天才魔法使いの未来まで巻き込んだ隠し子騒動

藤田 晶

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第三章

第6節 バカンス

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学園生を乗せた船は、昼には浮遊島に到着した。ざっとホテルの場所の説明や、集合時間の説明を聞いた後は、自由時間だ。学園生達は各々観光やリラクゼーションなど好きなことをして過ごす。やっと、ロイスの言うバカンスがやってきたのである。

「おおっ、南国!大自然!海!」

ロイスははじめての浮遊島に興奮しているようだった。港から見える一面の南国風の街に否が応でも期待を隠せない。隣にいるキルヒは、去年も来たからかそれほど感激していないようだった。
浮遊島には、中心部に山がありその麓に美しい湖があるのが特徴だ。その湖の周りはまさに白浜。海水ではないが、海気分を十分に味わうことができる。気温もウィテカー王国よりかなり高く、南国と同じ気分を味わうことができる。
キルヒが汗をかきながら、ロイスに言った。

「いやあ、いつ来ても暑いねぇ…ローブ脱いだら怒られるかな?着てられないよこんなの」
「みんな脱いでるよ。いいんじゃない?暑いもん、脱ごう」
「まぁここにいる間は正直上半身裸の方がいいんだけど…」

ローブを脱ぐと、キルヒはこの暑さを予想していたのだろう。半袖シャツを着ており、ズボンを少しまくっていた。ロイスは長袖シャツに、ズボンだった。周りを見渡すと大体の男性が上半身裸だったので、ロイスも脱いでしまった。服を脱いだロイスの身体は恐ろしく鍛えられており、キルヒはなんだか悲しくなった。同じ男として負けた気分だ。そんなことはつゆ知らず、ロイスはズボンの裾を何回か折って捲っていた。
2人はとりあえず今後の予定を立てるつもりだった。観光するにしろ、泳ぎに行くにしろ、あと5日もこの島にいるのである。なるべく行けるところに行っておきたい。そんな訳で、2人は港の近くにあったカフェでお茶を飲むことにした。
ロイスは搾りたてのよくわからない赤黒い果実ジュース、キルヒはアイスティーで乾杯だ。

「あー!冷たくて美味しい!」
「なんの果実なんだろうねソレ…気にならないの?」
「全然。美味しいよ?」

キルヒは突っ込むのをやめた。
一方ロイスは、ゴソゴソとバッグを探ると「浮遊島で楽しいバカンス☆パラダイス」なるガイドブックを取り出した。かなり読み込まれている。
大分楽しみにしてたんだな、とキルヒは普段クールなロイスの意外な一面をみたきがする。

「俺、この浮遊島歴史博物館と古代人遺跡群は絶対行きたい。動植物園も行きたい。あと、魔魚釣りね。これはジュニアがどうしてもやりたいらしいよ!ねぇ、去年はどこに行ったの?」
「去年?…その、友達いなかったし、別荘で寝て過ごしてたよ。観光名所も小さい頃から大体行ってるからなぁ」
「別荘?!何というか本当にキルヒってお坊ちゃんなんだな…じゃあ、俺の行きたいところばっかり連れて行っちゃうけど、いいのかな?行きたいところある?」
「うーん、あっ!パンケーキの店ができたみたいなんだ。それは行きたいな。あと、一応別荘にも顔を出さなきゃいけないんだ」

キルヒの生家ウィランズ家は代々特級魔法使いもしくは超級魔法使いを輩出してきた。その資金力と名前は経済に非常に影響しており、ウィランズの名前を出せば大体の物と事はなんでも解決するくらいだ。しかし、ここ最近ウィランズ家は特級魔法使いでも、メタスターの才能を持つ特級魔法使いが中々生まれなかった。
そんな中生まれたのがキルヒである。生まれた時から次男ながらも徹底的に魔法教育を施し、特級魔法使いにしたらしい。
ウィランズ家のさらなる幸運は、ロイスと友人になったことだろう。おまけに、親衛隊員になったのだ。ウィランズ家としてはこれ以上ない逸材だ。
ただウィランズ家が誤算だったのは、キルヒは貴族らしい欲が一切ないタイプだったのだ。キルヒは僕は婿に入ってのんびり隠居してたいと今から言っている。キルヒが婿に行くことなどウィランズ家が許すはずはないのだが。とにかく穏やかで優しく、基本的に無欲な子に成長してしまったのである。
そんなウィランズ家にはもちろん、浮遊島に別荘があった。キルヒは幼少の頃からメタスターが自分しか使えないのをいいことによく逃げてきたのであった。

「じゃあ今日は歴史博物館と遺跡群にしよう」
「いいよ。これ飲み終わったら僕が転移して連れてくよ」
「お願いしまーす!」

こういう時、メタスターの友人を持つと便利だ。
ずずずー、とグラスの中の液体を飲み干した2人は、会計を済ませると一瞬で消えてしまった。会計をした店員がメタスターだ!すげー!と感動しているのを、2人は知らない。
まずキルヒが連れて行ったのは、遺跡群だ。島の古代人が住んでいた家や、当時の長の城のような建物が立ち並んでいる。一年生と思われる学生もたくさんいた。

「へぇ、古代人はこんな感じだったんだ」
「お城あるよ。小さいけどね」
「行こう!」

2人は遺跡群を堪能すると、歩いてすぐの歴史博物館に向かうことにした。キルヒ曰く、遺跡群を見てから歴史博物館に行った方が島の歴史がわかりやすいそうだ。
博物館には、島の古代人の歴史はもちろん、古代の生命体やこの島の形成や文化などを一気に知ることができる。
ロイスが気になっているのは、船で見た巨大な魔法石のことだ。もしかしたら、この島から発見されているかもしれない、とちょっとした期待があった。
ところが、展示されているのは現存していない文字であった。当然である。

