗がちらついている。周りには数十のドラゴン。魔法使いもいるようだ。雲に隠れて、かすかにしか見えない。
ハッとした。増えた。一隻だったはずが、何隻か周りを取り囲んでいる。まだ遠いが、このままでは囲まれる。
ロイスはすぐに未確認の敵を排除することにした。しかし、こうして超級魔法使いが船にいることも、学生が手を出したことも知られたくなかった。ならば選択肢は1つしかない。
肩に乗っていたジュニアが人間体に変わった。
「シャルン、天の弓弦を出してくれ」
「ふふん、そうくると思ったぞ。よかろう、しばし待て」
シャルンは何やら上を見上げてブツブツと呟く。しばらくすると、シャルンの手には金色の弓が握られていた。ロイスはすぐに受け取ると、シャルンから矢を受け取った。
「三本しかない。外すでないぞ!」
「誰に言ってるわけ?」
ググッ、とロイスは弓をつがえて弓弦をしならせる。まずは初めに見た黒い旗を持つ一隻からだ。解析の瞳で位置をしっかりと捉えると、ロイスは自らの手を離す。矢は一直線に船に飛んでいき、黒い旗をぶち抜いた。それを確認したロイスはまた弓をつがえて、他の二隻に放つ。それ以外の船は放置だ。
ゴロ、ゴロ、と突然雷鳴が轟いた。そして、カッと光ると、雷はどこかに落ちた。いや、遠くの船が燃えている。三隻ともだ。雷だけではない。雨も降り出した。嵐が来た様だ。
「…シャルン、竜たちを落とせるか?」
「落とせるが…魔力を使うからバレてしまうぞ」
「そっか…じゃあいい」
学園の船が、雲より下にいて良かった。雲の上だったら使えない方法であった。
天の弓弦は、天竜が天(宇宙)の力を借りて神から借りる弓である。シャルンの場合は太陽神の眷属なので、太陽神から借りる。太陽神の矢が当たったところには、嵐を起こしたり遣い手の想いによっては恋に落ちたり、傷が治ったりする。シャルンは今回嵐を起こす様に太陽神に願って弓を出したのだろう。問題は、矢の本数だ。これがなかなか気まぐれで、一本の時もあれば大量にでてくる時もある。おそらく太陽神の気分なのだろう。
天の弓弦の素晴らしいところは、矢が残らない所なのだ。矢はたとえ当たっても、すぐに神のもとに還るので、痕跡が残らない。そう、自然に嵐が起きる様に見えるのである。
ロイスはシャルンに、周りにいるドラゴンを落とせないかと聞いた。更に混乱するかと思ったが、バレてしまっては弓を使った意味がなくなってしまう。
<ロイス>
<…ジュリアス。気付くのが遅い>
ごめんごめん、とジュリアスからテレパスが届く。いつの間にか、ジュリアス、リリィ、そして1学年のディックがロイスを見ている。ジュリアスとリリィはともかく、ディックが気づいたのは驚きだ。いや、じいやの後継者なら当然か、とロイスは思う事にした。
<船を逃がすぞ。六隻一気に転移させる!ジュリアス、相手に強風を送り込め!もっと強い嵐に見せて、更に混乱させるんだ>
<お安い御用だよ~>
<リリィさん、浮遊島の見えるあたりまで転移させてください。俺は浮遊島に行ったことがないから転移させられない>
<お任せください>
ロイスは素早くジュリアスとリリィに指示を出した。ジュリアスはすぐに風魔法で竜巻を起こして敵の船に向かっていくつも送りはじめた。リリィも、すぐに六隻の下に転移陣を敷いて一瞬にして、浮遊島が遠くに見える位置まで転移させた。
雲の上に転移した様で、周りには夜空が広がっている。これなら、たとえまた攻めて来たとしても見晴らしがいいのですぐに気がつくだろう。
はぁ、とロイスはため息をついた。結局自ら戦闘してしまっている。ついでに言えば、他の気がついていた3人の視線が痛い。何か知っているんだろ、という顔だ。
<………じゃあ、俺、もう寝るから>
<明日うちの船にみんな集合で、いいよね?>
<明日は浮遊島で友達と観光…>
<説明してくれないなら風紀委員長権限で明日一日船に閉じ込めてもいいんだけどなぁ~>
<………わかったよ。もう寝る。話しかけてくるな>
はぐらかすのは失敗したようだった。こういう時、キルヒやフェリならさらっと帰してくれるのに、とまたため息が出てしまった。
ロイスは痛い視線の中、艦長室のベッドの所に転移した。ローブを脱ぐと、ジュニアが肩からベッドにダイブした。ジュニアも眠たいらしい。ふわぁ、とロイスもあくびをすると布団に潜り込む。さぁ、今度こそ寝るぞ!と目を閉じた時。
「何かあったの?」
「ウワッ!びっくりした…起きてたの?」
「すぐには気がつかなかったけど…起きちゃったんだ。ノクが天井見てるから、ジュニアが上にいるのかなって」
「あはは、ははは。そうだったんだ。ま、もう寝ようよ。明日も早いしね」
うん、とキルヒは何かあったことはわかっただろうに、深く突っ込まずにいてくれた。ノクもジュニアと、ロイスのベッドで寝ている。
ロイスは何だか感慨深かった。出会った頃のキルヒなら気がつかなかっただろう。周りを気にする、警戒する、勘付くといったことがなかったからだ。Dr.ドクターの親衛隊になってから戦闘訓練や任務についているからだろう。特級魔法使いらしくなった。もっと魔力の動きや察知する感覚を掴めれば、ジュリアスやリリィのように気がつくようになるだろう。
「強くなったね、キルヒ」
とても小さな、ささやく様な声だった。ロイスは心の中で思ったが、思わず口から出てしまっていたようだ。
気がつけば、ロイスもウトウトしてきたようだ。いつものようにジュニアを触りながら、眠りに落ちた。
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