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第三章
第7章 煌めき
しおりを挟むまだ朝日も出ない中、ロイスはそっと目を覚ました。ジュニアの瞳とぶつかる。ジュニアも起きているようだ。
隣のベッドで寝ているキルヒを起こさないように、ゆっくりとベッドを抜け出す。キルヒのそばで寝ていたノクターンの瞳と目があった。パチパチと瞬きをしながらもロイス達を見つめていた。
「しー…」
と人差し指をたてて見せたロイスにノクは、こてん、と首をかしげた。少し、太陽が顔を出したらしい。僅かに空が明るくなってきている。
ロイスは窓を開けてバルコニーに出ると、ジュニアを空に放り投げた。ジュニアは竜体に戻るとフワフワと空に浮いている。
「ロイスさん」
「!…相変わらず神出鬼没だな」
「私も一緒に連れて行ってください」
ディックがいつの間にかロイスの背後に立っていた。おそらく、前に感じた何かによってディックにはロイスの動きがわかるのだろう。
ととと、とキルヒのベッドからノクが降りてきて、ロイスとディックを見つめている。
「ドラゴン、居る?」
「いいえ。私はドラゴニスタではないので…」
「うーん。ジュニアは気に入った人間しか乗せてくれないんだ。悪いね。大丈夫、ちょっと散歩に行くだけだから」
ジュニアはお前なんか乗せるか!と言わんばかりにディックを睨んでいた。ディックに悪いね、と言ったロイスはバルコニーの手摺りからぴょんと飛び降りると、ジュニアがそれを拾うようにサッと飛んで背中に乗せた。朝焼けにキラキラとジュニアの鱗が眩しく見えた。
自由な超級魔法使いにため息をついたディックは、風魔法で追いかけることにした。ドラゴンがいないなら、魔法で飛べばいい。問題は、ドラゴンの方が圧倒的に速度が速いことだ。だが、頑張って追いかけるしかない。
「…シャルン、追いかける…?」
「!か、会話…出来ている?ドラゴンと?」
「?…だって…今は僕…人間の言葉…喋ってるんだよ……会話できないわけない………空、行きたい?僕に、乗る?」
ギョッとしてディックは手摺りに乗ってこちらをみてくる青いドラゴンを見た。キルヒの竜、ノクターンだ。ドラゴン召喚に成功したことのないディックには、竜の気持ちはわかりそうになかったが。この竜は人間の言語でディックに話しかけているので、ディックにも意思疎通ができそうだった。
しかし、竜はジュニアのように、主人以外の人間を乗せることは嫌がると聞いていたディックは、戸惑った。
「…大丈夫、キルヒは気にしないよ……行こう?僕も…散歩に行きたいんだぁ…朝の空って大好き」
「で、ではロイスさんのところに…」
「うん…飛ぶよ…」
恐る恐るノクターンの背に跨ったディックを気にすることもなく、グンッ、と風に乗ってノクターンは飛び出した。グングン速度を上げ、島の上空に止まっているジュニアの元に飛んで行く。
ディックは夢見心地だった。ドラゴンに触れたことはあっても、背に乗って空を飛ぶことはなかったからだ。気絶しそうなほどの速度だった。
シャルンは元々飛ぶのが凄い速いけど、ロイスが乗ってるからゆっくり目に飛んでる…追いつくの簡単、とノクターンは教えてくれた。
「き、君の名前は?」
「僕はノクターン…ノクって呼んで? …ご主人様はキルヒシュタイン・ウィランズ…って人…あ、シャルンが気がついた!…おーい、シャルン~!」
「ウワッ!」
びゅうん、と更に加速したノクは、シャルンことジュニアに追いついた。
ディックは慣れないせいで強いGで一瞬気を失っていた。慌てて首に捕まった。
そんな様子を、ロイスは楽しげに見ている。
「あははは、ディック、ノクが優しいドラゴンでよかったね!ま、ノクの主人も全然気にする奴じゃないから、空中散歩を楽しむといいかも」
「…何というか、速すぎて意識が…すみません、ありがとうございます、ノクターンさん」
「朝の空は気持ちいいよねぇ………ああ~……」
「ハハッ!主人、ノクは優しいのではない。ただ我と朝の空を飛びたいだけだ。お前はついでだな。まぁ、どちらでもよいか!」
ディック以外のロイスと二頭は楽しげに笑っている。
ノクは主人以外を乗せるのに抵抗はないタイプだ。もちろん、なんか気に入らないとか、顔が好きじゃないとか、キルヒが嫌がった時は乗せたりしない。なので、割といつでも言えば乗せてくれるそうだ。ディックとしては、ありがたい気持ちになる。
ようやく、朝陽が登りきり夜は終わりを告げたようだ。ロイスとジュニアは南に向かって飛んでいるようだった。南には、分厚い雲がかかっている。
「! 主人、見よ!」
「!!」
朝陽が雲を照らす。すると、朝陽が雲の中を透かして、何かが見えた。煌めき、と言うのにふさわしく光っているようだ。それは、小さな島のようにも、船のようにも見える。
ディックにもそれははっきりと目視出来た。
ロイスはその場から動かず、解析の瞳でもっと拡大して見てみることにした。雲がかかっていたが、朝陽でなんとか確認できそうである。
「…島だ」
「ふむ。煌めきが島だとは思わなんだ」
「島だけじゃないね。近くに船が沢山見える。黒い旗も…そうか、空賊はあそこにアジトを構えているということか」