「うーん、やっぱり読めないか…?」

キルヒが離れた展示物を見ているのと、このエリアに他の人がいないので、ロイスはジッと石版を見つめて禁呪の古代字の様に読み解けないか見てみることにした。

「南の空に浮かぶ煌めき…?」

ロイスはこの感覚に覚えがあった。父母から禁呪を教わった時、その文字は知らないはずなのに何故か読める。意味がわかる。そんな感覚である。
そのまま続けて頭の中で文章を読む。

南の空に浮かぶ煌めき
黎明の光に照らされその路は輝く
王はあの煌めきに囚われた
煌めきはこの地に富と災いをもたらす
その煌めきを見たものは皆囚われた
煌めきに近づいてはならぬ
近づいてはならぬ
曇りなき眼を持つ者だけが
その煌めきを手に入れる
煌めきに近づいてはならぬ
近づいてはならぬ

ガンッ!とロイスの頭に拳骨が降ってきた。隣には人間体のジュニアが焦った様に立っていた。
そこでロイスはようやく石版から意識が戻る。

「馬鹿者!!場を弁えよ!術が発動仕掛けているではないか!!」
「えっ?」

ジュニアに言われてはじめて、ロイスは自分の体から古代字が出ていることに気がついた。

「気づいておらんのか!!我が慌てて主人を見えぬ様にしたが軽率に禁呪を遣うな!馬鹿者め!!島を破壊する気か?」
「どうして…いや…この石版を読んでいたんだ。禁呪を遣うという気はなくて…古代字を読んだだけなんだけどな…」
「だから馬鹿者だと言っとるんだ!この説明を読め。文字はドラゴンの抜けた歯で書いたものと推測される、と書いてあるだろう!そんなもの魔力が宿るに決まっておるだろうが!この石版は禁呪の一種だろう」

そうなんだ、と禁呪の展開を解きながらロイスは言った。そもそも、ロイスはこの石版が読めるとは思っていなかった。はじめの行だけ読めたので、続きを読んでいたが軽率だった。
まさか禁呪が発動する様なものだとは思っていなかったのだ。

「俺、なんでコレ読めてるんだ…?古代字とは全然違う文字なのに」
「さぁて。我にもわからぬが…1つ言えるのはこの時代にドラゴンが居て人間がドラゴンと交流しているのは確かだろう」
「…」

なるほど、とロイスは言わなかったが思った。
石版にある”煌めきに近づいてはならぬ”ということは、近づいた者がいたのだ。空に輝く煌めきに行くためには飛行手段が必要だ。ドラゴンに乗って行けば、行くことが可能なのだろう。
この煌めきは一体何を意味しているのか、本当にあるのか。なぜ囚われてしまうのか。もしかしたら、あの巨大な魔法石があるのかもしれない。そして、曇りなき眼を持つ者は何を手に入れるのだろう。
ドラゴンが居なければ行けないのだろうか?確かに当時は魔法がないためドラゴンに協力してもらうしかなかったのだろうが、今は違う。転移で行けるのではないか?
また思案の海に入ってしまったロイスに呆れたように、ジュニアはため息をついた。こうなるともうしばらく戻って来ない。
ロイスが古代字を読めるように、ジュニアもこの文字が読めた。何を隠そう、これは竜古語だ。古代竜が編み出した文字だが今ではテレパシーや人間の言語があるため竜達が使うことがなくなった。ロイスがこの文字を読めるのはジュニアと魔術回路が繋がっていることが要因なのだろう。

「あっいたいたロイス!もー!どこに行ってたの?凄い探しちゃったよ~!」
「………あ、うん…ごめん。ボーッとしてた」
「暑くてボケちゃったの?もうすぐ博物館閉まるから、夕ご飯食べに行こ?どこがいいかな…」

石版の前でぼんやりしていたロイスに若干息を切らしたキルヒが声をかけた。探していたのだろう。
ロイスが思案の中から現実に戻ってきたのは、少し遅れてからだった。
ロイスとしてはもう少し見ていたかったが、キルヒが話しかけたあとキルヒはロイスと共にすぐに転移して、入り口まで戻されてしまった。
そのままどこに行こうかと考えているキルヒに、ロイスがガイドブックを渡して好きに決めてくれと言った。

<…煌めきがなんなのか見たい。明日の朝、一緒に空に乗せて行ってくれないか?>
<ふむ…それは構わんが、主人が囚われてしまうのは困るな。それに近付かないならよかろう。空まで散歩に行ってやろう>
<ありがとう、それでいいよ>

ロイスはキルヒに適当に相槌を打ちながら、肩に乗っているジュニアに、テレパシーで話をした。ロイスはどうしても煌めきがなんであるのかが知りたかった。
ジュニアは良いと言ったが、やはり警戒しているらしい。煌めきに近づくことは許してもらえなかった。
本当に煌めきは有るのだろうか?ロイスは今からそればかり考えている。

「あ、ここ!この店美味しいはずだからここにしよう!ね、ロイス?いいよね?」
「うん、いいよ。なんの店?」
「魚料理の店!」
「…魚かぁ…まぁいいか…」

正直魚より肉が食べたかったが、ロイスはこの際気にしないことにした。
2人は仲良く夕飯を食べると、ホテルに戻り就寝した。
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