31 / 31
第三章
第10節 雲隠れの島
しおりを挟む「バカンスが短すぎる」
ロイスは、例の雲に隠れた煌めく島に来ていた。 ブツブツとロイスが文句を言った。
ガーゴイルが空賊の残党を倒しつくし、安全を確認し、島の調査のためにロイスとディックが派遣されていた。
「おいおい、俺なんか1日も休みがねーんだぞ」
「ディックのせい」
「…はあ…すみません…」
その島は、”雲隠れの島”と名付けられることになった。島は小さく、草原に建てられたアジトは掘っ建て小屋のような簡素なものだったが、草原全てをアジトにしていたようでかなり広かった。雨露はしのげそう、程度ではあるがかなりの船員がいたようだった。正確にはガーゴイルが排除してしまったのでわからない。
島にはこの草原と、灯台のような塔のような見張り台のような不思議な建物が建っていること以外は特になかった。ロイス達はアジトよりこの妙な建物が気になったので、調査してみることにする。
白いその塔には、入り口と呼べるものはなかった。少なくとも、そう見えた。
「窓もねーし、どうやって入んだ?」
「そもそも中に入れる仕様なのでしょうか…」
「………うーん?」
そう、ロイス以外には。ロイスには、この塔は太陽まで伸びるのかと思うほど、長く見えていた。入り口は開いていないものの、白いその塔のレンガの一つだけ黒く見えた。ここを押せば開くんじゃないか、という予感があったのである。
問題は、この塔の入り口が他の2人には見えていないことだ。何故なのだろう?とは思いつつ、その黒いレンガを押してみた。
ゴゴゴ、と石の擦れる音をさせながら、ぽっかりと穴が開いた。
「…なんかわかんないけど、開いた」
「どうなってんだ?!ロイ坊、お前なんでこのレンガ押した???」
「えっ…色が違ったから…?」
「………お前さんの瞳は、万能だからなぁ。ま、いいや。入ろうぜ」
ガーゴイルは、ロイスが解析の瞳を使ったのだと思ったようだった。しかし、ロイスは全く魔法を使わずにそれが黒く見えたのである。何故だか違う、とは言えなかった。
ぽっかりと開いた穴の先は、真っ暗だった。入ろうぜ、と言ったガーゴイルもかなり入るのに警戒している。何があるかもわからない、地面があるのかさえ分からない恐怖の中、ガーゴイルは意を決して塔の中へ踏み込んだ。
ガーゴイルが塔に入ってから、数秒空いた。ロイスとディックも、思わずゴクリと唾をのみこむ。
ニュッ、と黒い中からガーゴイルの顔と手が出てきて、手招きをしてきた。どうやら安全らしい。
「…うわ…!凄い」
「お、驚きました…!」
「だろ?俺も思わず叫んじまったよ!がはは!」
ディックとロイスが見たのは、壁一面の本棚だ。それも、見たことのない古代語のグリモワールや古い魔法の教科書ばかりを集めた本棚だ。塔の真ん中には、螺旋階段があり上に延々と続いているようにみえる。そう、この塔はグリモワールを貯蔵した巨大な図書館だ。
幾千いや、幾万のグリモワールが未だ存在していることに、驚きを隠せない。
魔法書がたくさん集まっているだけあり、魔力も溢れんばかりに塔に充満している。
問題は、この塔の最上部はどこか?ということだろう。ロイスが見る限り、この上は無限に伸びていそうだった。
ガーゴイルは、知ってか知らずか浮遊魔法でびゅーんと上に飛んでいく。ディックとロイスも、それぞれ壁一面に聳える本のタイトルを見ていく。手に取ろうとしても、グリモワールが決して触れさせないところを見ると、2人はグリモワール達に選ばれていないのだろう。
「ミスターグリモワールが見たら一生出てこないだろうなぁ」
「でしょうね…むしろこの塔の管理人になりそうです」
「でもこの中から一冊を探し出すのは難しいよね。飛んできてアピールして欲しいくらい。俺のグリモワールも降ってこないかな…」
ああそうか。石版にある”囚われる”とはおそらくそういうことなのだろう。この図書館に魅了されて出てこれなくなる、という暗喩なのだろう。
ディックとロイスは背表紙のタイトルを見ながら、ガーゴイルを待った。かれこれ10分ほど待っているが、ガーゴイルが戻ってこない。
やっぱり、かなり上に長いんだな…とロイスは勝手に思っていた。
「よっ、と」
「ああ、ガーゴイルさん。上はどうでした?」
帰りは転移してきたガーゴイルに、ロイスが聞いた。
「まぁ500mくらい行ったら屋根だ。ただよぉ、この螺旋階段が途中でなくなっちまうんだ。まぁそれ以外は普通だな。ただ本が屋根ギリギリまで詰まってるだけ」
