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切ない気持ち
しおりを挟む魔法陣で飛ばされたあのダンジョンから街に戻って、私たちは一度宿に戻った。
私の服もローブも、まだ濡れてて気持ち悪いから、急いで着替えてさっぱりした。
で、今みんなで酒場に集合してるんだけど、私は聖女ムーブをやめ、普段の私でみんなと接している。
いやーー、もう、すごーく楽!
やっぱり私に清楚な聖女ロールは無理ゲーでした。
シオンには無理してるのバレてたし。
「それにしても、フェルマが魔物の群れに飛び込んで行った時は焦ったよ。聖女に攻撃魔法はないし、素手だったし、まさか自分を犠牲にしようとしてるのかと血の気が引いちゃった」
イグニス様が肩をすくめて言うので、私はしゅんとした。
「うう、心配させてしまってすみません」
「俺は前科知ってるから大丈夫だろうとは思ったけど、あそこまでとは思わなかったな」
「前科って何?」
不思議そうなイグニス様に、シオンは私が絡んできた男たちをぶっ飛ばした話をしてしまった。
……まあ、いいか。もう全部知られちゃってるんだもんね。
イグニス様たちはまた爆笑してたけど、もういいんだ。今日はやっとやってみたかったこと、出来るし。
今、私の目の前にはお酒のジョッキがある。
初めて飲むんなら、甘くて飲みやすい、果実酒がいいってリアナが教えてくれたの。
そう。もう、脳筋聖女を曝け出したんだもん。いくら飲んでもいいんだもんねー。いざ飲まん!
ぐび。
うわーおいしーい!!
いくらでも飲めそう!
「おい、あんま調子乗ってがぶがぶ飲むなよ」
シオンが苦言を呈してきたけど、へへーーん。私は腐っても聖女。もし酔っても状態異常を回復する魔法で治せるのだ!
神殿にいた頃も、ひどい二日酔いの人をよく治してたんだよね。
……ーーーーーーと、私にもそう思っていた時期がありました。
「きゅ、きゅあ(キュア)~~……」
ぼしゅ、と立ち消えてまた発動しない魔法。
なんと酔いすぎた私は魔法の発動をミスしまくって、ぐでんぐでんになってしまった。
「あーあ、だから言わんこっちゃないって」
シオンの呆れた声と、
「うーん……確かに残念聖女かもしれない……」
笑いを含んだイグニス様の声がぽやんとした頭に響く。
「シオン、フェルマを宿に連れて行ってあげてよ」
「ーーーま、しょうがねえな」
ぽわーとしていると、ふわっと体が浮いて、シオンが私を抱きかかえていた。
今はあの認識阻害のローブを着ているから、顔は見えない。でも雰囲気で、なんとなく今笑ってるんだろうなって思った。
「お前、もうこんな飲み方すんなよ」
「ふあい……分かりましたぁ」
シオンのぬくもりと匂い……なんか安心するなあ。
「あはは、シオンの抱っこ気持ちいいよー」
上機嫌で言ったら、
「……ったく、無防備すぎだろ……」
「んーーーー?何てー?」
「何でもない……」
宿の部屋に着くと、シオンは私をベッドに下ろしてから、
「もう眠いだろ。寝ろ」
そう言って毛布を掛けてくれた。
「うん……眠い。おやすみシオン」
とろとろと眠気に抗えなくなって、瞼が閉じていく。
「おやすみ」
ぽんぽん、と頭を撫でられた。
その手の暖かさに、ふと、ダンジョンでのシオンの美しかった顔と、シオンの熱い肌の感触が甦ってきて……
また、きゅ、っと胸が苦しいような、切ないような。
これ、何なんだろうな。気持ちいいな……
ーーーーーー夢うつつに、唇に何かが触れたような気がした。
気が付いたらいつの間にか、朝になってた。
うう、頭が痛い。ぎぼぢわどぅい……
でも今度はばっちり状態異常回復の魔法が発動して、すぐに元気になったけど。
……うん。もうお酒はほどほどにしよう。
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