【完結】東京異世界派遣 ーー現場はいろんな異世界!依頼を受けて、職業、スキル設定して派遣でGO!

大濠泉

文字の大きさ
96 / 282
第二章 白鳥雛派遣:魔法使い編

◆32 王妃と若い男の密談②

しおりを挟む
 精製する前の魔石の原石を砕いて粉にする。
 その粉を熱であぶって吸引するーー。
 それが、この世界での麻薬であった。
 今現在、ドミニク=スフォルト王国で麻薬が蔓延まんえんしているのは、王妃ドロレスが配下に命じて、この麻薬をばら撒いているからであった。

「これで、ますます金も権力も手に入り、他人の心も思いのままにできるわ。
 もっとも、其方そなたの心も、これで操れればのう」

 王妃は悪戯イタズラっぽく笑って、若い男の顎先を、指でなぞる。
 男はやんわりと、その指を退しりぞける。

「私が持っている魔石には〈魔法封じ〉が籠められていますからね。
 王妃様の魔力では、出力が足りませんよ」

「ふん。わらわにも、あの小娘並の魔力があればのう。
 ーーでも、代わりに、正真正銘の女の魅力で、其方の心を掴むまでよ」

 魔石には様々な種類があり、込められる魔力も性質も異なる。
 だが、その魔石を身につける者の魔力に応じて、効果が発揮されるのは変わらない。
 ターニャ王女のような魔力が豊富な者は、魔石の効果が十分に発揮される。
 だが、王族に連なっていても、魔力が乏しい王妃ドロレスでは、魔石から魔法力を引き出す力は限られていた。
 だから、魔法効果を充分に確保するためには、かえって沢山の魔石を装備する必要があった。
 王妃の両手には、どの指にも指輪が嵌められている理由である。
 彼女は派手好きと思われているが、実は様々な魔力を籠めた数多くの魔石で、我が身と地位とを守るためでもあった。

 それに、魔石は、封じ込めた魔力を維持するにも期限がある。
 封じられた魔力が、日にちが経つと、徐々に目減りするのだ。
 だから、魔石の魔法効果を保つためには、少なくなった魔力を充填チャージするか、新たに魔力が封じられた魔石を手に入れるしかない。

 王妃がアレックと懇意になったのは、貴重な魅了チャーム魔石を外国から手に入れる彼が、絶えず魔石を必要とする王妃にとって便利だったからだ。
 王国は魔石を含めた鉱石資源が豊富だったが、なぜか魅了魔石(麻薬原石)の埋蔵量は少なく、しかも採掘が禁じられていた。
 なので、王妃は魅了効果を維持するためにも、アレックに魅了魔石を外国から持ち込んでもらわなければならない。
 もちろん、本来なら魅了魔石は輸入自体禁じられているが、王妃の権力で、アレックの交易は〈宝石や鉱石の研究〉という体裁で目こぼしされていた。

 だからといって、いつまでも危ない橋を渡りたくはない。
 いまだに魅了魔石を欲しがる王妃に、アレックは呆れた顔をする。

「私が儲かるのは大変結構なんですけど、王妃様も王権代理になられて、もう何年も経つのですよ。
 そろそろ身を預けられる配下ぐらい、できようものでしょう。
 魔石に頼ってばかりなのは、いただけませんな」

 ただでさえ、王妃様アナタの魔力は少ないのですからーーと内心、思っていた。
 が、それは口にしないで、アレックは目を細める。
 王妃は上気した顔で、若い男を見上げた。

「なにを言う。妾には其方しかおらぬ。
 いや、其方がおりさえすれば、魔石も手に入るし、愛も得られる。
 其方だけが頼りなのじゃ」

 他人をおとしいれようとする者は、他人を警戒することをやめられない。 
 今、王妃ドロレスにとって、身も心も委ねて良い存在は、目の前にいる若い男だけだ。
 魔石や薬物を格安でくれるばかりか、毒物や刺客まで手配してくれる。
 さらには、自分がのし上がる方法も教授してくれるーー。

 二人は見つめあい、濃厚なキスをした。

「愛してる。本当よ」

 王妃がうるんだ瞳でささやいた。
 親子ほども歳差のある若い男が、あやしく笑う。

「悪い女だ」

「あなたのせいよ」

「なんでも、私のせいですか」

「あなただったら、あの小娘だって……」

「ご自分の娘なのに」

「義理の娘よ。可愛くないわ」

「そうですか? 可憐な方ですよ。ターニャ王女殿下は」

「アレック! あなた、まさか!?」

 王妃が目を怒らせて、アレックを突き放す。

 その時、ドアのノックの音がした。
 老執事が軽食と琥珀酒こはくしゅを持ってきたのだ。

 二人は何事もなかったかのように、ソファに座り直す。
 執事が退室すると、アレックは狡猾こうかつそうな表情を浮かべた。

「面白い情報があります。
 昨夜、裏街道の居酒屋でささやかな商談を行なっておりましたら、面白い客がやって来ましてね。
 なんと、ターニャ王女の侍女たちと、雇われた魔法使いが……」

 いきなり、王妃は立ち上がる。

「まさか、其方と妾の関係がーー!?」

 男は王妃に寄り添い、震える身体を優しく抱き締めた。

「いえいえ。彼女たちは単なる物見遊山で居酒屋に訪れただけですよ。
 私がロバートと名乗ったら、素直に宝石商だと信じてくれました」

「あの小娘はーー」

「ターニャ王女が直接乗り込めるような店ではありませんよ。
 どうやら異世界から来た魔法使いが、夜遊びと洒落込んだようで」

「むう。例の魔法使いは、王が強引にねじ込んで来た案件じゃ。
 面倒なことになったわ。
 アレがいなかったら、いつでも小娘をれるものを。
 まさか、あの小娘が、本当に召喚魔法を使えるとは……」

 王族には召喚魔法が使える血が流れている。
 だからターニャ王女は、ヒナを召喚できた。

 が、王妃ドロレスに召喚魔法は使えない。
 王権代理を拝命したのに、これからどれだけ実績を積もうと、自身が女王になれぬ最大の理由だった。

「王が病床で寝込む前に、子をなせなかったのが悔やまれるわ」

 ドロレスは指を噛む。
 若い男は木彫りの杯を片手に、感嘆の声を上げる。

「あの異世界から来た魔法使いーーさすがに、凄まじい魔力量でした。
 魔石の力を借りずとも、私程度でも霊波オーラが見えるほどです」

「やはり、小娘より先に、その魔法使いを亡きものにーー」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

SE転職。~妹よ。兄さん、しばらく、出張先(異世界)から帰れそうにない~

しばたろう
ファンタジー
ブラック企業で倒れたSEが、 目を覚ますと――そこは異世界だった。 賑やかなギルド、個性豊かな仲間たち、 そして「魔法」という名のシステム。 元エンジニアの知識と根性で、男は再び“仕事”を始める。 一方、現実世界では、 兄の意識が戻らぬまま、妹が孤独と絶望の中で抗っていた。 それでも彼女は、心ある人々に支えられながら、 科学と祈りを武器に、兄を救う道を探し続ける。 二つの世界を隔てる“システム”の謎が、やがて兄妹を結びつける。 異世界と現実が交錯するとき、物語は再起動する――。 《「小説家になろう」にも投稿しています》

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

処理中です...