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第三章
第9節 白い悪魔
しおりを挟むとうとう、学園生たちのバカンスは終わろうとしていた。ぞろぞろと生徒たちは船に乗り込み、島を旅立とうとしている。帰りは、風魔法で船を押していき、また学園に着いたら結界内に転移する算段だ。
そんなわけで、第2学年の仲良し三人は艦長室でのんびりとカード遊びをしているわけである。正確には、三人と三頭だが。
「あーあ、もっと遊んでたかったなぁ。俺毎日働きっぱなしなんだから、一年くらいここにいたってバチ当たらないよ」
「ロイスはメタスターなんだからきたくなったらいつでも来れるじゃない!」
「ロイスがいなくなったら王族の護衛回らないんじゃないかなぁ…」
ドラゴン達は三頭で重なり合うようにして寝ている。ジュニアに至っては腹を出して寝ている。
フェリはその様子を見て可愛いと思ったのだろう、竜達を撫でている。キルヒもカード遊びは飽きたのか、乾燥したお菓子をカリカリと食べている。
急に手持ち無沙汰になったロイスが、フェリに聞いた。
「フェリ、夏休みは実家に帰るの?」
「ええ!今年は仔竜がたくさん産まれたから、大変なの。ロイスとキルヒは?」
「任務」
「グリモワールの練習かな」
ロイスは自分で言って自分で悲しくなってきた。しょんぼりしたロイスに、2人は同情しつつ宥めた。
そんなやりとりをして楽しく過ごしているうちに、夕飯の時間になったようだった。気分変えるべく、三人は意気揚々と食堂へと向かって歩く。
ぴたり、とロイスは歩みを止めた。すぐにジュニアがぴょんとロイスの頭の上に現れた。
「2人とも、先にご飯に行ってきてよ。ちょっと俺、用事思い出したから」
きょとん、とフェリとキルヒは首を傾げている。ノクとアンジェラもくるるん?と鳴いて首をひねっている。
だが、2人は素直にそうなの?と納得して2人で先に歩いていった。
ロイスがイライラしているのか、珍しくチッと舌打ちをした。
「だから手を出すなと言ったのに!馬鹿ディック!何のために"そういう”命令をしたと思ってる!ったくじいやも何考えてんだ!こうなることもわからない後継者なんてクソだ!!」
ロイスは、2学年の船の甲板に転移した。食事時だからか、甲板には竜達以外生徒はいなかった。
そう、まただ。また雲に入った途端、襲撃のようだった。
数日前ディックから姫を救出したという話を聞いたが、ロイスはディックにくれぐれも手を出すなと伝えてあったのにもかかわらず、ディックは姫を王城に転移させたと言った。当然、地下牢にいたはずの大事な人質がいなくなれば空賊は騒ぐし、新たな獲物を捕まえようと躍起になるはずだ。今回の場合、次の獲物はこの学園の船になるわけである。
今度は、空賊も本気だ。嵐が来てもいいようにご丁寧に船に結界を張っているのがわかった。
「主人、どうする?」
「ぶっ殺す」
「おおっと…あまり派手にやるでないぞ。国に船が落ちたら大惨事になってしまうからな」
「じゃあ消し炭にする」
ロイスはだいぶディックに恨みがあるようだ。楽しいバカンスを邪魔する奴は何であろうと許さないといった感じだ。さすがにジュニアも殺気立つロイスに苦笑いである。
もちろん、ディックにはその会話は聞こえており、かなり耳が痛い。救出しちゃえばいいや、と救出したがこうなるまでは考えていなかった。今になってじいやの”ちぃと失敗したの”の意味がわかったディックである。
ロイスの隣に、ジュリアス、リリィ、ディック、ロジナルドが転移して来た。彼らが気づかないわけはない。
空賊の船が近づいている。どのみち、戦って退ける以外に道はないのだ。ロイスがぱちり、と指を鳴らすと超級魔法使いの白いローブに成り替わる。そして、いつものようにフードを目深にかぶる。
「ディック、後で覚えていろよ」
「…すみません…」
「俺とディックで母船に乗り込む。ジュリアスとリリィさんはどれでもいいからたくさん他の船に乗り込んで壊滅。学園の船に近づく空賊の船はジュニア、お前が片付けておけ。王子は学園の船達の防衛を頼みます」
「はいはーい!バシッとやっつけよ!」
「……ジュリアスさんの手綱はしっかり握っておきますので…」
空賊の母船は、おそらく一番大きく黒い旗が掲げられているものだろう。そこには、空賊の指揮官かボスがいるはずだ。ロイスはそれを倒すか、敵意喪失させるのが目的だ。ジュリアス達は陽動で、こちらも混乱と敵意喪失を促すのが目的だ。ジュニアはロジナルドと共に学園の船を守るのに一役かってもらうようだ。
「暗殺の技術は一流って聞いているし、俺は助けないからな。賊のボスの首でもとってこい」
「ご心配どうもありがとうございます」
「俺”達”の楽しいバカンスを台無しにするやつに慈悲はない。徹底的に排除する。行くぞディック!」
はぁ、と情けない返事をしたディックだったが、ロイスはディックと共に瞬時に敵の母船の甲板部分に転移した。驚いたのは空賊の船員達の方だろう。なにせ、急に知らない奴が転移して来たのだ。驚くしかないだろう。
ロイスは愛用のナイフをローブから出すと、駆け出した。
ぐぎゃっ、ザシュ、キンッ、ドシュッ…そんな音がし始めた後、そこには白いローブの悪魔しかいなかった。
船員達は悲鳴をあげる。敵襲だ!敵襲だ!と騒ぎ出すが、すでに数十人は血を流して倒れていた。
ロイスにとって、空賊程度の魔法使いは数のうちに入らない。そして、任務のために人を殺すことに躊躇いも慈悲も感情もない。ただ粛々と戦力を排除して行くだけだ。すでに甲板の船員達はほとんどが生きていない。
「あ、悪魔だ…!白い、悪…ギャッ!!」
甲板は血の海だった。ただ、ロイスのローブには血の一滴も付いていないため赤い中に咲く一本の白薔薇の様にも見える。ロイスは超級保護結界を薄く全身にかけているため、血に濡れることはないのだ。
一方、ディックはロイスに言われた通りこの船の船長に当たる人物を見つけていた。艦長室の様なものはないようで、舵の前で突然の急襲に驚いている人物が一番偉いのだろう。周りの男たちがその人物を取り囲んでロイスを待ち構えていた。
「おおおオメェ達!敵襲だ!!ぶっ殺せ!!!」
『アッ、アイアイサー!!!』
もちろん、それは叶わなかった。
ごとり、と何かが落ちる音がする。そこに居たはずの人の顔が、ない。船員達がギャアッと言ったのは、それに驚いたからか、はたまた絶命する瞬間だったからなのか。わずかに生き残る船員達は凄惨たる状況に泡を吹いて倒れた。
すでに、ディックは仕事を終えて、白い悪魔の横に立っていた。
白い悪魔の足元には、震えているまだ若い船員がいた。
「助けて欲しいか?」
白い悪魔は、そう船員に聞いた。ガクガクと、船員は頷く。
「撤退の合図を出せ。そうすれば、もう居なくなる」
「わ、わがり、まじだ…ッ!」
もはや船員は恐怖で泣いている。ズボンが濡れているところを見ると、失禁しているようだ。無理もない。
白い悪魔ことロイスは、もうだいぶ気分がすっきりしたので、この船員を殺す気は全くない。むしろ、こんなものを見せてしまってかわいそうな気すらしている。しかも、アジトに帰れば後ほど超級魔法使い(ガーゴイル)が壊滅作戦に駆り出されているはずだ。そうなればこの船員は、おそらく命はないだろう。余計にかわいそうだ。
「…空賊なんて、もう辞めなよ。このまま逃げた方がいい。アジトに帰ってもいいことなんてないよ」
そう言い残したロイスは、2学年の船に転移した。
もちろん、ロイスとディックには返り血一つ、ついてはいない。
母船から、赤色の狼煙が上がった。あれが、撤退の合図なのだろう。撤退の合図とは別に、ほとんどの船から火の手が上がっているところを見るとジュリアスとリリィがうまくやってくれたのだろう。
ロジナルドと人間体のジュニアはのんびりと空を見ている。暇だったのかもしれない。ジュニアがロイスに気がつき、ロジナルドの横からいつの間にかロイスの頭の上に仔竜姿で座っていた。
「戻ったよ」
「おかえりなのだ主人!ロジナルドが美味い紅茶をくれたぞ!」
「お前紅茶の美味い不味いなんてわかるの?まぁいいけど…ああ、撤退していくね。よかったよかった。ね、学園長」
「ああ、ほんとだ!生徒に何もなくてよかったよ。あ、ジュリアス君!リリィ君!無事で戻ったね」
ロジナルドとロイスはよかったよかったと2人して感慨に耽っていた。ジュリアスとリリィも怪我もなく普通に帰ってきた。
ちょっとリリィがげんなりしているところを見ると、相変わらずジュリアスの手綱を握るのは大変そうに見えた。
「あー久々に身体動かしたからお腹空いたな。ディックもお疲れ様」
「…余り役に立てずすみませんでした」
「そう?まぁ運動がてら俺が大体やっちゃったけど、大将とってくれたし?俺の死角のフォローもしてくれたから、動きやすかったよ」
戦闘の際、確かにディックは表立って動いてはいなかったが、シャドウユーザーの影を使って敵の動きを止めたり、ロイスの背後からの敵を排除したり。もちろん、大将の首を文字通り取りつつロイスをサポートしていた。それを、ロイスは評価したのだろう。
ロイスはもう怒っていないようで、ご飯ご飯と呟きながら消えてしまった。食堂に食事に行ったのだ。
ディックは、はああ、と今日何度目かのため息をついた。
「へぇ、ロイスが褒めるなんて珍しいじゃないか。ディック君、ロイスに意外と気に入られてるよね。僕なんかさ~一緒に任務連れて行ってくれるまで5年もかかったよ!」
「ロイスさんの動きに合わせたり予測できるようになるまで、私もかなりかかりました。ディックさん、あなたは自分を責めているかもしれませんが、ロイスさんはディックさんの技術を評価していますよ」
「!そ、そうなんですか…」
「ええ!じゃなきゃ今頃あなたは母船で転がってますよ」
リリィは笑いながらゾッとすることを言ってきた。
ディックはそれを、ロイスが使えない!とボコボコにするのだと思った。さすがのディックもあの母船の惨状を考えると血の気が引いた。
それを見たリリィが慌てて否定した。
「ああっ、そうではなく…!ロイスさんはそんなことしませんよ!そうではなくて、ロイスさんの動きに合わせられないと色々なものがぶつかったりジュニアさんがぶつかったり魔法で黒焦げになるって意味で!!」
「な、なるほど…?」
「まぁロイスの倒した相手と頭がぶつかって気絶したりするくらいだよ~!何しろロイスは早いからさ~」
「な、なるほど…」
それはそれで怖いのでは…と思ったがディックはそれを言わなかった。単純に、褒められて嬉しいと思えばいいということなのだろう。
じゃあねー、とディックたちは別れの挨拶をするとそれぞれの船に戻っていった。
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