「本当ですか?! だとしたら…姫も…」
「いるかもね。でもそれを調べるのは君の仕事だろ?」
煌めきとは、雲に隠れた島だった。確かに、朝陽に照らされない限り全くわからないだろう。この辺りは雲が切れないようだ。だからこそ、隠された場所なのだろう。
ここで、ロイスは昨日の石版の言葉の意味を考えてみる。煌めき、とは雲に隠れた島のこと。では囚われたとはなんだろう。あの島に行ったら最後戻ってこれないことを意味しているとしたら、その島には何があるのだろう?曇りなき眼があれば、帰ってくることができるのだろうか?ロイスはぼんやりとそんなことを考えていた。
ディックも、ロイスと同じようにあの小さな島が空賊のアジトだと考えている。実を言うと、姫の近くにいると思われる影と未だに連絡が取れていない。影同士のテレパシーもなぜか返事が無かったのだ。何か、あの島に連絡手段を阻むものがあると考えるのが妥当だろう。
「…ロイス、キルヒが起きそう…そんな気がする…」
「ああ、そっか。そんな時間か、戻ろう。」
「…もっと飛びたかった………」
そんなことをぶつぶつ言っていたノク達一行は、すでに元のホテルの部屋に戻っていた。帰りは転移してきたようだ。キルヒはまだ寝ているようだが、うーん、と唸っているところを見ると、じきに起きるだろう。
ノクは小さくなると、たったった、と走りキルヒのベッドに飛び乗った。ジュニアとは違い、ノクはキルヒの顔を覗き込みながら起きるのを待っている。ノクの穏やかな気性が見て取れた。
「では…」
「はいはい。またね」
「主人!我は二度寝するぞ!」
「はいはい。どうぞ」
ロイスは、そっと消えたディックに適当に相槌を打った。
色々と気になることはあるが、それはそれとして切り替えることにしたロイスは、あくびをしながら部屋にある椅子に腰掛けてガイドブックを読むことにした。
ゆっくりと目を覚ましたキルヒの頬を、ノクがペロリと舐めた。
「あはは、くすぐったいよノク~、わかったわかった、起きるよ」
「おはよ、キルヒ」
「おはようロイス。今日はどこに行く?」
「釣りだ!!魔魚釣りだぞ!!キルヒ!我は魔魚をたらふく食べたい!」
寝ていたはずのジュニアがガバッと起き上がってキルヒに魔魚釣りを訴えた。なんのことはない、ジュニアがお腹を空かせているだけだ。ノクが珍しくくるくるとおかしげに笑っている。
結局この日は浮遊島の山の中腹の小さな泉に行って魔魚釣りを楽しんだ。ほとんどドラゴン達が狩りをしているようなものだったが、街中より涼しいため、キルヒとロイスはのんびりと昼寝をして過ごした。
それ以降の日も、2人は非常に楽しく過ごした。湖でビーチボールをしたり、動植物園にも行った。2人とも自分のグリモワールが欲しいので、島の本屋を巡ったり街の出店で食べ歩きもした。ロイスは、ほとんど攻撃的な魔法を使うこともなく、それが一般人のようでとても楽しかった。
最終日前日の夜、キルヒが急に話があると言い出した。
「ロイス、悪いんだけど明日は1人で島を回って欲しいんだ。別荘の管理人がどうしても来て欲しいってうるさいんだよ」
「ん、いいよ。フェリを誘ってみるから。ダメならジュニアを人間体にして連れ回すよ」
「本当にごめん。僕からもフェリに頼んでみるよ。島で過ごす最終日だから、お土産買いに行くでしょ?」
「うん」
そういえば、フェリと一緒に観光に行く約束をしていたのだった、とロイスは今更思い出した。
基本的に、フェリには女友達が多いのでこういう場合あまり声をかけないのだが、キルヒとロイスにとってもフェリは大事な友達だ。行きたくない訳はない。
早速キルヒはフェリを誘ってくれた。フェリもロイスと遊びに行く約束をしたので快く一緒に回ろうと言ってくれたそうだ。
実際のところ、フェリはキルヒと3人だと思っていたのでロイスと2人きりになるとは思っていなかったのだが、約束は約束だ。しかし、2人きりだとデートのようでドキドキするのは秘密だ。キルヒはフェリが真っ赤になっているのを暑いのかなぁ、と勘違いしていた。
そんな夜のキルヒが眠った後のこと。ジュニアがロイスに話しかける。
「主人、でえととやらに行くのなら我はノクと行動しておくか?」
「は?デート?」
「む?男と女が2人で出かけるのだからでえとに違いあるまい?」
「…えっ……うわ…そっか…そうだよね、デート…だよね」
何を隠そうロイスはデートだという認識をしていなかった。ただ友達と遊びに行く、ぐらいしか思っていなかったのだ。しかし、改めて言われると、そうだ!デートじゃないか!と思ったロイスである。
急に緊張してきたロイスは、ジュニアに一緒に居てくれ!と懇願する羽目になった。結局、この夜は眠れず、悶々と明日のことを考えてしまうのは仕方のないことだろう。ジュニアの方がイライラしてきたので睡眠魔法で眠らせてしまった。
「気にせずともフェリは主人を好いておるのが見てわかるというのに…」
そう呟いたジュニアに、くるる、とノクが笑ったのが聞こえた。珍しく緊張しているロイスを面白がっているのかもしれない。
こうして、最終日前日の夜は更けて行くのであった。
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