「へぇ…螺旋階段があっても、これじゃ本棚に届かないですよね?何のための螺旋階段なのかなぁ…」
「俺に聞くなよ…」
「何のグリモワールがあるか見やすくて探しやすいからでは…下から見上げるだけではわかりませんし…取るのは誰でも魔法で取れますし」
そうかも!とディックの意見にロイスは頷いた。浮遊魔法と風魔法ができず、ドラゴンも持たない者には螺旋階段を使って上に上がる以外に方法がない。本を取る、物を動かすなど簡単な念道魔法が使えない人はそもそもこの塔の入り口はわからないし、グリモワールが欲しいとも思わないだろう。
自分のグリモワールが欲しいと思っているロイスにとっては、確かに囚われてしまいそうなほど魅力的だった。
けれど、ロイスにはなんだか歓迎されていないような、そんな気がしていた。何かがジッと上から見下ろしているような、そんな気がするのだ。よくわからない。とにかくロイスの勘が早く出ろと囁いている。
「でも…」
「あ?どうしたロイ坊」
「ここに長くいたらいけないような気がする」
「ん?まぁ王様に報告に行かなきゃいけないしな。腹減ってきたし、外でっか」
「うん、外に出た方がいい気がします。行きましょう、ガーゴイルさん」
ロイスは、素晴らしい魔術書達をぼんやり見上げている2人をさっさと外に追い出した。ロイスは最後に出るつもりだったが、不意にローブのフードが引っ張られた気がした。
「…?…気のせいか…」
気にせずにロイスは2人を追って塔の外に出た。
すると、なんと外は真っ暗だった。
「えっ夜じゃん!」
「おう。やっぱり出てよかったぜ。お前さんの勘が正解だ。あの塔の中は時間が狂ってるみてぇだな。たった数十分が半日だぜ」
ええ~、とロイスはびっくりしたがよくわからない勘はこれだったのかと我ながら賞賛である。いや、そんなことよりも早く家に帰りたい。ジュニアに夜には帰ると約束してしまったので、早めに帰らないと家か最悪の場合、国が黒焦げになってしまうかもしれない。
3人は、すぐに転移して国王に報告をした。
国王は、不思議な塔の話を聞き自分も行きたいようであったが時間が狂う塔に、じいやや王族が行かせてくれるはずはなかった。
結局、学園イチのグリモワール好きミスターグリモワールが派遣されることになった。塔の中に入った時のミスターグリモワールはもう大変な状態だった。興奮しながら螺旋階段を登り、なんと未だに出てきていないという。たまに食事を差し入れに行くと食事がなくなっているので生きてはいるようだ。
正しく、ミスターグリモワールは囚われてしまったようだ。
「いやぁ、半日いたつもりが外に出たら一ヶ月経っててびっくりした。でもまたすぐに行くよ!」
と、のちにミスターグリモワールは語る。
そう、ミスターグリモワールが授業にきたのは一ヶ月後だった。その手にはたくさんの魔術書が抱えられている。例の塔で仕入れたらしい。
霧隠れの島の塔は、時狂わせの塔と呼ばれることになった。今後は、グリモワール専門家によって少しずつ調査をしていくことになった。
そんな中、ロイス達も、通常通りの生活に戻っていった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
精霊姫の追放
あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。
「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
精霊に愛される(呪いにもにた愛)少女~全属性の加護を貰う~
如月花恋
ファンタジー
今この世界にはたくさんの精霊がいる
その精霊達から生まれた瞬間に加護を貰う
稀に2つ以上の属性の2体の精霊から加護を貰うことがある
まぁ大体は親の属性を受け継ぐのだが…
だが…全属性の加護を貰うなど不可能とされてきた…
そんな時に生まれたシャルロッテ
全属性の加護を持つ少女
いったいこれからどうなるのか…
魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした
たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。
死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる